第88話 冒険者ユーマ

 オレは、ユーマ。

 この前、C級冒険者になった。

 昇級スピードが速いと、受付のお姉さんに褒められ、ちょっと調子に乗っている。


 あの冒険者御用達の店で飲むことも、オレの楽しみのひとつになったが、そこの常連の綺麗なお姉様の紹介で行った居酒屋が、とっても素敵で美味い酒を提供してくれる隠れ家的なところだったので、そこでも常連になった。


 オレは、そろそろ12歳を迎える。

 12歳といえば、帝国学園に通う必要がある。

 全員、寮生活なので、果たして冒険者が続けられるかどうか、わからない。


 12歳になっていないのに、お酒なんて不良とか思わないでほしい。

 帝国では、6歳からお酒を酒類が限定されるとはいえ、お店で飲んでも良いのだ。

 もちろん、家では何でも飲んでいる子供が多いだろうけど。


 で、10歳からは、何を飲んでも良いのだ。


 オレは、やっぱりソロで活動することが多い。

 だから、セーラより早く昇級したのだけど、黙っていた、んだけど。


「ユーマ、お姉さんはがっかりよ。わたしに内緒で、クエスト、受けてるんでしょ」

「ユーマ、ルナお姉様にも内緒はいかんよ!貴方に何かあったら、お姉ちゃん、泣いちゃうから、どうしてくれるのよ!」

 なんか、オレの姉さん、増えてるんだけど・・・あれ?このパターン、たぶん、前世であったんだよな・・・・思い出せないけど。


「ごめん、でも、オレとお姉さまたちとは、時間が会わないことが多いでしょ。仕方がないよね、あははははは」


「あのね、今度行く時は、勝手に行くんじゃなくて、一応、行きますって連絡してよね」

「えっ、でも、なんで?」

「なんでとかじゃないでしょ?私たちは、あんたのお姉様なんですからね」


「えっと・・・・」

 いつから、こうなった?

 なんか、姉弟の契りみたいな事をしたっけ?


 うん?

 乾杯って、いつもしてるあの乾杯って、そういう意味?

 なにかよくわからない時でも、なんとなくいつも乾杯してたんだけど、そういう事?


 やっばいな、オレ、姉さんが二人も突然できちゃったよ!



 今回のクエストは、ミニ竜の討伐。

 これやりたいって、眼を輝かせてセーラが言うもんだから受けたけど、これ、難易度高いんだよね。

 ルナがA級だから受けれたんだけど、ルナは当然という顔をしてるから良いかって思った。


 そして、オレ達はミニ竜の前に、今、立っている。

 ミニとはいえ、高さ5メートル、長さ10メートル以上の翼の小さい竜だ。


 ル「シールド展開は、3重にして!対物、対魔法でよ!」

 セ「OK!」

 ユ「オレ、行くぜ!」

 オレは、魔剣ではない、普通の片刃剣を使っているが、それに雷属性を付与し、さらに魔法で切れ味を強化し、さらにその魔力は刀身より長くまとわせて、敵に合わせて自在に魔力で作る刀身を調整できるようにしている。

 もちろん、その強度も調整する。


 ミニ竜とはいえ、一応、竜種なので、魔法攻撃が無効化されるかもしれず、また、固い鱗は、刀身が通らないかも知れず、剣に纏わせる魔力のパワーを上げているが、果たして。


 キン、キン、キン、カン!!

「あっれ?全然、効かないや」


 ミニは怒って、ミニブレスを吐く。

 火炎属性の魔法なので、シールドは有効に作用する。

 が、二つのシールドが割れる。

 すぐに、また、シールドを張る。


 ル「氷結トロワ!」


 ミニ竜は、その3倍に強化された氷魔法を無効化した。


 ル「出でよ、クロワッソン!センク(5)!アレ(行け)!」

 五つの三日月形の光る剣が出現し、ミニへ飛ぶ。


 しかし、そのクロワッソンは、ミニに当たった途端、光の粒となり消える。

 ミニは元気にえる。

 まるで、笑っているようだ。


 「お姉様方、やめようか?」

 ル「何を言ってるの?ダークエルフのルナには、撤退の2文字はないのよ!」

 セ「そうよ!見てなさい!」


 そう言うと、セーラの両眼が金色に光り、ミニの動きを止めた。

「ぐるるるっる?」


「今よ!ルナ!」

「シュペルノバ(超新星)!アッレ!」

 ミニの頭上に巨大な青白い球体が出現し、ミニにぶつかる。

 ミニも、さすがにこれには驚き、吹っ飛ぶ。

「ギュルァ~~~!!」


 巨木をなぎ倒し、やっと止まると、咆哮した。

「きゅるるる~~~~~ん!!きゅるるる~~~~~~ん!!」


 今までと違う鳴き声だった。

 と思ったのも束の間、急に辺りが暗くなり、強い風が吹く。


 思わず、みんな空を見上げた。


 上空には、空を覆いつくすくらいの大きさの成竜が居た。

 上空で、ホバリングするだけで、物凄い風が舞い起こる。


 ユ「どうするんだよ、これ?」

 ル「やばいわね、逃げよう!」

 セ「ええ、早くユーマ!」

 オレ達は、その場を離れようとしたが、行く手を塞ぐように突然、ミニが現れた。

 オレ達はすぐに反対方向へ・・・あの成竜が着地していた。

 挟み撃ちか!


