第118話 サンクチュアリ②


『勇者様、よくぞおいでくださいました』


『あんたは?シンシアか?』


『はい、まさかこの教会に直接お越しになられるとは思いもよりませんでしたわ』


『ここは、色々とお世話になっている場所だからな。ところで、サヤカは、あれから大丈夫なのか?』


『警備が強化されましたから、もうあのようなことにはならないでしょう。ですが、王宮内では何が起こるかわかりませんので、またサヤカがピンチのときにはお願いしますね』


『まだ能力が未熟な今は、クモを大切にしろ。そう、サヤカに伝えてくれ』


『勇者である貴方が、直接言えばおよろしいかと。貴方、サヤカやソフィーを避けてますよね?』


『そりゃ〜そうだろ?アイツら、可愛いから、あまり仲良くなると情が移ってしまうだろ?オレには婚約者がいるのに』

(苦しい言い訳かな?)


『ソフィーの時に経験されましたでしょう?聖女とは信頼関係が必要なので、お互いを理解するためには、会話か、それこそスキンシップが大切だということは、ご存知ですよね?』


『・・・ああ、善処するよ。ところで、お前と繋がるには、オレの魔眼のチカラで何とかなるのか?』


『勇者様は、余程私と繋がりたいのですね?』


『ああ、悪いか?』


『うふふふ、そういう事ですか?貴方は、自惚れ過ぎですよ。未だかつて、勇者お一人で、全てを成した者はいません。なぜ、聖女たちを頼らないのですか?』


『もう、あんな事になるのはたくさんだ。それに、オレ1人の方が、面倒くさく無くていいからな。オレだけでやる、やらなくちゃいけないんだ。でも、お前のチカラは必要だ。だから、協力してくれ、頼む!』


『・・・それは、ムリです』


『最初から、ムリとか決めつけるなよ。オレは、お前が欲しいんだ。お前と繋がりたいんだ!』


『・・・ダメですよ、勇者様。私を口説くなんて。でも、ステキですわ。わかりました、出来る範囲でご協力しましょう。ですが、何度も言うように、それには能力をもっと高めなければなりません。貴方自身の能力とサヤカの能力をです。私は、サヤカの能力を高める手助けをしますので、貴方も頑張ってくださいね』

(殿方に口説かれたのは、いったい何年ぶりでしょう?勇者に口説かれたのは・・あのお方以来ですね。果たして、あのお方をこの方は超える事が出来るのでしょうか?)


『ああ、もちろん、頑張るよ』


 シンシアとの念話が終わると、辺りに起こった現象は止んでいた。


 ソ「長く祝福をしてきましたが、初めて見ました。サヤカ、あなた、もしや?(小声)」


 一部の信者から声が上がった。


「ソフィー様、万歳!」

「聖女様、万歳!」

「この国は聖女様に守られているぞ、みんな!」


「ありがたや、ありがたや」

 あるお婆は、うずくまり、泣き出していた。


 そして、ある者はソフィーを讃える。

「ソフィー様が、また聖女の御チカラを御振るいになられたぞ!」

「ソフィー様、すごい・・・」

「ソフィー様が、おられれば安心だ!」


 これを成したのはソフィーというふうに周囲には映っていた。

 それは、ソフィーが今までに多くの民衆に癒しを行ってきた事を信者たちは、もちろん知っており、それがためにこの現象がソフィーが行ったと思うのが自然というモノだった。


 ソフィーは困惑したが、敢えて、否定したりしなかった。

 それは、すぐに否定することによって、最近の女神信仰の復活に水を差し、信者の信仰心を挫くかもしれないとの配慮が働いていたのも確かではあった。


 しかし、ソフィーは、何よりサヤカを守ろうとしたのだった。

 聖女に目覚めてきていることが知れれば、ピエールのような彼女を利用しようと思うやからが必ず出てくる。


 ソフィーは、サヤカの事が知られる前に、早くサヤカが困難に対処できるよう、サヤカのチカラを高める手助けをしなければならないと誓うのだった。



 トーマは、ソフィーを崇め、讃える信者の中に紛れ込み、気配を遮断して、その場を離れた。


 ただサヤカだけはトーマを見つめていたのを、トーマは気づいていた。


『あの人は誰?私が知ってる人よね?シンシア、あの人の事、知ってる?』


『それは、時が来たら、いずれわかることですよ。それより、貴女はもっと鍛えられねばならない事が、よくわかりました』


『シンシア、わたし、天使の息吹を使えるようになるかな?』


『えっ?天使の息吹ですか?そうですね、これからの精進次第でしょうね』

(この、キュアの最上級魔法を?ひょっとして、勇者様のこと?)


『わたし、がんばるね』



 一方、トーマはカレンと念話をしていた。


『トーマは私というモノがありながら、あんなぶりっ子と・・』


『お前、そんな事で、この前魔王と知られるな、なんて言ったんじゃないだろうな?』


『そんなこと・・・・。でも、あの女、清純っぶってる割にはチョロいわね。こういう女に弱いんだから、とくに童貞は!』


『おいおい、オレのことか、それ?・・あっ、そうか、オレまだだったか・・・』


『今、なに?ルーシーってダレ?やっらしい~』


『心を読むな。まったく、これだから・・。しかし、ルーシーか・・王宮に乗り込めたら、彼女に会わなくちゃな。それと、聖女達にも・・・・』


 オレも、サヤカに負けないように、頑張らねば。

 それと、シンシア、お前との付き合いは慎重にするけど、でも、なぜかオレが魔王でも許してくれるという気がするんだがな・・・・そうか、シンシア攻略にはサヤカを・・・・サヤカがカギだな・・・・。


 オレは、それから、自室へと転移した。


 その途端、セーラにつけてるクモから連絡が入る。

『あっ!トーマ、どこに行ってたのよ!今、ここに来なさいよ!早く!』


『何があった?』


『アーネが・・・・』


『だから、何だよ!』


『とにかく、来なさいよ、速く!』


 オレは、仮面をしまうと、セーラの部屋に転移した。


 ちょっと、女の子の部屋に転移するのは、なんか恥ずかしいと言うか・・。


 とか一瞬思ったら、アーネがオレに抱きついてきた!


「えっ?なに?」

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