眩しい光


「本当はパパとママに会いたい! すごく会いたいの……! メグは元気だよ、本物のお姫様になるんだよって伝えたい……! でも、そんなこと言ったらアッくんに心配かけちゃうから、アッくんには心配かけたくないの。すごく良い人なの」

「そうだね、真っ直ぐな人だよね」

「うん。…………初めてだった。無理して笑わなくていいって、ママ以外の人に言ってもらえたの。だって不安だったし、パパとママはどうなったかなって、悲しんでないかなって、怖かった。あんなに真っ直ぐな人にメグもなりたい。“あ、このひとがメグの王子様だ”って電気が走ったの。だから、メグは笑わなきゃ。アッくんのために」


 ホントに王子様だとは思わなかったけど、とメグは笑う。

 正直な感情を、表情に、言葉にするメグ。

 私にはそんなこと出来ないって、こんな子にはなれないって、思ってる。

 けれど、この子なりに信念があって、それなりに抑えつけていたものがあったのだろう。

 誰もが何かを抱えて生きている。人間は難しい。知れば知るほど難しい。


「アッくんもチーちゃんも、カレンちゃんは少し怖いけど、でもみんなだいすき。だって嘘つかないもん。メグが描いてた世界ってここなんだろうなって感じたの」


 だからみんなに笑って欲しいだけなのと、涙を流してでも一生懸命に笑って話してくれる。この子の前では汚い嘘なんかつきたくない。

 素直に尊敬するし、自分も正直に生きようと思った。思ったことを言葉にするって普通なら結構勇気がいることだけど、メグの生き方も良いかもしれない。


 ──「メグさん、アーサー殿下がお探しですよ」


 ホールの眩い光を背に、彼は言った。ハント公爵には似つかわしくない声。私がこの世界に現れなかったら婚約者になったであろうカレンに話しかけるような、優しい声で。

 普段メグにはそんな声出さないのに。彼なりに気遣っているのか。


「アッくんが? お話終わったんだ! いま行く!」


 花が咲いたように笑うから、あぁ本当に好きなんだろうなって、そう思った。

 メグたちは出逢う運命だったのだろうか。

 もし、わたしたち異世界人が現れなかったらどうなっただろうって、たまに考える。

 アーサーとカレンが結婚して、それからハント公爵は、どこかの誰かと出逢って突然恋に落ちて結婚したり。追っかけの誰かと仕方なく結婚してたかもな。

(この感じで恋するのはちょっと想像出来ないけど、一応・・人間だからなぁ)


 ifもしなんて考えたって私たちは此処に居るし、これからも生きていくつもりだし、どうしようもないけど、彼らの運命を奪ってないのかなって、申し訳無く思ったりする。

 メグがカレンに思うように。

 私も、ハント公爵が辿る筈だった運命を奪っているのだろうか。


「ブルちゃんごめんね、チーちゃんを独り占めして。カレンちゃんは?」

「っ、別に……、私のものでもないですから。カレン嬢は残念ながら帰られました。何か用でもあったのですか?」

「うん、謝りたかったの。でも今度にする。たぶん疲れてるもんね、ありがとブルちゃん!」


 ドレスの裾をヒロインの如く摘んで、耳元のパールを宙に舞わせ、レースのリボンをはためかせながら、「じゃあね! ふたりともだいすき!」と、いつものなんにも解ってないような馬鹿みたいな笑顔で、光の中へ飛び込んでいった。

 いつもあぁやって笑って、隠していたのかな。

 私には眩しい。すごく眩しい。


「良い子ですね、あの子はホントに」


 私がそうぽつり呟くと、「お前と陛下が認めるのだから間違いないのだろうな」なんて珍しく笑った。

 いやいや。私と陛下の重みの差ぐらい理解してほしい。

 でもそうやってハント公爵が優しく笑うぐらいだから、やっぱりメグはヒロインだな。


 ともあれこれでひとまず終わったのかと一息つくと、虫と梟の鳴き声が夜風にのって聴こえてきた。

 風に流れる雲が月を隠すと蓄光する花々が途端に輝いてみえて、まるで夜空が逆転したみたい。


「さて、帰りましょうか」

「ああ。そうだな」


 まだ騒がしい大ホールをくぐり抜け、私たちは足早に馬車へと乗り込んだのだった。

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