第19話 〜"裏切り者"編④〜

 「重時はスパイだ」そう言いながら吉野はUNTOの本部の一室に入った。

 「重時だったかー。処分はお前が決めていいよ」

 「もう呼び出した。1時間後に、ここの屋上に。まず話を聞かないと」

 「流石のお前も、後輩には甘いんだな」神田は、吉野が部屋を出ていくと同時に、誰にも聞こえない声でそう呟いた。


 「わぁ、俺ここの屋上に来たの初めてなんです。風が気持ち良いですねー!」そう言いながら重時が屋上に出る。

 「今日はそんな話をするために呼び出した訳じゃない」吉野は重時のあとに続き、「お前の裏切り行為について、話したいんだ」逃げ道を塞ぐように腕を組んで立った。

 「何言ってるんですか、先輩!俺が裏切り者?」

 「とぼけるんじゃない。前にお前に色々質問した時、嘘をついたろ」

 「何を根拠にそんなこと言うんですか?」

 「惜しかったなぁ…目線は逸らさなかったし、特に挙動不審にもなっていなかった。ただ、脈は嘘をつけなかったな。少し冷や汗もかいてた」

 「くっそぉー…流石は俺の尊敬する吉野先輩ですね」

 「裏切り者になんか尊敬されてたまるか。認めるんだな?」

 「まず、俺の話を聞いてもらってからでも?」

 「5分だけくれてやる」

 「先週ボスに、どうやったら会員にしてもらえるか聞いたんです。そしたらボスは、スパイとして香取と接触し、吉野に俺が裏切り者だと気付かれなかったら良いと言って下さいました」

 重時がそう言う間にも吉野は携帯電話を耳に当て、元々通話で繋がっていた神田に「本当か?」と尋ねた。そして、携帯電話の向こうで、神田が「うん、そうだよー」と言ったのを聞いてから電話を切った。

 「信じてくれますか?」

 「ボスが言ってんだから当たり前だ。それより、お前香取と接触していたのか」

 「はい、こっちの情報を渡す代わりに、いくつかあちらの情報をもらいました」

 「内容を全て教えろ」


 重時は香取に情報を教えた時の会話を鮮明に思い出した。


 「この任務で他に潜入しているのは春野 あいこ,高尾 哲也です。生徒の中にもうちのが混じっていますが、誰かは分かりません。僕はあなたの部屋の捜査を担当することになりましたが、今のところ何も出ていないと報告しています」

 「お前含めその3人ならまだ新人だろう。それなら簡単に捜査を免れることができるな。だが、問題は生徒だ。お前の会社は中学生が働いているのか?」

 「いえ、普通の中学生ではありません。僕に知らされていることはそれだけです」

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