第41話 敵は強い!

 あちこちで悲鳴が上がった。

 聖女たちも、ここへ来てから顔が青ざめていたが、ゾンビを見て、さらに青くなったり白くなったり、早く逃げようと訴えて来た。


 えっ?逃げるの?


 オレ、逃げてもいいのかな、勇者だけど・・・・。


 逃げる・・・・・。


 いやいやいや、ナニ、逃げるって?


 逃げるなんて考える人間なら勇者に選ばれる訳がない。

 どんな辛い修練でも逃げるとか、思った事がない。


 お前ら聖女も、かつては、そうだっただろ!

 そのくらい、とっくに覚悟ができているハズだ!

 お前ら、フランツ王国の貴族たちに甘やかされて、そんな事も忘れたのか?

 聖武具が泣いているぞ!



 オレ達の周りは、アンデッドだらけだった。

 フランツ王国の王国騎士団も、頭を飛ばしたくらいでは動きを止められないので、苦労している。


 ここは、聖属性魔法しかないのだが、聖女たちは集中力を切らしてオドオドしている。



(みんな、目を瞑れ!もう見なくていい!そして、自分の聖武具に語り掛けろ!聖武具に心を預けろ!きっと応えてくれるから!ソフィーは聖結界を張れ!エリーは剣に、アヤカは聖杖に魔力を込めろ!エミリはソフィーに魔力を供給して!)


 オレは、口ではなく、念話で叫んだ。

 聞き漏らさないように、心に届くように、心に響くように。


 ト「よし、みんな、オレの剣に皆の聖武具で魔力を注いでくれ!」

 オレも自分の魔力を聖剣グラディウスに注ぐ。

 グラディウスが白金のように輝き、その光がオレ達パーティーを包み込むくらいに広がる。

 オレは、アノンに命じ、あの巨大魔法陣へ向けて魔力を放出するイメージを伝えると、大きく広がった光がグラディウスに収束していき、そして、白金に輝く魔力が巨大魔法陣へ飛び、魔法陣は霧散した。


 それと共に、アンデッド達は動きを止め、そして、崩れ落ちた。


 と、その時、直径20メートルは超える巨大な火球が10か所に出現し、大地に激突した。

 我々の結界にも当たり、聖結界の2重結界が吹き飛ぶ。

 しかし、さらにバリアーを張っていたため、持ちこたえたが、周りは一瞬にして火の海となる。


 多少の水では鎮火しそうにない。

 どうする?


 火はそれぞれが勢いを増し、それぞれがくっついて更に大きな火柱となって燃え広がった。

 ソフィーにバリアーを強化させながら、アヤカとエリーで風魔法と剣圧により火柱を誘導させつつ、オレは上昇気流を更に起こさせるべく魔力を放つ。


 次に、アヤカとソフィーもオレの魔力放出に加わり、天を焦がす勢いで火柱を上昇させ、気流の勢いを加速させた。

急激に上昇した大気内の水蒸気は、急激に冷却され、積乱雲を発生させる。

 また、積乱雲は雷を発生させ、更に、上空は渦巻く雲が黒雲を呼び、ついに土砂降りの雨をもたらした。


 あれっ?やりすぎちゃったかな?


 火柱は消えたが、ずぶ濡れになってしまった。

 そして、雷が鳴る度に、特にソフィーがオレにくっつく。

 いや、当たるんですけど・・・ムネが・・・とか思っていたら、聖女たちとエミリの濡れた姿がエロい・・・まあ、こういう目の保養も、ルーシー以来だなと感慨に耽った・・・・のも、束の間。


「そこに居るのは勇者か?お前の命、貰うぞ!」


 目で追うことが不可能な速さで、長い鉄棒かなぼうで突然、突かれた。

 正確にオレの心臓を狙っての一突きだ。


 聖剣が自動オートで横から弾き軌道を変えるも、勢いが強く、強化したハズのオレの左肩上部の筋肉がげ取られた。

 オレは、その弾みで後方へ飛ばされる。


 コイツ、強い!


