第42話 フランツ王国へ帰還

 今回の砦での攻防で、出兵した兵の半数以上を失った。

 対魔族戦は、魔法からの防御が重要だと再考させられた格好となった。

 今回のは奇襲に近く、本来なら兵士より騎士たちが戦闘の中心にならないといけないのだが、行きがかり上、仕方がなかったっていうのもあったのだが。


 防具には、アンチマジックの 魔法が発動するように魔方陣が描かれ、攻撃する武器には聖属性の魔法が付与されるように改良するキッカケにはなった。


 その後、魔族の襲撃はなかったが、サリュート復興と、魔族領国境付近の防御に兵を割かれた。我々は、何回か国境近辺を捜索・索敵しながら復興の手伝いをした。


 依然として、聖王の所在は不明のまま、一か月経ち、フランツ王国へ帰還した。

 その間、我々は、パーティー戦の連携、それぞれの能力の向上、聖武具の扱いなど、訓練も行った。



 ~~~国王ピエールに謁見。


 ピ「ご苦労であった」

 シモン「聖王については、少しでも手掛かりはあるのか?」

 ト「いえ、何も」

 ピ「サリュートには、次の聖王の後継者はいない。というか、聖王というのは特殊な存在でね。そのため、次の聖王が出てくるまで、我が国がかの地を暫定的に統治することが決まった」

 シ「したがって、かの国に我が国から多くの人材を派遣せねばならぬ。一番急がれるのは、かの国の防衛力強化だ。よって、我が国の近衛騎士団と王国騎士団より何人か派遣する。兵士は、現在駐留している隊を中心に増やす予定だ」


 ピ「君たちはこの度の任務が長きに及んだので、ここで2,3日休んでから勇者以外の者は、故郷に帰っても良しとする」

 ト「なぜ、オレはダメなのですか?」

 ピ「それは、勇者君のところは、余りにも遠いからだ。往復2週間も休んでいられるほど、状況は甘くないぞ。わかっているとは思うが」

 ソ「でも、それでは、あまりにも・・・」

 ト「いや、たしかに、国王陛下の仰ることはごもっともです。オレはもっと強くならないと、今のままではダメなのがよくわかりました」

 ソ「それは私も同じです」

 エリー「私もそうです」

 ア「では、みんなで、ジャポニカに来るというのはどうでしょう?それなら、転移ですぐですし、私も家に帰れますから」


 ピ「勇者パーティー全員が同意するなら、許可しよう」

 ト「みんな、ジャポニカに行くか?」

 ソ・エ・ア「はい」

 ピ「では、決まりだ。まあ、とりあえずは、ゆっくりしなさい」


 こうして、オレ達は、3日後、ジャポニカへ行くこととなった。


 オレはルーシーの居ない騎士団の宿舎へ行き、シャワーを浴びると、食堂で夕飯を食べていた。


「あっ、勇者様!あのー、覚えておられますか?」

 ト「ああ、あのルーシーの手紙を渡してくれたひとですね」

「はい、彼女はどうやら、サリュートに派遣されるようですよ」


 ト「ええっ!そうなんですか!それじゃあ、もうすぐ帰ってきますね」

「それが、アジャ村って遠いみたいで、こっちまで帰るとかえって遠回りになるらしく、直接サリュートへ向かうそうです」


 ト「そうですか・・・・でも、サリュートなら近いし、また会えますよね」

「そうですね、うふふふふふ、そんなに会いたいんですね」

 ト「はい、すぐにでも会いたいです」

「妬けちゃいます!でも、勇者様が良さそうな人で良かった。変なうわさがあったから、心配でしたけどね」


 ト「その変な噂ってのは、何です?」

「えっと、まさかって思いますけど、勇者様には魅了のスキルがあって、女性はどんどん勇者様のモノになってしまうって、ちょっと考えられない話です。魅了のスキルは、この世に存在しないと大賢者も仰ってたらしいし、私たちもそう習いましたので」


 ト「そうですか・・・いえ、もちろん、そんなスキルがあれば、オレの婚約者が寝取られているとか心配しなくて済むんですけどね」

「そうですね、聞きました、ルーシーから。でも、おかげでルーシーを勇者様は得たんですから、結果オーライですよね」

 ト「そうですね、ホントにいい人に出会えて縁が結べて幸せですよ」

「ああ~~、わたしも良い人を早く捕まえたいです」

 ト「お姉さんなら、大丈夫ですよ、お綺麗だし」

「うふふふふふ、サラっとそんなことを。そんなところが、初心なルーシーの心を掴んじゃったのかしらね」


 ルーシーの知り合いと話して、オレは、緊張していた気持ちが解れ、やっとくつろいだ気分になれた。


 それからオレは、食堂横にある「飲みどころ、酔いどころ、良いところ」で、安い酒を飲んでいた。


 まあ、サリュートでは頑張ったんだ。ご褒美として、少しだけ飲んでも良いよねっていう大義名分の元、ルーシーと良く飲んだよなと彼女との思い出をさかなに飲んでいた。


 そう言えば、聖女達と食事や酒を飲んで、もっと意思疎通を図るべきかもとも思ったが、エリー以外は婚約者がいるし、オレみたいな田舎者の汗臭い男で、戦場では偉そうに指示を出すいけすかない男とは、オフの時くらいは、顔を見たくないだろうと思った。


 だから、フランツでは、いつもアイツらとは距離を取ることにしている。


 飲んでいるとサーヤではなく、ルーシーを想う。

 いつの間にか、オレは、サーヤを想う事がほとんどなくなっていた。

 心に蓋をずっとしていたため、それに慣れ、いつしかそれが普通になっていたのだった。


