己の為か、他の為か。
「ほう。これは……、また若い女性か」
金の口髭を蓄えた、絵に描いたような王。
頭にのせた王冠と深紅のベルベットのローブを纏った姿を見れば、ひと目で王様だと分かる。
隣には同じく金の髪に、冠をのせた王妃。厳しそうな目付きはそれほどストレスが多い役割なのだろうと感じる。
両脇に立つのはおそらく宰相と呼ばれる役職の人と、もう一方の金髪碧眼が王子だろう。
そしてその王子の横に立つ女。綺麗なドレスを着せられ、化粧もバッチリ。ゆるふわボブでいかにも現代でモテそうな女子。
キラキラした眼差しを見てみろ。間違いない。あの子が先に現れた異世界人に違いない。
「二人目をお連れ致しました」
ハント公爵は私の横で片膝をつき、
「ふむ。そう堅くならずとも良い。名はなんと言う?」
「
「歳は」
「今年で22歳になります」
「何故ここへ来たのか分かるか?」
まるで私を探るように、簡潔に質問してくる。まだ貴方のお名前も聞いてないんですがと思う事はきっと『不敬』というやつなので今はただ質問に答えるだけにしよう。
「理由は存じ上げませんが、別の世界で死んだことは確かです」
「……何故、死んだか、覚えているか?」
「はい。…………っ、複数の男性に、強姦されていた女性を助けようとしたところ、警察が……あ、此方だと警備隊とか騎士とかみたいな存在でしょうか? が、到着する前に刃物で刺されて、死亡しました」
「それは、大義な事だな。……しかし、何故そんなにも落ち着いていられるのだ? 仮にも、死んだというのに」
「それは……恐らく、あの世界で、もう失うものが無かったからでしょう」
「……そうか。今日は疲れているだろう。過ごす場所ならこちらで用意している、遠慮せずゆっくり休まれよ。日を置いて色々な説明をする」
「お心遣い感謝いたします」
「公爵、付いててやれ」
「はっ、畏まりました」
指示をされ部屋を出ると、お部屋へご案内致します、とメイドらしき人。
此処からは私一人でいいとハント公爵が言うから、部下達はぞろぞろと会釈をして帰っていく。唯一ミハエルだけは心配そうな瞳を向けるから、大丈夫だよと小さく手を振った。
安心したように微笑むミハエル。
犬系男子はズルいな。いやあれはもうむしろ犬だ。
いっそ本当の犬なら飼うのに。
「行くぞ」
「あ、はい」
ギロリとまた冷たい視線を浴びせるハント公爵。その視線に顔が強張ったのは私ではなく、メイドの方だった。
それからまた歩くのだ。いつまで歩けばいいのだ。
遠いなぁ。城ってのは随分と入り組んでて広い。
普通に考えて政治的な話し合いをする場と、客が泊まる部屋が近いわけがない。
ズキズキと痛む腹部は、もう限界だった。
「どうした。もう歩けないというのか」
歩くペースが落ちていたのだろう。ハント公爵はか弱いフリでもしているのかと言わんばかりの顔をしている。
ただ痛いだけなのに。
立場的に私が我儘を言っても良いはずだが、しかし
そんなくだらないことを考えて暫し沈黙していると、先導していたメイドが焦ったように、「も、申し訳ありません……! 歩くペースが速かったでしょうか!?」と聞いてくる。
このメイドは私よりも公爵を恐がっているように思えた。何故ならチラリと公爵を見てそう言ったからだ。そんなにこの公爵は恐い人なのだろうか。
「いえ! 貴女のせいじゃないんです。ただ、さっき刺されて死んだもので……、傷が痛くて……いや正確に言うと古傷が痛むというか何というか……。もうとにかく痛い」
(いやわりとまじで痛い……ムリすぎる……)
これは我儘じゃない。事実だ。事実だから我儘じゃない。
とにかく一旦呼吸を整えたい。
「そそそそうで御座いますよね私ったら気が利かず……! っ車椅子をお持ち致しますので此方で少々、」
「そんな大層な! 一回休憩挟めば大丈夫ですから……!」
「そうだな。わざわざ車椅子など持ってくる必要はない」
「しかし……!」
「いや本当に休憩挟めば、ッひゃあ──!?」
急に重力が無くなったぞと驚いたが、公爵がお姫様だっこをしてきたのでそれ以上に驚いた。
「私が部屋まで運ぼう」
「え……え!? こ、公爵様がですか……!?」
「いやっ! ちょっと待って降ろして!」
思わず力んで余計に痛い。そもそも50を超える身体を運んでもらうのは申し訳無さすぎるし単純に怖い。
「自分で歩けますっ! ただ! 少し休ませてくれれば……!」
「黙っていろ。運んだほうが早い。待つだけ時間の無駄だ」
「ぐっ、ぐうの音ッ……」
「分かったなら力を抜け」
「っ〜〜〜……分かりました。お願いします……」
「あ、あ、あの、では……、此方です」
確かに安心して身体を預けれるぐらいしっかりした体躯だ。顔があまり近付かないよう、一応そっぽを向いてみる。
この人は冷たいのか優しいのか、どっちなんだろう。
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