心遣いとは何ぞ……
──……という伝説もありまして、この世界に来訪者が現れる現象はごく
「一部の国では強制的に喚び出したりもするそうですが、私達はその様な事は一切行なっておりませんのでご安心下さい」
「来訪者が現れたときは時代の転換期だと私達は考えています。魔力、知力、はたまた武力……、様々な伝説の中で来訪者という存在は語られてきました。私達にも貴女様にどんな力があるのか分かりません。千聖様自身も知らないことかもしれません」
「私達はこれが国の転換期だと捉え、それ故に来訪者様には我が国に留まって頂きたく存じます」
「なるほど。まぁ……なんとなく理解できました」
「いやぁ〜、しかし我が国でまさか二人現れるとはなぁ」
「ああ。召喚が失敗し数人同時に、なんて話は聞いた事があるが……」
丁寧に解りやすく說明してくれる大臣と神官兼研究者達。
その間つまんなそうに髪の毛をイジっているメグと、ただ私を観察する王子。
説明された内容を分かりやすくメモに纏めた。
つまりはこうだ。
・異世界人をこの国では〈来訪者〉と呼ぶこと
・稀だが、世界でもみられる現象だということ
・意図的に喚ばれたわけではないということ
・来訪者は歴史に名を刻む、ということ
(いや最後のは重すぎねぇか……)
とはいえ思ったよりもラフに正直に話してくれるあたり、やっぱり良い国なのかも。
気持ち悪い
(口は開かねぇわ、そもそもまだ名乗ってくれてもねぇ……! オイ、ナナシの王子さんよぉ。いい加減名乗ってくんねぇとお前は一生ナナシの王子だぞ! つうかジロジロ見てくんじゃねぇ……!)
暫しメモを見ながらそんなことを考えていると、邪魔しちゃいけないと思ったのか、大臣や神官兼研究者はただ黙って私を待っているようだ。待たれるぐらいなら質問したほうがマシか。
「私からも質問宜しいでしょうか?」
「はい、何なりと」
「先ほど書庫で地図を拝見したのですが、この国は周りを4つの国で囲まれていますね。諸外国との関係性を聞いても良いですか?」
少し驚いて顔を見合わせる大臣と神官兼研究者達、だがメグは未だにつまらなそうだ。
「もうそこまで確認されたのですか……。実を言いますとメグ様宛の贈り物や、外遊の打診が増えまして……。あわよくば自分の国にも恩恵をと、そう考えているのでしょう。ですが来訪者が現れる以前でも我が国は閉鎖的でしたから、中立国ですし。直ぐに変わるなんてことは無いかと」
「そうですか……えぇーっとそれじゃあ国民の生活水準は? 税金を滞りなく払えて尚且まともに生活できるレベルですか?」
「貴様ッ! 失礼ではないか!? この私を侮辱する気か!?」
「……はい?」
ナナシの王子は声を上げ言った。
私だってこの国で暮らして欲しいと言われ、国民がどんな生活を送っているのかぐらい知りたい。それに先に聞いておけば後に現実と相違ないか確認もできるだろう。
だが何故か王子は怒る。
もちろん殿下を侮辱しようとこんな質問をした訳ではない。私はマリー·アントワネットにはなりたくないのだ。それにもし生活水準が低いのなら『お前』のせいでもあるだろう。高水準で生活できているのなら堂々と言えば良い。
(そもそも最初に掛けた言葉がソレかい!)
「ま、まぁまぁ、殿下……。この国を知ろうとそう質問されているのですから。侮辱しているわけではないかと……。それに隠すことだって何もないでしょうに」
「………うむ。それもそうだ」
(うむ、じゃねーよ、この王子はすぐ感情的になる馬k………おっと、この先は不敬というやつか)
危ない危ないと、食後の紅茶を一口。
「千聖様、生活水準ですが……。貴族国家であるため貧富の差は御座います。税金についても領主管理なので我々が把握していない部分もあるでしょう。ですが土壌は豊かで水にも食にも困っていない筈です。この国自体がほぼ自給自足なので」
「そうなんですね。有難う御座います」
なんだか曖昧な答えだった。まぁ全てを把握出来るわけないし、そりゃこの暮らしからしてみれば貧富の差はあるだろう。てかほぼ自給自足に驚きなんだが。
とりあえずメモしておこうかとまた紙と見つめ合っていると、ついに痺れを切らしたのか「ねぇ〜〜〜、つまんなーーーい! メグもチーちゃんとお話した〜〜〜い!」と騒ぎ出す女。チーちゃんとは誰だ。まさか私か。
メグの言葉に誰よりも早く反応したのは、言うまでもなくナナシの王子だった。
「チーちゃん? この女の事か?」
「うん、そーだよ〜。つまんないからさっき考えたんだぁ〜。可愛いでしょ〜?」
「流石メグは優しいな。分け隔てなく接せる素晴しい心遣いだ」
「えへへ〜〜!」
(こっ、心遣い……? しかもつまんないって……周りの人に失礼じゃないかい……? てかあだ名を付けられた私の! 意見は!? 許可とかさ……!)
だが私はたかがこんな事で感情的にはならないぞ。どうぞ好きなように呼んでくれ。いちいち怒るほうが無駄だ。ただ微笑んで早く時間が過ぎればいい。
しかし、この阿呆そうな王子達に無意味には関わりたくないなと、それだけは思った。
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