第2話 〜"UNTO"編②〜
春が目覚め始めた3月の木々が流れていくのを横目に、車に乗っている2人は仕事の話などの他愛もない雑談を楽しんだ。
八王子にある小さめのビルを借りた本部に着き、"何でも屋さんへようこそ!"とかかれた看板のある正面入口から入る。すぐそこには受付があり、橋本というきれいな女性が座っている。彼女は福岡出身だが、古い家のしきたりで許嫁と結婚することが嫌で、別の男性と東京へ逃げて結婚した。まだ21歳という若さで波乱の人生を歩んできたんだな、可哀想に。初めて彼女の話を聞いたとき、吉野はそう思った。
「こんにちは、吉野さん。」可愛らしい顔に温かく穏やかな声。社員だけでなく会社に電話してきた人は男女問わず彼女に癒やされている。
「こんにちは」吉野と夏が同時にあいさつする。
受付から見て左側にある1台のエレベーターの扉には、 UNTO という黒い文字。吉野たちの会社の名前だ。豊富な、という意味合いを持つ"うんと"をローマ字にしたら少し格好良くなったので、いっその事読み方も変えて UNTO《アントー》はどうだろう、と命名したのは、社員たちからボスと呼ばれている
吉野と夏はエレベーターに乗り込んだ。吉野は2・B1・2・5・B1という順番でボタンを押した。本部へ行くためのパスワードだ。この通りボタンを押さないと、何階を押しても893たちのたまり場へ辿り着いてしまう。
吉野は5つのボタンを押した後、少し間を開けてB4のボタンが押した。地下4階は、吉野や夏たちが所属するスパイ部のエリアだ。スパイ部には9名+1体が所属しているが、基本的に複数人で仕事をするので本部にいる人はとても少ない。
2人がエレベーターから降りると、新人の
奥から重時と同期の
「ただいま。夏、読み上げくれ。」吉野は自分の席に座り、腕を組んだ。
夏は吉野の向かいにある自分の席にちょこんと座り、作り物の目を開いたまま脳内の。
「依頼は、A中学校の校長を務めている
「ありがとう。つまり俺はこれからまた仕事って訳だな。何時からだ?」
「15時からです。そろそろ11時8分になるので、まだ少し時間はあります。」
「分かった。夏、行くぞ」そう言って吉野は立ち上がった。
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