第18話 〜"裏切り者"編③〜
「―了解。おう。じゃあな」そう言って吉野は電話を切った。
「せいちゃん」パソコンで会員リストを確認していた夏が呼びかけた。
「…」
「先輩!!」夏はもう一度大きな声で呼びかけた。
「ん?ああ、磯辺は多分本当のことを言っている。脈も特に変化はなかったし、動揺する様子もなかったから」
「そうじゃなくて。これを見て下さい」そう言って、夏はパソコンを指差す。
吉野がパソコンを覗くと、会員リストに絵石と重時の名があった。
「いたのか絵石と重時。絵石はさっき一応話を聞いたけど、リストの名前は見落としてた」
「先輩がミスなんて珍しいですね。最近ずっと働きっぱなしですし、ちゃんと休んだ方が良いんじゃないですか」
「働くのは好きだからいいんだよ。それより、こいつ怪しいな」
「重時さんですね。また明日、話を聞いてもらって、それから判断しましょう」
「あぁ、そうだな」
「裏切り者がいるようです」UNTOの本部の一室で、杉浦が言った。
「そのことなら、気にしなくても平気だ」と、神田が呑気に言う。
「確かに、涼太は優秀な奴ですけど。裏切り者の対応はどうするんですか?」
「その時に決めるかな。大体涼太に任せるけど」
「そうですか…」
「そろそろいい加減にしてもらわないと困りますよ、吉野先輩」相談室でいつものように椅子に座り、イライラとした口調で絵石が言った。
「俺、お前のこと信用してもいいかな?」絵石の向かいに座り、疲れた様子で吉野が言う。
「はぁ?急にどうしたんすか」絵石は呆れて腕を組もうとしたが、その前に吉野に手首を掴まれた。「何なんすか!?」驚いて手を引っ込ませようとするも、吉野はさらに強い力で絵石の手首を掴む。
「お前、スパイじゃないよな?」
吉野の大きな瞳で睨まれても、あまり動揺しないのが絵石の長所だ。「はぁっ!?何言ってんすか、違いますよ!昨日から何かおかしいっすよ?」
吉野はホッと息をつくと、「ごめん、お前がスパイな訳ないよな」と手を離した。
それからしばらくして、ドアからノック音と共に「失礼します」と重時が入ってきた。
「おう、そこに座れ」と吉野が手前の椅子を指差す。
重時はその指示通りに座ると、「それで、話って?」と言った。
「特に重い話じゃないんだ。お前、今までの中でこれが一番大きな任務だろ?」
重時は、「そうなんですよ。こんなに長期的なの初めてで、疲れてます」と軽く笑顔を浮かべる。
「袖にペンのインクがついてる。確かに疲れてるみたいだな」そう言うと吉野は重時の手首を掴んで、重時の袖を擦った。
「えっ?あ、大丈夫ですよ。後で漂白しますから」と重時が手を引っ込めようとする。
しかし吉野は、さっき絵石にやったように、さらに強い力で手首を掴む。「いや、俺こういうの気になっちゃうからさ…そう言えばお前、すんげえ功績を収めたことあるらしいじゃんか。それで会員になったって、ボスから聞いたぞ」
「えっ?あっ…あぁ、あれはちょっとした偶然というか…まあ、ボスに認めてもらえる機会ではありましたね」
重時の笑顔をチラッと確認して、吉野が続ける。「今回の任務も、そういう偶然でもっと早く進むといいんだけどな」
「ほんと、そうですね。全く、香取はどうやって隠してんだか…」
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