もう一度信じてみようか
「
「え? もう? 名残惜しいけど、仕方ないですね……」
結論から言うと、文字は読めた。
異世界の本とは
(勉強って本来はこういうもんなんだよなぁ〜)
正直内容なんてあまり頭に入ってないけど、どちらにしろこれから説明はされるだろうから軽い予習だとでも思っておこう。
書庫の案内は「細かい本を探すなら司書のケビン様に聞いたほうが早いですが、大まかな場所なら私が」とアニーが先導してくれた。それに付いて回るカイはというと、本の壁にぐるぐると目を回している。
「千聖様は勉強熱心ですね。私は拳を振るうことしかできないので少し羨ましいです」
まるで自分を卑下するように呟く護衛騎士のカイ。隣の芝生はいつだって青い。
「……人は、無いものねだりですから。私だって格好良く誰かを守りたいです。でも、たぶん向いてない」
「そんな、」
「いやほんとに! 死ぬ前に振り回した傘はとてもじゃないけど人様に見せられるような姿じゃなかったですもん! そもそも格好良く振るえてたら今頃死んでません!」
「ふふ! あ、すみません、つい……」
「いいえ、逆に笑ってくれて安心しました」
「カイさん。私のお仕事の邪魔しないで下さい!」
「邪魔!? 邪魔なんてとんでもなーい」
アニーとはどうも今朝の一件で何となく打ち解けて、互いの警戒心も薄れた。
それを隣で感じていたカイも、アニーとは打ち解けたようだ。私に対してはまだよそよそしいが、私が護衛対象だから仕方が無いだろう。
「千聖様が優しい方で良かった」
ふわりと笑って、本当に安堵した顔で言う騎士のカイ。
正直、優しいって何だろうか。『いいよ』『大丈夫だよ』『気にしないで』って言う人が優しい人を指すなら、私は間違っていると思う。
まるでなにも無かったように許す人が一番恐い。結局相手には興味無くて、基準は【必要か不必要か】だ。
許してくれるからと調子に乗っていればすぐにポイッと捨てられる。
高校生の時にしていたバイト先の店長が本当に“優しい”人だった。
手を止めお喋りばかりするスタッフを優しい物言いで何度も注意するも改善されないから、5回目の時スッパリ首を切っていたっけ。
夜遅くまでシフトに入れる都合のいいスタッフだったが、あれは本当に
怒鳴る人のほうが優しいとは思わないけれど、私は一体どんな“優しい”人だろうか。
「さあ、それは……どうでしょう」
「え?」
考えれば考えるほど分からない。
表裏一体のような問題は、宇宙の端を探す気分になっていつも途中で思考を止める。
「うぅう〜! 二人共急いで下さいぃ〜……!」
「あはは、ごめんなさい」
不思議の国のアリスに出てくる白兎のように地団駄を踏むアニー。きっと私が遅れたらアニーのせいにされてしまうだろう。
それだけは避けたいから、ガーデンランチとしてセッティングされているらしい場所へ足早に向かった。
ともあれ異世界がこんなに素晴らしい人々ばかりなら確かに皆が望むだけあるなぁ。なんて、もしかしたら今のは
「きゃああーー! やっと話が出来るぅーー!」
「わわっ!」
「あ、ごめんごめーーん!」
姿を見せて礼をする暇もなく、いきなり抱きつかれた。しかもタメ口で。
普通に考えれば失礼だ。まあ皆の普通がこの人の普通とは限らないからグチグチ怒るほどでもない。私も
「千聖ちゃんでしょ!? あたしはメグ! すっごく会いたかった!!」
「は、はい、皆さま初めまして。天宮 千聖と申します」
「やだぁー! 超カターイ! 話したい事がいっぱいあるの! 早く座って座って!」
「っ、では……」
ジロリと睨み、上座に堂々と座る金髪碧眼の王子。
はて。
アニーから説明された話では、メグと神官兼研究者数名、それと役職が聞き慣れない大臣数名だったような。
王子が居るなんて聞いてない。
チラリとアニーを見ると、どうやらアニーも知らないらしい。
メグの第一印象は、距離感近い人だった。
あとは外国人かと見紛う程(化粧の仕方もあるのだろうが)人形みたいに可愛い。ハイトーンのミルクティーベージュにハイライトと、インナーにピンクを入れた、スタイリングに時間が掛かりそうなボブ。色白だしパステルピンクのドレスが良く似合っている。
確かにアニー達からしてみたらメイクにヘアにドレスにと時間が掛かって面倒そうだ。
だけどたった一人で転生してきて、本当に寂しかったのかもしれない。どれ位前に此処へ来たのかも分からない。
私と同じく一度死んだのだから、耐え難い経験を得ているだろう。
(それにしちゃあ馬鹿みたいにへらへら笑ってるな……)
ま。私も折角異世界に来たんだからもっと純粋に人と付き合ってみるのも良いかもな。
前は期待する事を諦めたけど、今は全く違う場所だ。世界も社会もそこに住む人間も違う。
ミハエルも、アニーもカイも良い人だ。
(ハント公爵は……一旦横に置いといて……)
そうであってほしいと願いを込めて、他人を純粋に信じてみよう。
これが
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