聞き間違いであれ!
ランチが終わり、それから──。
本日はこれで、と皆が席を立った瞬間「ご機嫌麗しゅう」と女子の声。視界が数人のパステルカラーで彩られた。なんだか金持ちそうな感じ。
親しげにメグと会話している。貴族令嬢とかいうやつか。
庭園をお散歩していたらたまたま、なんて聞こえてきたが、どうせ噂でも聞きつけ私の顔でも見に来たんだろう。上から下まで横目で観察し、どんな奴かと伺う視線は異世界といえど気持ち悪い。
私とは話す勇気がないようなので、「じゃあねメグちゃん」と既に距離感バグった呼び方で挨拶して周りの令嬢にも会釈して、私はまた書庫に向かったのだ。
メグは屈託のない笑みで「チーちゃんばいはーい!」と言うと、「お知り合いの方ですの?」と無駄に惚けた質問が飛び交っていた。
──そして今、
ランチの場に居た大臣達が私の話をしたのか。陛下たっての希望でディナーを共にすることとなった。非常に迷惑。
「そなたは実に勉強熱心だと聞いたが、それは本当かね」
「いえそんな……、勉強熱心だなんて。私にとっては知らない世界ですから、知ることが楽しいのです」
「はっはっは、実に謙虚、実に素直だな!」
陛下と、王妃、王子と、それにメグ。
非常に疲れるメンバー。今夜はアニーとゆっくり部屋でご飯を戴く気で居たのに。
「えへへー! おーさまのお陰でまたチーちゃんとお話出来るっ!」
「色々積もる話もあるだろうからな。遠慮せず話しなさい」
メグは誰に対してもあんな感じだが、気を遣うという事はしないのだろうか。それなら私も気を遣わずに聞きたいことが沢山ある。
貴女の最期はどんなでしたか、とか。でも今は食事中、皆の気を害してしまうかもしれないのでやめた。
何を聞こうか悩んでいると、「スマホないと超ヒマだよねー!」なんてタメ口で喋ってくるメグ。因みに年下である。19歳の同じく大学生。地元は横浜だそうだ。成人式を楽しみにしていたらしい。
(横浜の成人式か……。うん、まぁ想像はつく)
正直言うともう少し食事も堪能したいのだが、思ったより“あの子”が煩い。あとテーブルマナーにも気を取られて全然味に集中出来ない。絶対もっと美味しいはずなのに。
まぁランチでは殆ど喋れなかった私達だから、本当に積もる話が色々とあるのだろう。向こうからしてみれば『知ってる人が来た!』ってテンションが上がるだろうしお酒も入ってるし。
(けどお酒はハタチになってから! は、元の世界の話だから良いか。ここでは……何歳なんだろ……)
私とメグの会話を微笑み耳を傾ける陛下。
聞いたことのない言葉があればすぐにメグに聞き、会話に入り込んでくる殿下。
殿下の興味津々な姿に微笑むのは王妃。
何となく、理想の家族に見えてしまう。
普通の幸せ、良いなぁ。
ディナーはもう既に終わっているのだが、まだまだ話し足りない様子のメグに、陛下はワインの追加とおつまみを持ってこさせた。
これはまだまだ寝れそうにないなと覚悟したが、芳醇だが飲みやすいワインにコクのあるチーズ、それを味わったら、ふむ悪くない、と罠にはまる。美味しいものは裏切らないから致し方無い。
(今の自分、貴族すぎて笑う)
さて、そろそろ宴もたけなわ……と言いたい所なのだが、殿下が邪魔してくるせいでメグの話が終わらない。痺れを切らしたのか、陛下自ら私に質問を投げかけた。
どんな事を学び、友とはどんな会話をし、どんな事に興味があったのか、と。
当たり障りのない回答。一から十まで全て話すなんて重すぎだろう。ましてやほぼ初対面の人に話す気なんてない。
父親に殴られていた事を知っていたのも元彼と唯一信頼出来た友二人だった。彼だって最初は信じられないと言って、心に負荷をかけてしまった。
(いやお前が話せって言ったんだろ、とか思ってたけど普通に考えて重いわ。てか今思えば私は彼を本当に好きだったのだろうか。ゴンの方が圧倒的に好き度合いが大きかったからなぁ〜)
まぁ色々あったが良い経験になったのは確か。諦めという名の悟りを開けたのは、恋人のお陰でもある。
そして未だお喋りしているメグ。殿下はなんかもう、うざい。
それを止めるかのように、ぽつり、と陛下が衝撃的な発言をした。
「しかし困った。来訪者が二人も居ては息子は誰と結婚させれば良いのか……」
(………アッレー?? 聞き間違いかなぁー??)
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