 もちろん、横へ移動するのだが、茂みが深く、前になかなか進めない。

 それを見下ろす成竜は、茂み諸共、ブレスを放った。

 まずい!

 これは・・・・。


 しかし、火炎ではなく、圧縮空気だった。

 オレは、なぜか森を火の海にはしないという、この成竜の意識を感じた。


 全員吹き飛ぶ。

 しかし、それぞれ、身を守るために張っているシールドで大丈夫だった。

 しかし、成竜は次に、巨大で長い尾を横薙ぎに振って来た。


「うおう!」

「きゃーー」

「あっれーーーー!!」

 誰がどう叫んだの?

 とかじゃなくて、これは、シールドとか通用しなくない?

 って、一瞬思い、オレはカレンを呼ぶと、魔剣を10個に分身させて、オレ等に向かってくる尾を


 そうなのだった、ヴェルギリウスだと、斬ることができるのだ。

 カレンには、事前に聞いていて、知っていた。

 だが、アイツ等の目の前でこれを使えなかったのだ。


 セーラは、眼を瞑っていたみたいで、何が起こったのかはわからなかったみたいだった。

 しかし、ルナは・・・・。


 オレは、即座に竜の目の前に転移し、事の次第をカレンを通して念話で話す。

 オレは、この地を根城にする竜にを作って、この場を収めることにした。


 カレンが任せてって言ったから、任せたんだ。

 オレは、竜に知り合いは居ない、当たり前でしょ。

 でも、この精霊は、どうやら、古龍とも知り合いらしく、こいつより上位のヤツが古龍なので、話し合い?は上手くいったようだ。

 この精霊、伊達に魔王の魔剣の精霊を長くやってはいなかったってことだよ・・・えっ?・・・ああ、そう?・・・アラクネの知識にこの赤い刀身に宿る精霊はヴェルギリウスに宿るモノの中でも、最上位クラスらしい・・・可憐なカレンの癖にね、年寄だったんだ。


『年寄り、言うな!あとで、奢りなさいよね!』


 成竜にミニをこの人間の来る方へ来させないことを約束させて、竜たちは去って行った。


 セ「良かったーーー!どうなるかと思っちゃったよ!」

 ル「・・・・竜と話したんですか?」

 うん?なんか言葉使いが、丁寧になってるぞ?

 ばれたか?

『ばれたようね・・・もう知らないから』


「ちょっと、いいかな、ルナ姉さん?」

 オレは、速攻でルナを茂みの方へ誘い、声をひそめた。


「ルナ、わかってるな?」

「・・・魔王様ですよね?そうですよね?」

「だから、ルナ、お前、空気読めよな。魔王として命ずる」

「わかりました。空気はおいしいですよね、ここ」


「・・・・お前、わかってないな、えっと、これまで通り、お姉様キャラを通せ、以上だ」

「わかりましたですわ、魔王様」

「あのね、その魔王様は禁止だから」

「では、王様?」

「いや、違うって!ユーマでいいからな、わかった?」

「はい、ユーマ様」

「おまえ、ワザとか?」

「はい、ユーマ様」

「・・・・・」


「なに、こそこそしゃべってるの?」

「いや、これは、討伐成功なのかどうなのかとか、祝杯を挙げていいのかどうかとか、どこで飲むかとか、いろいろとね」

「わたし、あの例の居酒屋がいいな」

「わたしもですわ、ねえ、ま・・・まあ、早く行きましょう」

 おまえ、大丈夫なのか?


 オレは、こいつ(ルナ)と念話ができるかどうか、そこをしっかりと相談せねばと思った。



居酒屋にて。


セーラ「ねえ、なんで、ユーマは竜としゃべることができるの?」

「そ・・そうだね、それは、たまたま、アイツとはお友達だったから?」


「ふ~~~ん、でも、なんか、竜の尾を切ったんだよね?」

「あははははは、あれ?見ちゃった?あはははは」


「うん、ちょとだけ。わたし、魔眼があるから」

 そうです、もう、セーラからは魔眼のことを飲んでる時に聞いてました。

 オレも魔眼持ちってことを言いました。

 でも、セーラはそれで、オレの時々見せるスゴ技を勝手に理解しているのだが。


「ねえ、竜はなんで怒らなかったの?」

 ルナ「それはね、セーラ、竜って、しっぽは、また生えてくるし、痛くないんだって。ねえ、ユーマさ・・・さすがに常識だよね、冒険者の」

「そ、そうだよな、あははははは」

 ルナ「あははははは」

 セーラ「そうか~。あははははは」

 良かったぞ、ナイスだ、ルナ!

 そして、良かったよ、セーラは飲むと朗らかに能天気になるから。


 オレは、酒の女神オエノに感謝した。



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