第9章 我、魔王となりぬ
第82話 帝国の闇
ぼく(トーマ)は、魔眼と魔剣の訓練に明け暮れた。
勉強は午前中で終わるし、最近はぼくの体調管理に、いつも医者の診察があるが、何も問題は無い。
外で走ったりすることは無くなり、剣戟の訓練も時間が縮小されたが、それも問題はない。
それは、魔人となってからは、基礎体力が大幅にアップし、別に運動をしなくても動きは素早く、チカラも強くなったからだ。
でも、筋肉が付いたわけでもなく、見た目は何も変わっていないのだが。
ただ、アーネだけは、ぼくを看病という添い寝をした後で、大丈夫?って何度も訊いてきた。
たぶん、オーラが変化しているのだろう。
ぼくが、一番変わったと感じたのは、その翌日にプーマンの肉包みを食べた時だった。
アーネがリクエストして、ぼくだけに出されたものだったが・・・いや、食べろよ、アーネ・・・とは言わなかったけど・・・そのプーマンを食べた時に、苦い味とは思ったが、全然平気だった。
後でカレンに教えてもらったことには、どうやら魔王は状態異常耐性が普通に備わっていて、好き嫌いは殆ど無くなり、食中毒も無くなるということだった。
へー、そんなものかと思っていたら、最近の食事に毒気のモノが多く混じるようになった。
これは、ぼくの魔眼と魔王の感知力でわかったことなんだが、どうも、怪しく感じた。
そして、今、寝る前の恒例になった魔眼の訓練をしている。
この帝宮内をくまなく、魔眼で見る作業だ。
相変わらず、見ることのできない区画がある。
今回も、その一つをなんとか見ようと魔力を込める。
最近は、そうして見えないところに特に焦点を当てて訓練している。
そして、遂にその一つを見ることに成功した。
そこは、研究室?
何かを熱して蒸気が上ったり、いろいろな色の液体の入った透明な器があったり、様々な干し草の様なモノがあったり、何かの剥製や布切れ?や魔獣の頭など、よくわからない雑多の品々が置かれていた。
時々、それらを取ったりして、粉々にしたり、液体に入れたりしていた。
なんだか、臭そうだし、あまり見たくなかったので、そんなに長くは見ずに止めた。
何を作っているんだろう?
何かの薬?
知識のないぼくでも、そんな気がした。
なぜか、懐かしい感じの、とても嫌な雰囲気を持つ液体が中に多数あった。
あれは?
よくわからないが、また見たいと思えない所だった。
ぼくの魔眼は、常時発動し続けるにはとても魔力と体力が必要だったが、魔人となってからは、以前とは比べ物にならない程、その威力と持続時間が向上した。
その日から、どんどん今まで見れなかった、結界の強い所を突破して行った。
そして、最後の場所を攻略していたら、突然見えた。
そこは、そんなに広くない所だった。
しかし、禍々しいオーラが満ちており、何人かの人物の気配がした。
そう、その部屋の感じはわかるのだが、その人物たちは見えなかった。
さらに魔眼にチカラを込めて、何とか見ようとしたら、こっちを見る赤い眼が二つ見えた。
一瞬だった。
ぼくは、その一瞬で、魔眼の発動を切った。
止めるんじゃなくて、遮断した。
あの眼がぼくの魔眼に入ってくるような気がしたからだ。
アレは何?
アレを見た時、ぼくの心に警報が鳴った。
アレ等、見えなかったモノたちは、一体、何なのだろう?
ぼくは、その場所の秘密を知らなければならないと強く思った。
でも、ぼくにはまだチカラが足りない。
アレが、ぼくと繋がったら、ぼくは恐らく死ぬだろう。
そうならないためのチカラが要る。
ぼくは、カレンと話したが、結局は自分の能力を高める努力を今は続けるしかなかった。
魔王としてのぼくは、まだまだ未熟で、その責務を果たせるチカラはまだない。
しかし、あれらの映像とカレンの話を聞き、ぼくには救わなければならないモノができた。
今も、苦しんでいるかもしれないと思うと、ぼくは休むことなどできない。
そんな時、フランツ王国と戦ったトカラ連合国の使節団が帝国にやって来た。
ぼくは、第一王子なので、そのパーティーに出席した。
この顔だから、あまり人前には出たくないのだが、いつもそんなことは言ってられない。
仮面を被ればいいとか言われるが、ぼくはそういうのは嫌だった。
ぼくには、この顔を他人に
ぼくを憐れむ者、蔑む者、恐怖する者、畏怖する者、優越感を抱く者、面白がる者など様々な感情が見る人の表情や雰囲気で察知できる。
最近では、魔力感知が働き、さらにその点が敏感にわかるようになった。
だから、ぼくに近づく人の、その性状や気質がわかるので、そういう人たちとの距離の置き方もわかるのだ。
で、この目の前の人、どうしたものか?
「ぼくは、トカラ連合国の弱小国、イスタル国の王子クリスと言います。お久しぶりですね。ちょっと、向こうで話しませんか?同じくらいの歳でしょ、ぼくたち?」
だれ?この人?
お久しぶりって?
どうしようか?
ぼくは、どうしたら良いのか、わからなかった。
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