 ~~~~~~~~

 ソフィー視点


 聖女たちと夕食を食べながら。


 ソ「私たち、まだまだ、強くならないと。特にわたし!いつも、魔力がなくなっちゃう。エミリもいないし、私自身がなんとかしないと」

 ア「それを言うなら、私もよ。魔力量はトーヤと同じくらいか、私の方が多いと思ってたけど、トーヤの方が上だったわ。魔力枯渇まで、また自分を追い詰めないと次のステージには上がれないわ・・・・もっと、苦しまないと・・・」

 エ「私は、魔力の使い方をもっと身に着けないと、トーヤの様に自在に剣を操れない。魔力と剣技を合わせないと・・・それが難しい」


 ソ「私、シモーヌ先生や王国魔導師筆頭とかの先達に教えを請おうと思うの」

 ア「私も一緒していい?」

 エ「えっ?それなら私も」


 ソ「トーヤが時々言うじゃない?聖武具に心を委ねろとか、聖武具の声を聞けとか?あれって、みんなできるの?」

 ア「まだ、ちゃんとできないわ」

 エ「私も時々かな?」


 ソ「わたし、思うのよね。トーヤは聖剣に任せている時があるじゃない?その時って、信じられない動きをして、信じられない速さで見えないくらいよね。それって、聖剣を信じて、聖剣と一つになってるって事をトーヤは言うけど、それじゃあさあ、聖武具にわからないことを尋ねたら答えてくれたり、何かを教えてくれたり伝えてくれたりもできるのかなって。あっ、そのことをトーヤに聞いておくんだったわ」

 ア「たぶん、出来ると思うわ」

 エ「わたし、バカだから、いつも教えてって言ってるよ。でも、いつも教えてくれるわけじゃないけど」

 ソ「えっ!教えてくれるんだ!だったら、私たちの魔力量の問題とか、魔力の扱い方とかも教えてくれるんじゃないかな。だって、みんな武具がそれぞれ違うものだし、やり方も違って当然よね」

 ア「だね!」


 ソ「じゃあ、さあ、食後にやってみない?」

 エ・ア「うん」


 そして、それぞれ、聖武具に魔力を込めて、話しかける・・・・が、失敗に終わる。


 ソ「どういうことよ!エリー!」

 エ「それ、わたしに言われたって」


 ア「もう一度、やりましょ!」


 でも、ダメだった。


 ア「どういうことよ!エリー!」

 エ「だから、もう、トーヤに訊いてよ!」


 明日の朝食後にトーヤを誘い、訓練しようということになった。



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