果たして私のポジションは
冷めた眼差しで見下ろす団長、もといハント公爵と呼ばれた男。私自身もとくになんの感情もない瞳で見つめ返した。
「立て。城に連れて行く」
「あ、ハイ」
そう言われたので、というか、言われると思っていたので立ち上がった。
さっき刺された腹部はやはり痛む。我慢しながらゆっくり立ち上がり、前を向けば少しばかり驚いた顔。
「………まるで、自分の置かれた状況が分かっているみたいだな」
「え、いや、分かんないですけど。何となく、です」
目付きが悪すぎるぞハント公爵。一応『女子』なのだが。
声も低いし背も高いから怖がられるだろう。
接客のバイトをしているから分かるけど、色んな人間が居るからな。目付きは悪いけど端正な顔立ちだからまだ良い方だ。
「ふん、まぁ良い。馬に乗せろ」
「ハイっ……!」
指示された部下であろう男は、私の身体を支えて馬に乗せる。
私がしっかり跨ったことを確認して、彼も私の後ろに乗る。男一人に女一人乗せて重いだろうに。
(馬……っ! か、かわいい……っ!)
馬なんていつ振りだろうか。牧場と乗馬体験でしか触れ合ったことない。しかしなんて可愛いんだ。やはり動物は良いなぁと思わず鬣を撫でる。
すると「馬が怖くはないのですか?」と後ろで支えてくれている男。
「まさか! 可愛いじゃないですか。乗馬してみたくてわざわざ乗馬体験に行ったこともあるんですよ?」
「……珍しい、ですね」
「いえ、多分……私の世界じゃ、あんま珍しくないかと……」
「そうなんですか?」
はい、と振り向けば意外と距離が近かった。
テレビや映画じゃよく見るシーンだけど、実際自分がその立場になってみると案外照れるものだ。
垂れ目でクリーム色のふわふわした髪、それに見合ったふんわりとした笑顔。
犬系、といわれるジャンルなのか。こういう人は好感が持てる。たぶん単純に動物っぽいから、だと思う。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「あ、ごめんなさい。申し遅れました。
「私はミハエル·カーダンと申します。気軽にミハエルとお呼び下さい」
「宜しくお願いします、ミハエルさん。私の事も千聖と呼んで下さい」
互いに自己紹介を済ませると、「何だか落ち着いてますね」と苦笑いで聞いてくる。
「そうですか? さとり世代ってやつですか」
「はい?」
「い、いえ。なんでも」
忘れてた。ここは異世界だった。さとり世代とかいう単語は無いのか。
「……実は、つい最近も、他の場所で異世界から来た女性の方がいらっしゃって……」
「え!? 私の他にも!?」
「まぁ、驚きますよね。……その子は来て直ぐのときは泣き止まなくって大変だったと聞いていたもので、正直千聖さんを見て驚きました」
「そう、なんですか……」
あれ。ということは。その子が“聖女”ポジションでは。
きっとその子がヒロインだ。そうだな。そう信じよう。そうであって欲しい。
仮に私がその物語を盛り上げる悪役令嬢ポジションとやらだとしても、悟りを開きかけた私には無理だから。もふもふスローライフでいいから。皆から愛されたい願望とかないから。つうかイケメンを侍らせて何になる。
「あの、千聖さん」
「はい……っ!?」
「不安だとは思いますが、色々な説明は城に行って国王へ報告してからになりますので……、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫ですよ。私もこの状況を受け入れるしかないですし、貴方も仕事ですもんね?」
「へ? ええまぁ……。あはは、なんだか余計な心配だったようですね!」
「いえ! 心配してくれるだけ有り難いです!」
楽しそうにしていたのが気に入らなかったのか、ハント公爵はギロリと冷たい眼差しを私達に向けた。
見た目通りに厳しい人なのか、後ろで「ひぇ!」と小さく声を上げたミハエル。
「お喋りはここ迄にした方が良さそうですね」
「ハイ……その方が身の為です……」
「ふふっ!」
小さく呟くミハエルは、主人に怒られた本当の犬みたいで、なんだが少し、可愛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます