第15話 勇者の修行②

 えっと、たしか、ここって言われたんだけど・・・あった、ルーシー=シフォン。


 ノックをした。

 返事がない。

 再び、ノックをした。

 返事がない。

 再び、同上・・・・・。


 オレは、意を決してノブを回した。

 あれっ?

 開いたよ。

 いいの?

 セキュリティーとか、いいの?

 女子部屋だよ、ここ?

 まあ、ここは女子棟だけどね。

 この棟に入る時に、見習い勇者のトーヤですって言ったら、笑われたし。

 一応、話しは通してあったみたいだけど。


 オレは、周囲を気にしながら、そっと入った。

 あれっ?これって・・・いや、別にやましいことはない。

 でも、ここで誰かに見つかると、メンドクサイことに。


 でも、ルーシーが起こしに来いって言ったんだからな!


 オレは、ベッドのある部屋に行った。

 ルーシーは、静かに寝息を立てていた。

 ムネが・・あの大きな胸の膨らみが上下していた。


 いかん、いかん。

 起こすだけだ。

 ただ、起こすだけだ!


 サーヤの顔が浮かんだ。

 今頃、母さんたちと寝てるんだろうな、会いたいな。

 って思っていたら、ルーシーが寝返りを打つ。

 ちょっとだけ、ムネが、ムニュって音がしたような・・。

 いや、いかんいかん、オレは正義の味方の勇者だ、見習いだけど。


 どうして起こそう?

 まずは、呼びかけた。


「ルーシー?」

 ダメだ。

「ルーシー!」

 ダメだ。


 仕方がないので、身体を揺すろうと、片手を彼女の肩あたりに押し当てる。

 と、同時に腕を掴まれ、ベッドの上に転がされた。

 因みに、ベッドは特大で、デカいのだ。


「うわっ!」

「貴様!何をした?」

「えっ?いえ、単に起こそうとして・・」

「なんだと~~!!貴様、起床直前の私を襲うなどと・・・なぜ、もっと早く来ない?まったく、これだから童貞は!もう言い訳は良い!部屋の外で待て!」


 何故怒られるの、オレ?

 って、童貞って?

 あれ?6時だよな・・・ああ、起こすのに時間かけすぎたかな?


 そうして、一時間待たされた。

 いったい、何をしてたら、こうなるの?


「騎士様、遅いであります!」

「ああ~~ん!誰に向かって、そんな口をきくのだ?」


 彼女は、寝起きが非常に悪いのだろうか、いや、いつもこの調子か?


 もう、なんか、どうでもよくなったので、黙った。

 無駄口は叩かないようにした。


 そして、彼女に言われるがまま、騎士用の食堂で朝食をとった。


 ところで、勇者パーティーメンバー、つまり聖女たちと全然会わない。

 なぜだろうか?

 って、そもそも、勇者パーティーって、まだ、会話してないのオレだけなのに、仲間外れにされてるのが勇者って感じなのに・・・もう、聖女パーティーにしたらいいじゃん。


 でも、ルーシーに訊くのは嫌なので、後で誰かに訊こうと思った。


 朝食は、ビュッフェ形式になっており、適当に選べるようだ。

 中には、その場で作ってもらえる物もあったりする。


 その後、ある一室に案内され、また、レクチャーを受ける。


 そして、聖剣の間に入った。


 聖剣は、結界で周りを囲まれた中に岩に突き刺される形で存在していた。


 まずは、手をかざす。

 反応なし。


 次に、この手に来るように念じる。

 反応なし。


 そして、やっと、岩のところに行き、剣を引っこ抜く。


 あっさりと抜けた。


 まあ、手をかざしたりとか、儀式だから・・さっさと抜かせてくれたらいいのにとかも、もう言わない。


 抜いた瞬間、光輝き、自分の周りがとても綺麗に光ったことを覚えている。


 剣を、用意された鞘に入れた。


 この部屋には、国王、第一王妃、ルーカス、近衛騎士団首席、宰相、ルーシーが居た。

 聖女たちはいなかった。


 オレが聖剣を抜いた時、誰も拍手はしなかった。

 それより、みんな、鋭い眼差しを向けている。


 なにか、異常じゃない?

 みんなの目つきとか・・あのマリー様も厳しい目を向けてる。

 ふつう、聖剣をゲット?したら、勇者誕生しましたって、ファンファーレが鳴るところだよね。

 聖歌隊とか、楽隊とか、なぜここに呼ばないの?

