第26話 〜"心"編④〜

 「どうです?見つかりました?」苛立った声でそう聞くのは重時だ。

 岡田はコンピューターを覗き込んだまま「いや、まだだ。GPS機能を切られてる。夏ー、帰って来てくれよー。せめて連絡だけでも…。」と言った。

 「いいんじゃないか、一人で考えさせてあげるのも。」土曜日のため学校の仕事を抜けられた吉野は、ボソッと呟いた。

 岡田と吉野は、昨日の夜からずっとここで思い悩んでいた。そのため、二人とも疲れてイライラしたり、ボーっとしたりしている。

 「でも居場所が分からないと、どうすることもできないんだぞ?人間になったことも分からないし、データを移すこともできない。ここで考えてくれればいいのに。」

 「まあ、仕方ないですよ。混乱してるはずですし。」イライラが募る岡田を、重時が宥めた。

 

 「夏はさ、何が嫌なの?」だんだんと人格が形成されてきた夏の脳内で、SAKEが言った。夏とSAKEがバラバラとなって会話をしたのはこれが初めてだった。

 「先輩とか、UNTOと離れるのが嫌。忘れるのも嫌。あとあんた。SAKEとも離れたくない。」夏は淡々と答えた。

 嫌なことならスラスラ答えられることは、SAKEは理解していた。ただ、それをまとめて結果を導き出すのが難しいのだ。

 吉野や会社と一緒が良いなら人造人間のまま。だが、忘れるのを避けるとなるとそれは不可能だ。最悪の場合は人間になった夏に全てを教えることはできる。この人工知能SAKEと離れることを避けるとなると、記憶と引き換えに初期化することができる。

 「じゃあ、誰の喜ぶ顔が一番嬉しい?」

 「先輩。」

 「吉野さんね。彼は、どうしたら喜んでくれるかな?」SAKEは、少しずつ形成されてきた夏の人格を確認するように、質問していった。

 「うーん、分かんない。昨日、先輩も混乱してたから。…最初は初恋の人と同じ顔の人造人間だとしか見てくれてなかったけど、私を私として見てくれて、それでいて気に入ってくれてる。まあ、先輩がどっちを望むかは分からないけどね。」

 「電話してみたら、声で読み取れるんじゃない?」

 「それにはGPS機能をオンにする必要がある。」

 「もう戻ろうよ。みんな心配してるし、早く決断しなきゃ。いい、GPS機能オンにしも?」SAKEが夏のためにGPS機能をオフにしてあげていたのだ。

 「分かった。」

 SAKEは夏の返事を聞くとすぐにGPS機能をオンにした。

 その瞬間、岡田から電話がかかってきた。

 「もしもし、すみません。」

 「夏!良かったぁ…早く帰って来いよ。まだ飛べるよな?人造人間のままだよな?」

 「はい。先輩はいますか?」

 「あ?あ、吉野なら…」

 「変わってもらえます?先輩の望む選択をしたいんです。」

 

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