第3話 〜"UNTO"編③〜

 14時55分26秒

 5分前行動を重きにおいている夏と吉野は、依頼人との待ち合わせ場所のカフェで、一番奥の席に着席した。

 向かいには、既にコーヒーを注文して座っていた依頼人がいる。

 夏(の脳内、SAKE《サケ》)は二人の顔を分析し始めながら話を録音した。

 

 男女で、二人とも43歳。女性は黒い髪が肩まであり、大きな目がゆったりとした印象を持たせた。一方男性は背が高く、目と高い鼻がキリッとした印象を持たせた。

 

 「それでは早速、お話を伺ってもよろしいでしょうか」吉野は、もう何度も口にしているこの台詞を流れるように発した。

 「はい…」


 夫婦の話はこうだった。

 約一週間前のある日、中学1年生の息子が怪我をして帰ってきた。部活は文芸部、スポーツ系の習い事すら特にしていない息子が怪我をするのは珍しかったので、夫婦は最初、息子がいじめられているのだと思った。しかし、右腕の骨にヒビを入れるほど、中学生の力は強いのか。クラスの集合写真を見ても、そんなに力が強そうなやつはいない…これは怪しい!と思い、ネットで色々と調べた。その結果、中学校の校長、香取 正章による暴力の被害の事件に辿り着いた。香取は今までに何度も、生徒に暴行していたのだ。それにも関わらず、起訴されたことも逮捕されたこともない。夫婦は不思議に思って、その事件を調べていった。すると、ポンッと一件のメールが届いた。UNTO からだった。何でも屋さんからメールが届いたのだから、これはチャンスだ!と依頼のメールを送った。そして今に至る、というわけだった。


 「それにしても、どうしてあなた方の会社からメールが来たのでしょうか」被害者の父親と思われる男性が言った。

 「そうですね…例えば、あなたが気になるニュースばかりを見ていたら、おすすめにはそのニュースと関連するものが出てくるでしょう?そんな感じですよ」

 男性の方も女性の方もうーん…?と首を傾げていたが、これに関しては犯罪なのであまり深く説明しない方がいいのだ。

 「それで、あなた方のご依頼は香取を調べることと聞きましたが、それだけでよろしいんですね?」

 「…というと?」また男性が声を出した。

 「いえ、調べてどうするのかなと思いまして」

 「…どこまでやっていただけますか?」今度は女性が聞いてきた。

 「いやぁー、うちは色んな部署がありますからねぇ。首が欲しければ差し上げますが、さすがにそこまでして欲しいと依頼する方はなかなかいませんね」

 「では、それ相応の罰を。どんな罰かは、裁判で決めてもらいたい」と男性。

 「分かりました。全て調べてから通報し、有罪判決を受けてそれ相応の刑罰になるようにしておきます」

 「ありがとうございます」依頼人は同時にお礼をいい、お辞儀した。

 「あの…ドッキリ、とかではない、ですよね?」突然女性が聞いてきた。

 「えっ?どうしてそう思われるんです?」

 「いえ、お二人ともお顔が綺麗ですので、役者さんかなと思いまして」言った後、照れ笑いを浮かべた。

 「ハハハ、そう言ってもらえると何だか嬉しいですが、ドッキリではありませんよ」吉野も照れ笑いを浮かべ、耳を少し赤くした。

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