第17話 〜"裏切り者"編②〜

 「あの、相談室を組織の住処にするの、やめてもらっていいすか」心理カウンセラーとして潜入している絵石が、呆れ顔で吉野に言った。

 「仕方ないじゃーん。校内だとここでしか話せないんだよ」

 「で、今日は何の用なんすか?」

 「お前、ボスと話したことあるか」吉野は身を乗り出し、コソコソと言う。

 何だそんなことか、と絵石は腕を組んだ。「ありますけど、作戦会議とか、任務報告の時だけっすよ」

 「そう言えば、功績を収めたことがあるそうじゃないか。お前ってすげえんだな」

 「功績を収めたら何か言われたりします?」

 「するかもな」

 「じゃあないっすね。俺、他の新人と同じようなレベルのことしかしてないですし、褒められたこと全然ないんで」 

 「そうか、ありがとう。ちなみに、お前ってまだ会員じゃないよな?」

 「流石にまだっすよ。何すか、推薦してくれるんすか?」

 「いや、そういう事じゃない。次に同じ質問を磯辺にするけど、余計なこと言うなよ」

 「理由教えてくれたらいいっすよ」

 この生意気な後輩めが、という思いを込め、吉野は舌打ちをした。  

 

 「先輩、話って何ですか?もしかして、調査が進展していないから…」磯辺は相談室に入ってくるなりそう言い、口を手で覆って目をうるうるさせ始めた。「そうですよね、先輩も私のせいだと思いますよね。私もそう思ってたところです。だって役立たずだし…ほんとに、ほんとにごめんなさいぃぃぃぃっっっっ!!…はっ、もしかして、クビ…ですか…?いや、仕事って辞められないんでしたっけ?…あぁ、ってことは死ぬしかないんですね。分かりました、腹切って自害致します。お世話になりました先輩…!」最終的に泣き出してしまった磯辺は、教室から走り去ろうとした。

 吉野はそんな彼女の手首を掴むと、「さっきから何言ってんだよ磯辺。俺そんなこと一言も言ってないし、思ってもないよ。今日は別の事で話があるんだ。ほら、座って」と優しく言った。

 空気を読める絵石は、自分が座っていた椅子から立ち上がり、磯辺に席を譲った。

 「それで、話っていうのは?」落ち着きを取り戻した磯辺は、真っ赤な目で吉野を見つめる。

 吉野は磯辺の手首を優しく握ったまま、「ボスと話したことはある?」と聞いた。綺麗な目は磯辺の瞳をじっと見つめている。

 「挨拶程度なら、したことがあります」

 「挨拶だけ?功績を収めたら、話し掛けられるけど、功績を収めた自覚はなし?」

 「はい、なしです」

 「そっか。ありがとう」吉野はやっと磯辺の手首を離した。

 「いえ。でもどうしてそんなこと聞くんですか?」

 「いや、まだ話したことない人と話してみたいなって、ボスが言ってて」

 「そうなんですね。じゃあ、私はこれで失礼してもよろしいですか?」

 「うん、じゃあね」

 吉野の挨拶の返事をしながら、磯辺は安心した様子で教室を出ていった。 

 

 

 

 

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