 その瞬間、エミリの横に大きな角を頭の左右に生やした巨体の魔族が現れ、エミリを横抱きにすると、また、一瞬にして消えた。正確には、消えたように見えるほどの速さでその場所からどこかへ移動した。


 オレは、すぐにアノンに命じて索敵を掛けるも、僅かな反応が一瞬あっただけで、わからなくなった。

 オレは、索敵などの探知系の魔法はまだまだ扱える範囲が狭く、また、防御や強化などもまだ弱いので、もっと鍛えなければと、今更ながら痛感するのだった。


 エリーだけは、少しだけ反応していたが、彼女とて、まだ自分の聖剣を使いこなせていないので、一撃もできないまま、敵を見送った。


 相手の力がもちろん上手うわてだったが、相手が最初の勇者うんぬんと今から思えば、必要もないのにわざわざしゃべった事に違和感を感じなかった。暇がなかったと言えばそうかもしれないが、そのために、オレは、オレだけが目当てだと錯覚し、ヤツの攻撃だけを警戒し、他の可能性を考えなかった。ヤツは、頭もかなりキレル。


 つまり、全てにおいて、オレを上回ったという事実に、オレは、動揺を隠せなかった。

 ト「やられた・・・」

 ソ「トーヤ、はやく治さないと、ハイヒール!」


 ト「今のヤツの動き、見えたか、エリー?」

 エ「あんまりわかんなかった・・・・」

 ア「エミリ・・・あの子・・でも、魔族なんだから大丈夫だよね」

 ソ「そうよね、トーヤ?」

 ト「わからん」

 エ「あの子、奴隷契約をトーヤとしてるんでしょ、だったら、また帰ってくるよね」

 ト「いや、実は、奴隷契約ってのは、ウソなんだ」


 ソ・エ・ア「えっ?」


 ト「オレは、奴隷契約は要らないと、じじいに言ったんだ。じじいは、ちょっと困った感じだったけど、でも、オレ、彼女の目を見たんだ。その時、オレは彼女には確かな意思があると感じたんだ。ふつう、じじいを殺すのに失敗して捕まったとか、聖王宮に侵入してスパイ活動をしていたが正体がばれて捕まったとかだったら、もっと、目が死んでいるか、目のチカラが弱くなっているはずだろ。だけど、彼女のは、なぜか、これから何かを為そうとしている様に感じたんだ。奴隷になるかもしれないのに、そんな決意を宿している目をしているなんて、逆に奴隷紋で縛っても何か策があったときにそれがアダになるかもしれない。確かに最初は沈んだ感じだったのだが、ある決意をしたんだろう。もし、命の覚悟をしたなら、厄介だ。彼女は強いよ」


 ソ「でも、あの子は奴隷契約をしたと本気で思っていたんじゃないの?」

 ト「ああ、そうだな。じじいと相談して、そういうことにしたんだよ。そうやって思い込ませたら、少しは抑止力になるし、保険的なモノだな。バレて、自由にどこかへ行ってもいいし、オレたちを襲っても、彼女には、あの壊れてしまった指輪を付けさせてもらってたから、オレ達に危害を加えないような精神干渉波も出してたし、アレが彼女の殺意に反応して動けなくさせることもできたからね」


 ア「(保険的?)だから、彼女はサポートだったのね。カメの時、もし、攻撃してたらヤバかったわ」

 ト「でも、カメと話し合いで済んだから良かったじゃないか、まあ、最初からそのつもりだったけどね」


 オレたちは、生活魔法で乾かしてから、聖王宮の仮設宿泊所に戻って行った。



 ~~~~~~~~~

 ガートルード視点


 あれが当代の勇者か。

 まだ、子供だな。

 聖女たちも弱い。


 しかし、ミーシャ様は、まだ乙女だったようだ。

 そして、あの聖女たちも、前回の様に、やはり、処女か。

 意外と、あの勇者、良いヤツなのか、それともヘタレか?


 とにかく、この戦いがプランBになるとは、アラクネも計算外ということだ。

 そこは、褒めてやるぞ、勇者よ。

 そして、愉快じゃ。

 少しはあの者も大人しくなれば良いがな、くっくっくっく。


 さてと、ワシは、魔王様の元へ急ぐとするか。

 魔王様なら、あのような者達、いつでも倒せるというモノだ。

 しかし、ここは、念には念を入れて、魔王様にもっと強くなっていただこうか。


 魔王様も、まだ魔剣を顕現されたばかりで、これからだからな。


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