第117話 サンクチュアリ①

 トーマは、ジャポニカ王国へ来ていた。


 そして、シンジに会っていた。


「例のモノだけど、アレ、ちょっと粗悪品だよね」


「えっ!そうなの?アレ、ある魔族が作ったモノなんだけど」


「そうか、それならちょっとわかる気がする。アレは、人間には刺激が強すぎるから、副作用が強く出て、ちょっとヤバい感じになると思うんだよね」


「どういう感じになるの?」


「ああ、魅了するチカラが強い代償として、加虐心とか性欲とか残忍性とかが沸き起こったり増幅したりして、それを抑えることができなくなる感じ?そして、それを満たす行為を繰り返すことで、そういう行為を心が渇望するようになって、止められなくなる一種の薬物中毒に似た症状になると思う。分析した成分から、そういう薬物が検出されたからね。もらったヤツは、危ないモノなんで、もうデータを取ったからこっちで処分しても良いかな?」


「ああ、ありがとう。忙しいのに、我がまま言って」


「いやいや、魔族が作ったっていう、その技術力は結構新鮮だったよ。とくに、魔力発動の原理と薬物の調合加減やその材料の種類には、僕たち人間には無い発想のものだったから、これからは魔族の魔道技術も、もっと研究しようと、ちょっと、モチベーションが上がるよ」


 オレたちが話していたのは、オレの故郷で前世の母親がしていた首飾りの残骸を見つけたため、その分析をシンジに依頼してた、その結果のことだった。


 そうか、アラクネは、魔族用のレシピをそのまま使ったから、効果も大きかったけど、副作用がきつかったのか・・・。


 サーヤにシオン母さん、辛かっただろうな。

 自分が自分でなくなっていくのに、抗う事も出来ずに・・・・。


 全ては、オレが勇者だったせいか・・・サーヤ、オレは何とか前世の決着をつけてやるから、安心して眠ってくれ。


 シオン母さん、何とかして探すから・・・・・もっと、クモを操れるようにならないと・・・・・100とか、200とか、300とか・・・・やはり、オレ自身が呪いから解放されないとダメなのか・・・・。



「あの~、申し訳ないんだけど、もう一つ頼まれてくれない?奢るから」


「ああ、それじゃあ、ジャポニカ酒の「喝祭」ってのを大瓶でキープしてくれないかな。アレ、好きなんだ」

「えっ?2番目に高いヤツじゃん!・・・まあ、いいけど、オレも飲むし」


「ごめんね、多分、僕が、君が次に来るまでには飲んじゃうよ」


「じゃあ、今の内に、たくさん飲むとするか」


 こうして、オレは、シンジにアーネへの贈り物を頼んだ。

 そして、かなり二人で飲んでいる時、シンジから、王国からの依頼の品がなかなか難しいとかの、マル秘の情報を聞く。


 ホログラム?

 立体映像?

 そんなの、何に使うんだろう?


 とにかく、その技術の開発が大変だけど、面白いと言っていた。



 そして、オレは、次の転移先へと向かった。


 もう、魔眼のチカラで、王都内には転移できるので、王都の居酒屋で、ギルと情報交換をした。


 ギルに酒と肴で、彼の任務を労った後、オレは、再び、ソフィーが居た教会へやって来た。

 オレは、教会でひたすら無心に祈れば、また何かを掴めるかもと思ったからだ。


 もう夕暮れ時で、魔道技術による少し黄色?橙色?的な照明が淡く、教会内を照らしていた。


 多くの人々が祝福を受けるために、教会内に居た。

 オレは、またしても、後ろから押される感じで、祝福の列に並ばされてしまった。


 そうして、また、ソフィーが祝福をしていた。

 だが、今回は、その横に、見習いの服装をした女の子も聖杖を振るっていた。


 フードが大きめでわかりにくかったが、近づいたら、それはサヤカだとわかった。


 これ、ヤバいかな?


 ちょっと、そう思った。



 オレの順番になり、オレの頭の上に聖杖が振るわれた。


 その時、サヤカの聖杖が光り輝き、また、それに呼応するようにソフィーの聖杖も光り輝き、二人を中心として周囲にキラキラと星のような光の粒子が無数に拡散されていった。


 それは、こころが清められ身体も癒される、そういった清浄さと、どこか厳かな、それでいてとても暖かい温もりで満たされる、そんな空間を作り出していた。


「これは、サンクチュアリの奇跡だ!」

 誰かが叫ぶ。


「聖女様のおチカラだ!」

 また誰かが叫ぶ。


「聖女様、聖女様、聖女様・・・・」


 口々に、皆が聖女様と呼び、讃え、ひざまずくのだった。


 オレも、皆に倣い、跪く。


『勇者様、よくぞおいで下さいました』


 あの声が心の中に響いてきたのだった。


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