第89話 帝国学園

 ぼく(トーマ)は、12歳になった。

 最近ユーマでは、オレって言ってるからつい、オレって出てしまう。


 でも、まだ基本は、ぼくだ。


 今日は、デュフォー伯爵家に来ている。

 姉さんは15歳になって、成人したのだった。


「姉さん、おめでとうございます!」

「ありがとう、あなたも入学おめでとう、トーマ」


「ありがとうございます。これ、ささやかですが、ぼくの気持ちです。受け取ってください」

「わあ、ありがとう。何かしらね?開けてもいい?」

「はい、どうぞ」

「わたし、まさか、トーマから贈り物が貰えるなんて、考えたこともなかったわ。あなたのお姉さんでよかったわ。えっ?これを?」

(これ、リングよね。この子、意味わかってるのかな?うふふふ、たぶん、何も知らないわよね)


「あの、何かまずかったですか?」

 やっぱ、いきなり指輪はなかったかな?


「いいえ、とても嬉しいわ。一生、大切にするわ」

「あははは、大げさだよ、姉さんは。でも、これは絶対に姉さんを守ってくれるハズだから、そうしてもらえると嬉しいよ」


「ああ、そういうリングなのね。うふふふふふ、ありがとう、チュッ!」

(ホントにありがとう、トーマ!できたら、このリング・・・ううん・・)


「あはははは、姉さん、恥ずかしいよ」

「そんな事、言わないの。わたしは、あなたの姉なんだから、恥ずかしがる必要はないのよ」

(そう、わたしは、あなたの姉・・・・なんだから)


「姉さん、騎士団では忙しいかもしれないけど、偶には相手をしてね」

「もちろんよ、トーマ。あなたも遠慮しないで、時々、遊びにいらっしゃい。いつも剣の稽古ばかりじゃなくてね。ジェイも、あなたと遊びたいと思っているのよ。だから、このお家をあなたのお家と思って、気楽に来てね。それから、これ!入学祝いよ。気に入ってもらえるかしら?」

(トーマは、いつの間にか、男っぽくなってきたわね。まだ、12歳だと言うのに。わたしも少しは、オシャレして少しはレディーらしくした方が・・・ふふふ、なんでこんな事を思ってるんだろ?トーマが悪いんだからね、うふふふふ)


「うわぁ~~、これ、高いヤツじゃないの?」

 それは、一振りの剣だった。

 薄青く輝く刀身は、いかにも斬れそうで、何か魔法を宿していそうだった。


「それは、あなたの魔力を纏わせることでより強くなるし、形も変わる魔法剣よ。あなたには私なんかよりずっと魔力があるから、もっと魔法が使えるようになると思うの。あなたには魔法剣士が良いと思うのよね。ちょっと考えてみてね」

「ありがとう、姉さん。使わせてもらうよ」


 こうして、ぼくは剣をもらい、姉さんにはをあげた。


 姉さんは、15歳の成人の儀で、剣聖の称号を得たのだった。


 ぼくは、15歳になったら、どんなギフトが貰えるんだろう?そんな事を思っていた。




 そして、ぼくは帝国学園に入学した。

 この学園は、徹底的に実力主義が貫かれている。

 入学時の試験で多くの者たちが落とされ、落ちた者は第2、第3学園へ行かされる。


 入学しても、まずは入学試験で能力別にA~D組に分かれる。

 一学年80人で、一組が20人。

 A組が上位の成績の者たちだ。


 で、ぼくはA組に入った。

 アーネもだ。


 ぼくの場合は、第一王子のため、何の試験も受けずに即A組だった。

 彼女は、試験を受けて、Aなのだった。


 これは、アレだよね。

 当然、みんな、面白くないよね。

 ひとりの枠が勝手に決められているんだし、しかもAだから、ギリでBになった人って恨むよね。

 ぼくなら、良い感じはしないし。


 でも、王子だから仕方ないって、みんな割り切ってくれるのかな?

 そういう階級差別ってのは当たり前なんだから、大丈夫だよね?

 ぼくは、なぜかそんな心配をした。

 どうも、前世とかの記憶のせいかな。

 前世って、庶民だったからね。

 そういえば、この学園、とても少ないながらも庶民の人もいるんだよね。


 ぼくは、A組の教室へ行った。


「やあ、トーマ、この前ぶり」

 ジェイが居た。

「ああ、おはよ。ジェイって、そういえば、実技は一番なんだよね?」

「まあ、実技だけはね」


「トーマ王子、おはようございます」

 そこには、セーラが居た。

 彼女は、背の高さはぼくより少し低く、肩までの髪を軽くウエーブさせて自然に垂らし、眼は大きめのパッチリ系で、まさしく魔眼が発動しそうな感じだ(どんな感じだ?)。

 鼻梁は真っ直ぐに細く通り、頬は少し赤く染まり、ぷくっとした感じでつねりたくなる。

 唇は少し厚めでピンク色をしており、柔らかそうなプルプルした感じが余計にかわいらしさを際立たせている。


「えっと・・・」

「セーラです、あの、前に舞踏会で踊っていただきましたよね。そして、ステップをお教えしましたよね?」

「ああ、そうだったね。あは・・・いやー、お久しぶりです。あなたもA組なんですね」

 あぶない、あぶない。この子としゃべってたら、ユーマになりそうでヤバイよ。


「えっ?なにか、不思議ですか?わたし、こう見えても、魔法に関しては学年一位ですの」

「へえーー、そうなんだ。それじゃあ、また、教えてもらわないと」

「うふふふふ、教えておあげしても、およろしいですよ」


 なんか、しゃべりずらそうって言うか、こっちもしゃべりにくいよ。


「えっと、セーラさん。君さえ良かったら、もう少し砕けた感じで話してもらえないかな?」

「あの、それは・・・良いんですか?」

「ぼくが良いって言ってるから良いよね?」

「では、あの、アーネが最近、お話もあまりできないって言ってましたけど、何かヤマシイことをされてないですよね?」


「・・・ほら、同級生なんだし、ですます口調でなくていいから」

「あの、話し、代えてない?」

「そうそう、そんな感じで」

「ふふふ、流石は王子、私を相手に良い度胸をしてらっしゃいますこと!」

 あっ、なんか、ヤバい地雷を・・・・。


「おはようございます、トーマ王子様」

「ああ、おはよう、アーネ!助かったよ」

「えっ?何の話ですか?」

「アーネ、おはよう!」

「セーラ、おはよう!やっぱりセーラは凄いね!」

「そんな事、あるわよ」

 あるのか・・・・。

 ここは突っ込まないで、あとはアーネに任せようっと。


「ジェイ、ちょっと・・・うん?」

「あの人がアーネさん?そして、あの人がセーラさんか・・・早く紹介しろって!」


「ちぇっ、まあ、いいけど」


 こうして、ぼくの学園生活は始まった。


 あえて、周りの目には、気がつかないフリをした。

 やはり、ぼくの顔って、気味が悪いよね・・・・・。



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