第27話 〜"心"編⑤〜

 まだ話したいことがたくさんあった。教えて欲しいこともたくさんあった。何より彼の意見が聞きたかったのに…。夏は、そんな思いを抱えながら空を飛んでいた。


 ―1時間前―

 「もしもし、すみません。」

 「夏!良かったぁ…早く帰って来いよ。まだ飛べるよな?人造人間のままだよな?」

 「はい。先輩はいますか?」

 「あ?あ、吉野なら…」

 「変わってもらえます?先輩の望む選択をしたいんです。」

 「吉野さ、今ぶっ倒れて、救急車で運ばれたんだ。」

 「え…?どういうことですか?」

 「まだ詳細は分からない。病院の場所は教えてやるが、来てもいいし来なくてもいい。ってことで、俺はもう行くから。あ、くれぐれも転ぶなよ。」そう言うと岡田は、夏の返事を待たずに電話を切った。


 岡田に教えてもらった通りの病院へ来てはみたものの、岡田やUNTOの社員たちの姿が全く見えない。とりあえず院内を彷徨っていると、手術中のランプを見つけた。光がついていて、扉の前には重時,絵石,磯辺の3人がいた。全員心配そうな顔をして、座ったり、立ったりして待っている。

 夏は少し離れたところで、3人を見ると、「何やってるんだろう、私。」と呟いた。

 「行かないの?」さっきより声が弱くなったSAKEが聞く。

 「何か、あそこには行きたくないな。何でだろう、嫌いな訳じゃないのに。」

 「嫉妬?」

 「分かんない。こういう時ってどうすればいいのかな。」

 「嫉妬した時、人間はいじけてぷんすか言うんだ。」SAKEの答えを聞くと、夏は病院を出ていった。

 病院の目の前には小さな公園があり、幼児とその保護者たちが何人かいた。

 彼女はそれも気にせず公園の砂場の前でしゃがんだ。「ぷんすか。」

 「多分そういう事じゃないと思う。」SAKEが今にも消え入りそうな声で言った。

 夏は脳内でSAKEと会話しようと思い、モードを切り替えた。「私どうしちゃったんだろう。」

 「吉野さんの一番の後輩は自分だと思っていたのに、他の後輩たちが自分より先に集まってたから、嫉妬しちゃったんじゃないの?」

 「ぷんすか。」

 「誰か気付いて夏にかまってくれるといいね。」

 SAKEがそういった瞬間、岡田から着信があった。「夏、お前は吉野の一番の後輩だろ。早く来いよ。みんな待ってる。」

 通信が切れた後、夏は「はぁ…。」とため息をついて立ち上がり、振り返った。…が、その場で動けなかった。

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