 この儀式よりもっと重要な儀式の準備があるとか?

 いやいや、それはないわ~。

 これ、重要な儀式だよね?


 宰相「これより、トーヤ=デルサは、勇者と認定する。以後、己を律し、励むように!また、聖剣は常に身に着けておくこと!以上!後は、ルーシー=シフォン、しっかりと!」


 ル「ハッ!身命に代えましても!」


 宰相「国王(ピエール)、何かありますかな?」


 ピ「そうだね、勇者くん、君の頑張りを期待してますよ。それと、ルーシー、だろうが、頼んだよ」


 ル「ハッ!身命に代えましても!」


 ピ「ふふふふ、同じことを言ったね、君。なかなかのユーモアじゃないか?ふふふふふ」

 ピエールは、笑いのツボにハマったらしい。

 ルーシーの顔が真っ赤になっている。

 あれ?マーガレット様の顔も、なんか、頬が膨れてるんですけど。




 ル「それでは、修練場へ案内します、勇者様」

 ト「!?・・はい、お願いします」


 王城の騎士の修練場では狭いので、兵士たちが使う練兵場に行った。


 ル「勇者様、これからはルーシーとお呼びくださいませ」

 ト「・・あの、騎士様??」


 ル「これからはルーシーとお呼びくださいませ、勇者様」

 ト「あの・・じゃあ、ルーシー・・これから、何をするの?」


 ル「ナニをですって・・・勇者様のエッチ!」

 あれ?これ、ルーカスが勘違いしてたのと同じパターンじゃん。

 やっぱ、似た者親子だな。


 ト「えっと、何で口調を変えたの?」

 ル「それはもちろん、トーヤ様は勇者様ですので」


 ト「えっ?・・ああ、聖剣が抜けたってこと」

 ル「それもあります」


 ト「えっと、それ以外だと・・・なに?教えてもらいたいんだけど」

 ル「あの~~、お高くつきますが、よろしいでしょうか?」

 上目使いで訊くルーシーに、オレのムネはドキッとした。


 ト「えっと・・じゃあ、もういいよ」

 ル「それは困ります!お教えしますので、今晩は私の願いを叶えてくださいませ!」


 ト「えっと・・別に教えてもらわなくてもいいよ」

 ル「ちっ!!」


 ト「えっ?今、ちっ!って言ったよね?」

 ル「はい?何のことでしょうか、勇者様?」


 ト「・・あのさ、話しにくいので、トーヤでいいよ!様もつけないでいいから。それと、タメ口でいいから、普通にしてよ」

 ル「あの~、私、普通っていうのが自信がないのですが、よろしいですか?」

 はあ?何を言ってるの,この人?・・・ああ、そうか!ルーカスがちょっと言ってたな・・・口調がオレと同じか、オレより酷いって・・でもいいか。


 ト「あのさ、どんな口調でも、ルーシーはルーシーだろ?オレは素のルーシーが好きだから、言葉を着飾らなくてもいいよ!」

 ル「い、いま、なんと??私のことが好き!!あの・・わたしも・・好きです・・トーヤ・・今晩、抱いてくださいませ!」


 ト「・・えっ?・・えっと・・今晩は、ムリだよ。だって、今から修練し続けたら、絶対足腰が痛くなるし」

 ル「では、今晩は、私がトーヤをマッサージします。わたし、上手ですよ、たぶん」

 ト「いや、夜に未婚の女性がベッドで男性をマッサージって、ダメだよ!」

 ル「遠慮しなくてもいいのよ、トーヤ。私の職務は生活のサポートもありますし」


 ト「でも、昨日、嫌だと言ってたよね?言ってたよね?」

 ル「滅相もございませんわよ、おほほほほ」


 この人、キャラがいろいろ変わるなw

 結局、今晩、マッサージを兼ねて、ここでの生活のことをいろいろと教えてくれることになった。


 で、修練という名の特訓というか、イジメが始まった。


 柔軟とかは、既にすましておくのが当たり前らしい・・これも、騎士の心得30か条にあるらしい。


 初日のプログラム①は、倒れるまでランニングだ!


 ランニングをした・・・聖剣を鞘ごと持ってランニングした・・・とにかく走った・・ずっと走った・・・・倒れた。


 でも、プログラム③まで消化した。

 何をしたかって?・・覚えていない・・。

 晩飯は半分も食べられなかった・・・。


 こんなのは、まだ、序の口だったことが、この時のオレにはわかっていなかった。





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