恋人的なものができました


「…………はい?」


 私は驚いてハント公爵を見たのだが、彼はただ真っ直ぐ前を陛見つめているだけ。どうやら本当に検討がついていたらしい。

 しかし何故ハント公爵?

 公爵家というぐらいだから国でも重要な人物なのか。それともただ単に王家の血筋?

 色々と頭の中で考え困っていれば、さすが国王。私を安心させるかのように優しい声で名を呼んだ。


「千聖殿。そなたは最初に現れた場所が心地良いと言っただろう?」

「はい、その様に申しました……」

「あそこは公爵家の領地でな、自然豊かで四季もあり美しい場所だ」

「へぇ……」

「それにブルー・ハント公爵は騎士団を纏めるほど剣術にも長け、公爵家の当主としてもとても優秀なのだ」

「き、きしだん……氣志團?」

「そうだ騎士団だ。部下からの信頼も厚いし何よりそなたを守ってくれるであろう」

「騎士団……なるほど……」

「それにほれ、見ての通りイケメンであろう? まぁ、人に対しては少々冷たい所もあるが面倒見は良いし優しいやつなのだ」

「はあ……」

「顔に似合わず浮ついた話のひとつも無い」

「わぁ……」


(なんか……すごいプッシュしてくる……)

 困ったように相槌をうっていれば、隣のハント公爵はそっぽを向いてまた溜息。それにしたって陛下は自分の息子と扱いが大違いじゃないだろうか。


「私の自慢の甥なのだ!」

「へ? あ、はい、とても、素晴らしい方ですね」


 フフンと自慢気に語る様は、ハント公爵が本当の息子だとでも言わんばかり。やはり王家の血筋か。こんなにも天は何物も与えるなんて理不尽だな。

(つか実のご両親はどうした)


「本人は女性に興味が無いようだしなぁ。言い寄って来る女性は数多居れど、どうもブルーに似合う女性が居らず将来が心配だったのだ。しかし何という事だ! 並べばより似合いではないか! これで私は安心して死ねるぞ! なははは!!」


(うわー、どうしよう。めっちゃ嬉しそう……)

 ウキウキしながら話す陛下に心から笑えない。苦笑いするしかない。一国の王なのにただの親戚のおじさんだな。

 ハント公爵もそんな陛下に慣れた様子。きっといつも通りの事なのだろう。なんて平和な国なんだ。


「陛下、まだ死なないで下さい。仕事が沢山残っております」

「うむ! それもそうだ!」

「陛下、それと本人の意思も聞いたらどうですか? 世界の違う人間なのですから突然婚約などと言われたら困るでしょう」

「………うむ、それもそうだ」


 そう言われ、すこし心配そうな顔で「して、そなたはハント公爵との婚約をどう思う……?」と聞いてくる。

(いやいや。どう思うって。え、断れるわけないよね? あんな嬉しそうにしてたのに断れるわけないよね??)

 メグはあんな感じだから、「えー! 王子様とかスゴーイ! 全然オッケー!」なんてノリで答えちゃったのだろう。

 でも私はイケメンだからとホイホイ釣られたりはしないぞ。顔が良いから性格も良いとは限らないだろ。


「そのー……、突然申されましても、なんと答えれば良いか……。素敵な方だとは思うのですが、会って数日ですし……」

「そなたの言う通りだ……。しかしそれなら婚約は丁度良いだろう! 互いを知れるチャンスだとでも思ってくれ! それに千聖殿を保護する上でブルーの元が最も安全だ! …………もし……相性が悪いのなら……遠慮せず申してくれれば良い……」


(そんな申してほしくなさそうな顔で言うー?? 逆に言い辛いじゃん! てかどうしよう。社会ってこんなに平和だったっけ……3日で平和ボケでもしたのかな……)


「えぇーっと。その〜、私の夢をご存知の上で陛下がそうだと仰るなら、まぁ……はい。承知しました」

「うむ! 決まりだな! 私は嬉しくて堪らないぞ!! 今日は宴だ!!」

「あはは〜……」


 ご機嫌に宴の指示を出す陛下に対し、もう笑うしかない。

 ハント公爵はそんな陛下に三度みたび目の溜息をついて、本日初めて私と視線が絡んだ。目付きの悪すぎる深い青の瞳。確かにイケメンである。今日も髪はさらさらだ。


「本当に良かったのか。お前の立場なら断る事も出来たのだぞ」

「いやアレをどう断れと」

「しかし婚約だぞ? 黙っていれば後に結婚する事になる。それでも良いと?」

「はぁ……まあ……それぐらいは私だって分かってますよ。でも、この国の人達、良い人そうな方ばかりで、それが良いって言うんなら、それでも良いかな、って」

「では相手も誰だって良いではないか。それこそ殿下でも」

「いやっ殿下はチョット……、いやいやっ! 今のナシ! 夢さえ叶えられるなら私は誰でも良いんですけどね! そう! でも今回は私の要望を聞き入れた結果、陛下が公爵様を選ばれただけで!」

「ふん。…………そちらの世界では、女性にとって結婚は大事ではないのか?」

「んーー……、結婚が全てだと思っている女性は、そりゃあいらっしゃるでしょうね。私はそうは思いませんけど。する気も無かったですし」


 ハント公爵は私の言葉に偽りがないか、確かめるように暫く睨んだ。3秒程だったろうが、時が止まったような気さえした。

 ふん、と言って視線を陛下に戻し、「まあ愛だのなんだのと面倒じゃなくて助かるが」と呟く。この人も結婚なんてする気が無かったのだろうか。いや、逆にしなきゃいけないから嫌だったのだろうか。

(後継者争いとかあったりするのかな……。醜いものには関わりたくないんだけど……)


「そうですね、それは私も同じです。致し方無い場合以外はなるべく放っておいて下さると助かります」


 私も、面倒な愛なんかもう求めない。求めたくない。ゴンみたいな犬に与えるだけで十分だ。恋人といえど他人だから、結局気を遣って疲れるだけ。

 こちらに暮らしている女性がどんな思想なのかまだ分からないが、そんなことを思うハント公爵がしつこく確認するぐらいなのだから婚約や結婚が面倒なのだろう。貴族だから後継者だけでなく、家門や体裁等も気にしなければならないのだろうか。

 前の世界でも王室とか天皇家とか面倒そうだったからな。どこかの阿呆みたいに酔っ払った勢いで婚姻届とか出したりしないだろうし。

(え? てかわたし結婚したら公爵夫人ってやつ?? やば。……まぁ、何とかなるでしょ……)

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