第25話 〜"心"編③〜

「もしも人間になりたかったら、どうするんだ?」実験室で、取り残された吉野が聞いた。

 「そのまま、時が来るのを待つだけだ。いつも脳内にいたSAKEが消える訳だから、本人にははっきりと分かる。他人からは、本人が言うか検査をすることで分かる。」

 「じゃあ、人間になりたくなかったら?」

 「…初期化する。」

 岡田が言いづらそうにそう言うと、吉野は「はぁっ!?」と声を上げた。「ってことは、今までのデータがなくなるのか?俺たちのことも?」

 「基本的な情報やプログラムは、最初に入れる。でもこれまでの細かい記憶はなくなる。」

 「人間になっても、記憶は消えるのか?」

 「だんだんと消えてく。別の記憶が入ってくるんだ。」

 「どうしてそんなプログラムに…?」

 「だってここは犯罪組織だぞ?人間になりたいって言ったら覚えてる方が酷だろ。」

 「確かに、まあ、そうだけど…。記憶を保てる方法はないのか?」

 「SAKEをコンピューターに移動させる。その場合、肉体には新しい人工知能を入れて新しい人造人間を作る。または…廃棄する。」

 「それだけか?他には?」

 「原始的ではあるが、人間になった夏に全てを教える。肉体は人間のように弱くなるし、身体能力も普通になってしまうが、本人が望むなら、ここで働くことはできるかもしれない。」


 「はぁ…」夏は二人の会話を盗み聞きしていた。最近自分の感情が豊かになっていくのはなんとなく感じていた。だが、まさかもうそろそろ人間になるだなんて、思ってもみなかったことだ。更に今までの記憶もなくすことに対して、ひどくショックを受けた。どうすればいいか分からず、ただただ走り出した。

 

 UNTOの本部がある建物を出て人気のないところまで行くと、夏は背中から羽を生やし、飛んで行った。アイアン○ンのように手と足を地に向けてジェットで飛ぶ方法もあったが、溢れ出てくる涙を拭きたかったので、羽を選択した。

 

 ずーとずーっと飛んでいくと、日付が変わる時刻になった。一休みしようとそーっと地上に降り立った夏は、羽をしまい、多摩川の土手に座った。「はぁ…。」もう何時間も考えていたが、未だに答えは定まっていなかった。


 結局その日は、午前10時頃まで川を眺めた。

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