知らんぷりで味わって。いたら巻き込まれた。


「えー!? チーちゃんもアッくんと結婚するの!? じゃあメグは!?」

「そうよアナタ! 最初に来たのはメグなんだから!」

「そうコロコロ変えられては私も困ります!」

「い、いや、そもそもまだカレン殿との婚約も……、」


「あんな女はアーサーに相応しくないわ! 頭は良いかもしれないけど愛想が無いのよ!」

「メグもカレンちゃんこわーーい!」

「メグはいつもニコニコしているからな!」

「し、しかし一国を背負う責任はカレン殿が一番、」


「国母になるのよ!? 愛想が一番じゃない!」

「メグ頑張るよー?」

「そうだぞ! メグだって今頑張っているではないか!」

「う、うむ、しかし千聖殿には来て早々感心させられ、今後への期待も、」


「だってチーちゃんはメグより生きてるもーん! メグより出来て当たり前だもーん!」

「確かに見た目は綺麗だけれど、アーサーには年上の妻なんて似合わないわ! それにメグが可哀想じゃない!!」

「そうだ! 私はこんな地味なドレスを着る女は嫌だ! 愛らしさが足りん!」

「そんなものより国民の上に立つべき人として、いや、だからそう焦るな、カレン殿との婚約も解消していないのだから……!」


(えっと……何か分からないけど何かが繰り広げられている……。しかもちょいちょい侮辱されてない……?)

 ここでまず人物紹介をしよう。

 王の名はオースティン

 王妃の名はクレア

 そして王子がナナシ、ではなくアーサー

 その婚約者(悪役令嬢的な)がカレン

 メグは3ヶ月程前にこの世界に来たんだとか。さっき話でそう言っていた。


 そして、繰り広げられている皆の話から察するに、近年よく見られる転移者が婚約者を奪っただのなんだのとかそういった類の話だろう。

(にしてもただの家族喧嘩感が否めねぇ……)

 陛下の尻に敷かれてる感もなかなか。

 政治的権力はもちろん陛下の方が強いのだろうけど、家族の立場としては王妃の方が強いのか。服とかインテリアとかこだわるタイプなのかな。


 仲が良いのは十分に分かったが、この痴話喧嘩を聞く限り一夫多妻制ではないらしい。それが余計ややこしい。大体こういう異世界って側室とか居そうなのだが。

(まぁ無いからこうなってるのか。え、ていうか私を置いて話を進めないでよ……。しかも国に留まってほしいって、結婚して欲しいって意味なの? そりゃ何らかの仕事はさせてほしいけど国の長を支える役目はちょっと重すぎやしないですか。いやつかムリ……!! だってアレ・・でしょ!?)


 しかし酒が美味いな。なんて一旦考えるのをやめ現実逃避。

 自国の代表的なワインだと言っていたっけ。丁寧に葡萄を育てられる環境を想像すると、田舎の方も平和そうだ。自給自足なのも国家としてポイントが高い。

 とにかく私にはもふもふを与えてくれ。


「──ッで!? そなたは!? 千聖殿はどう思うのだ!? 流石に本人の意見を聞かねば先に進めないだろう……!?」


「へ?」

「まぁそれもそうね……」

「ふん、確かに一理ある」

「そうだよ! 勝手に決めるのは駄目だもん! チーちゃんはアッくんと結婚したいの!?」

「ええ……?」


(この王様め! 面倒になったからって最後は私に押し付けやがった! つうか話振ったの自分じゃん……!)

 はたまた呑気に酒を飲んでいた代償か。

 結婚したいか、だなんて質問そりゃこんな阿呆とは結婚したくないし、たとえ本心であってもご両親の前で「誰がこんな息子と結婚なんかするかボケ」だなんて言いたくても言えない。

 国に留めておきたい気持ちは分かるけど。

(あ。阿呆もボケも不敬、不敬っ)


「えーっと……、そう仰っていただけるのは大変有り難いのですが……その、状況もよく分かっていないですし……」

「千聖殿の言う通りだ……ちと話を急ぎすぎたな。その反応が本来なら普通だな……申し訳無い」

「いえ! 謝ることでは! 私は夢さえ叶えられれば満足なので。お相手の方に強いこだわりは無いです」

「夢か。どんな夢かね、遠慮なく申してみなさい」

「はい。大したことじゃないんですけど、犬と静かな場所でゆったり暮らしたいと願っていました」


 メグと王妃は〈アッくん〉に興味が無いようで安心しているみたいだが、当のアーサー王子は何言ってんだコイツみたいな顔。とりまお前にだけは言われたくない感を醸し出しとく。


「そうか。静かな場所とは……、具体的にはどのような場所かね?」

「んーー」


 どうやらアーサー王子との結婚は避けられたようだ。良かった良かった。誠に良かった。

 しかし具体的にとは難しい。私の世界にある地域を言っても伝わらないし、ましてや無人島とかサバイバル的な事は別にしたくない。ある程度文明は欲しい。この世界だって来たばかりだなのだ。


 そこでふと、来た時のことを思い出した。

 突き抜ける青い空。

 木々の隙間を縫うように吹き抜ける風。

 素直に、心地良いと思えたあの感覚。


「私が現れた、あんな場所……、ですかね……」

「あら。いいんじゃないかしら? わたくし今もの凄く納得したわ」

「クレアもか! ふむ、良いな。なるほど、分かった」


(え? 本当に分かったんですか?)と思わず口に出そうになるぐらい、めちゃくちゃに納得している陛下と王妃。いいんじゃないかしら、とは一体どういう意味なのか。

(まぁ、要望を伝えて納得してくれたのだから……、取り敢えずは良かったのか……?)


 下手に口を出すとまたややこしくなる。いまは、もう少しだけ、美味しいお酒を味わうか。

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