第103話 対抗試合


 試合が始まった。


 オレとサヤカは、貴賓席に座って観戦していた。

 いつもなら、騎士団のお偉いさんとかが来ているらしいが、帝国からはあの研究施設のことでいろいろあったらしく、手が離せないという事で騎士団からは偉い人たちは誰も来ていない。


 しかし、オレ達の知らない所で、外務関係の大臣とその部下たちは忙しそうであった。

 王国も同じような感じで、騎士団は下っ端の人達のようだ。


 やはり、学園同士の親善大会の裏では、外交の駆け引きが行われているようだった。



 会場では、上級生達の対戦が行われていた。


 もちろん、観客席はジャポニカ特製の結界やら多重シールドやらで保護されており、また、ジャポニカでも優秀な神教の魔道使いが試合を審判し、致死的攻撃に対しても対処できるように見守っている。


 オレは、そんな戦いよりも、サヤカの事を考えていた。


 この子とは、とりあえず、仲良くは成れたのかな?

 まあ、この後、ちょっと誘ってみるか?


 そうだな、あそこが良いかも?

 女の子だし・・・。


 オレは、ちょっと、楽しかった。

 こんな気分は、アーネやセーラと一緒にカフェに行ってる時のような、いや、ちょっと違う、もっと新鮮なワクワク感?

 あれっ?

 オレ、浮気者か?

 いや、別にいいよね、彼女から情報を得るために仕方なくすることなんだし・・。


『わたし、チクろうかな?』

『おいっ、そこは魔王を気遣う所だろ。だいたい、今までの魔王に対しても、カレンってそんな感じなのか?』

『はん?それ、どういう意味よ!私は認めた者にしか心を通じ合わないからね』

『ちょっと待てって。つまり、オレを認めてるって事?そしたら、オレを信用しろよな』

『おバカね、トーマは。私の声があの子に聞こえると思ったの?魔王と親密な繋がりがないと私の声は届かないわよ』

『なんだよ、それ。早く言ってよって、親密ってどんな?』

『うふふふ、これだから、あなたって面白いわ。さあ、どんな感じかなあ~~』

『もう、勝手に言ってろ』



「トーマ様、申し訳ございませーーーん!!」

 突然、足元で大声がした。

 帝国チームの統括責任者兼監督兼学園長が、オレの足下に跪き、オレの靴に額をつけんばかりに、頭を下げて来たのだった。


「えっ?なに?って、近いし。おもてを上げてください」


「ホントに申し訳ありませ~~ん。我々帝国チームに欠員が出まして、ええ、その、あの、できれば出場して頂きたいのですが!いえいえ、ホントに申し訳ございませ~~ん。ええ、ええ、もちろん、こんなお話を急に持ち出す我々が悪いのですが、どうか、我々帝国学園の窮地をお救い下さい、第一王子殿下!」


 出たよ。

 こう言う時だけのゴマすりが。


「えっ?どういうことなんだい?もう少し詳しく」


「申し訳ございませんです~!!全ては、わたくしの不徳の致すところでございます~~。出場者の一人が、今朝からお腹の調子が悪く、先ほどまでそのことを隠して出場しようとしていましたが、先ほど、担架に乗せられて退場していきましてですね、はい~~。ええ、ええ、もちろん、突然の事でして、退場することになってから我々は知りましたんです~~。だから、何卒、皇帝陛下には、あの~、どうか懇ろにですね、あの~、ええ、ええ、もちろんわかっております。殿下には、もっともっと御配慮いたしますので、ええ、ええ、その忖度の程度をもって、我々の殿下への誠意と忠誠をですね、推し量っていただけたらと」


「あっ、ごめん、あんまり詳しく話さなくていいから。えっと、たしか、控えの選手も来てるんだよね。その人はどうなの?」


「はい~~、もちろんですね、その件に関してはですね、ええ、ええ、その直ぐに手配させましたんですよ、わたくしは。ですが、その、ええ、ええ、有り体に言いますとですね、ええ、ええ、その選手はすでに入院しているとのことでして、ええ、ええ。ホントに由々しき事態に、あいなりまして、申し訳ございませーーん!このまま帝国の不戦敗になることは古今東西例がございませーーん。それに、控えだからと報告を怠ったという、何とも世界の範たる帝国の人間として、わたくし、死してお詫び申し上げる所存でございます!!ですから、どうか、わたくしの命と引き換えに、殿下のご出場をお願いに上がりましたーー!!」


「死ななくていいから。でも、困ったな。オレ、弱いし」


「誠に申し訳ございませーーん!!もう、殿下には出場して頂くだけで結構ですのでーーー!!救護班も万全の態勢でスタンバイしておりますのでーーー!!」


 みんながオレを見ていた。

 おいおい、なんだよ、これ!

 しかも、コイツ、オレが負ける前提で言ってるし。


 いや、負けるつもりだけど、ちょっと、腹が立つし。


「ねえ、トーマ。わたしがちゃんと癒すから、出場してあげて。大丈夫、わたし、こう見えても、王国の救護班の責任者なんで」


「えっ、サヤカ、そんなに凄い人なわけ?」


「うふふふ、凄くはないわよ、ソフィア母様に比べたら」


「ふぅ~~ん、じゃあ、ちょっと行ってきますか」


「あ、ありがとうございます~~~~~!!サヤカさま~~~~~!!!」


 なんだよ、そこ、トーマさまーーーじゃねーのかよ。


 まあ、ちょっとやって、ギリで負けるってのが一番だけどね。

 さて、今のオレに、魔力操作の微妙な感じが使えるだろうか?

 あの時は、結構できたんだけど・・・・。



 そして、実況アナウンスが流れた。

「帝国学園、一年生、トーマくん。急遽の出場で不利ですが、頑張ってください。対して、王立学園3年生、マッケンナくん。王立学園でも、その実力はトップです。加えてイケメンで、女生徒の人気ナンバーワンです!さあ、カネが鳴ったら、勝負を始めてください」


 なんだって、聞いてないから。

 王立でトップだって?!

 しかも、イケメンでモテモテとか、イチイチいらん情報を!


「カーーン!!」


 始まったよ。

 さあ、どうする?

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