第102話 VSサヤカ②
「どうぞ、このジュースで良かったですか?」
「はい、ありがとうございます」
オレ(トーマ)は、サヤカに柑橘系の黄色がかったドリンクを渡した。
オレは、もちろん、この国独自のジャポニカ酒を飲む。
うまい!
さすがに、王宮のパーティーに出される上物だ。
これは、ひとつ、供されてる酒を全部飲まないと、この国の酒を語れないな。
と、オレは決意を固めた。
実は、サヤカに渡したのは、サヤカが依頼したジュースと同じ色をした、柑橘系の果実をお酒に浸漬し、さらにその果汁を加えたお酒だ。
その元になっているお酒は、無色透明の蒸留酒で、ちょっと度数のキツメのものだ。
柑橘系の爽やかさを損なわずに、甘さを加えたもので、女性には人気のモノなのである。
なんで、そんな事をするって?
いや、なに、ちょっとしたイタズラだよ。
子供な男子が良くやる。
オレ、まだ12歳だし、12歳の男の子の脳が要求をするんだよ、可愛い子にはチョッカイを出せって。
オレは、彼女の様子を伺う。
彼女は、のどが渇いていたのか、すぐに器の半分ほどを飲み干す。
「ふう~~、おいしいですね、これ」
「・・そうみたいだね、女子に人気みたいだし。オレも飲もうかな、それ」
「うふふふふ、そうですよ、お酒ばかり飲んでたら、ダメになっちゃいますよ」
「えっ?そうなの?それは初耳だよ。君、もしかして、異世界の人?」
オレは、冗談半分に言ってみた。
異世界とは、前世で、サーヤがオレに話したことがある不思議話だ。
彼女が、まず肯定することはないと思うけど、もし肯定したら、それはそれで納得がいく。
サーヤはその異世界での記憶があるとか言ってた。
だから、難しい話とか、言葉が使えるんじゃないかと言ってたので、もしかしたらってことだ。
そして、否定したら、なぜ、君はトレードマークとか、ラブラブとか知ってるのかと問い詰めて、オレが会話の主導権を握り、彼女から王国の情報を引き出す。
オレって、賢いな。
まあ、ちょっとだけ、彼女の意表を突く言葉を言ってみたかったってのもあるけどね。
「うふふふ、あんたねえ、異世界とか、バッカじゃないの!そんなことを言ってると婚約者の彼女に呆れられるわよ!」
「えっと、サヤカさん、どうしたんです?ひょっとして二重人格?」
「えっ?何か、わたし、言いましたか?」
「えっ?いや、言ったでしょ?」
「わたし、あなたのことが好きなんて言ってませんけど」
「えっ?えっと、はい、言ってませんね」
「じゃあ、いいでしょ。それと、お代わり。持って来てくださいね、おねがい」
「えっ?は、はい」
あれーー、なんだか、もう酔ってる感じ?
もっと、飲んでも大丈夫なのかな?
そう思ったので、今度はホントのジュースを渡す。
「ふぅ~~、これ、さっきのと違うわね。でも、飲んじゃったけど。さっきのを持って来て、トーマ、はやく」
「は、はい」
あれ?
オレ、なんで、この人のボーイになってるの?
最初は、帝国紳士として、そして、ちょっとだけ彼女に良い格好するために飲み物を取ってきてあげたんだけど、それがいつの間にか当たり前になっちゃったよ。
そして、もう、名前なんか呼び捨てだしさ。
これって、ピエールの遺伝か?
いや、どちらかというと、マリーかな?
しかし、オレの作戦って・・・見事に斜め上を行かれたよ。
異世界とか知らねーのか、まっ、いっか。
どうせ、今、何を訊いても、まともな答えが返ってこねーよな。
オレは、そんな事を考えながら、彼女の給仕に勤しんだ。
「これは、カシズってやつが入ってるけど、なんか、もうひとつだな」
「そうね、トーマって、意外と飲めるんだ。まあ、私ほどではないけどね」
「君、飲み過ぎじゃない?」
「はい?なにを言ってるやら。バッカじゃないの!次よ、次」
バカバカと、確か、サーヤも良く言ってたっけ?
懐かしいな。
この言葉、王国の女子では普通だっけ?
でも、聖女たちは言わなかったな・・・ああ、アイツ等は特殊な人たちだから参考にならねーか。
「もう、止めときなよ」
何杯目だろうか、あれから、彼女はドリンクコーナーでいろいろなお酒にチャレンジしていた、オレと一緒に。
「うん?何を寝ぼけたことを言ってるのかしら?うふふふふ、まあいいわ、酔いが回って来た時に効く魔法、知ってる、トーマ?」
「えっ、知らない・・ああ、ヒールかな?」
「ブウ――!こういう時にはね、キュアって言った方がより効果的なんだ。うふふふ、わたし、凄いでしょ」
「ああ、わかったから、そのキュアを自分にかけろよな」
「うふふふふ、いい?見ててね。キュア!!」
彼女の全身が光り輝く。
そして、その輝きが収まると、トロンとしていた目にしっかりした意識の光が宿った。
「だから言ったじゃないですか、トーマ様、あまりお酒を飲まれると、お酒の闇に飲まれますよって」
「はい?そんなこと、サヤカが言ったっけ?」
「うふ、サヤカだなんて・・うふふふふ、私たち、お友達になりました?」
「えっ、君も、トーマって言ってたけど?」
「あら、御冗談を。でも、そんな冗談は好きですよ」
こいつ、酔ってる時の記憶が無くなってる?
って、ひょっとして、あのキュアってのが効きすぎてこんなことに?
わからん。
なんだよ、この子?
まあ、酔わせたら、面白いけどな。
こうして、何の収穫もなく、その前夜祭の夜は終わった。
ああ、あの飲みまくった後に、彼女と踊った。
彼女は、あまり踊りの練習をしていないと言ってたけど、上手だった。
彼女の腰に手をやったり、手を取り合ったり、至近距離で目を合わせたりと、オレはちょっとドキドキした。
周りからは拍手をもらったが、どうせ、誰かのヤラセ的なものだろう。
しかし、アーネやセーラとかと踊った時以来だな、楽しかった。
翌日、オレは、朝食をとるために、賓客用の部屋に案内された。
そこでは、サヤカがオレの来るのを待っていた。
「おはようございます、トーマ様」
「おはよう、サヤカ・・さん」
「うふふふ、サヤカでいいですよ」
「じゃあ、トーマでいいよ」
一応、昨夜のことで、仲は深まったようだった。
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