第7話 早弥香、逝きます!②
それから、数日後のこと。
優斗「僕と付き合わない?」
私(早弥香)「えっ?・・また?・・断ったと思うんだけど。」
「いや、ちゃんと言えてなかったんだ、この前は。実は、田中君が生前、僕とサーヤが付き合うのを認めてくれたんだ。僕がサーヤを好きだと言ったら、田中君は、サーヤのことをよろしく頼むって言ってたんだよ。」
「えっ?・・・ウソよ!そんなことあるはずないじゃない!ユーちゃんは・・・ユーちゃんは、私のことが好きなのよ?・・ウソ・・・ウソよ・・・」
「ごめんね、突然、こんなことを言って。でも、田中君のためにも、サーヤのためにも、早く伝えようと思って。」
「なんで、私のためなのよ?なんで、ユーちゃんのためなのよ?」
「だって、サーヤはずっとあれから塞ぎ込んでるじゃない?そんなの、田中君が見たら悲しむよ!僕は君を支えてあげたいんだ。君に前を向いてほしいんだ。それに、僕と付き合うのは彼の望んだことだし、彼のことを想うのなら、彼を安心させて早く天国に行かせてあげたいじゃない?」
「うう・・でも・・・わたし・・・」
「改めて、お願いします。僕、加山優斗は、白藤早弥香が好きです!大好きです!!どうか、付き合ってください!」
ユートは手を差し出した。
「ご、ごめん・・まだ、気持ちの整理ができてないから・・・」
その場は、そう断ったが、毎日、これをやられるので、ついに私は根負けした。
お友達からということで、時々、彼に付き合って一緒に行動をしたり、ショッピングをしたりした。
これって、デート?って思ったりして、ちょっと、後ろめたい気分になった。
そんなある時、
「サーヤ、こっちを向いて」
「うん?」
私が彼の方を向いたとき、彼の顔がすぐそこにあって、彼は素早く私にキスをした。
初めてだった。
私の初めてはユーちゃんに決めてたのに・・・。
私は怒った。
でも、彼はさわやかな笑顔で、ごめんごめんと、ちっとも悪びれずに謝った。
なんだろう?
私、彼の笑顔に癒されてる・・・これ以上、怒れない・・・。
なぜだろう?
また、それからしばらくして、彼と映画館に行った。
ホラー映画だった。
私は、ホラー映画でビビるヒトではない。
「なかなか、面白いストーリーよね。でも、効果音とかで観客をビビらせすぎ。ちょっと、その辺が・・なに?ユート?・・・震えているの?貧乏揺すりしてるし?トイレ?」
「・・う・・う・・そ、そう、トイレだ・・別に怖いわけでは決してないから・・トイレには行きたいけど、我慢するよ。ほらっ、たかがホラー映画だし・・・・う・・うおぅ!・・・ちょっと、目を
そうゆうと、ユートは耳をふさぎ、目を瞑った。
私は、彼の意外な一面を見れて、笑いが込み上げてきた。
いつぶりだろう?笑ったのは?
私、この人となら、付き合ってもいいかなって思った。
それからは、彼からキスを何回かされるようになって、気が付けば、彼氏彼女の関係になっていった。
でも、最後の一線は超えていなかった。
どうしても、ユーちゃんのことを、まだ考えてしまうから。
私は、ユーちゃんとの踏ん切りをつけるために、彼の仏壇に挨拶に行った。
仏壇に花を供えて、手を合わせた後、彼の部屋へ案内された。
彼の部屋に入るのは久しぶりだった。
綺麗に整理されていた。
相変わらず、本棚にはラノベばかりが並んでいた。
彼の机の上に、写真が飾られていた。
勇人の母「あの日の後に、勇人の部屋を整理していると、この机の上に、あなたと映っている写真が置いてあったのよね。普段は、見かけなかったのだけど。」
私「えっ?・・それって・・・」
勇人の母「それからね、ああ、あった、これね、綺麗に包装されてる箱がね、ベッドの上に置いてあったの。もう、開けちゃったけど、指輪なのよね。これ、もしかして、サヤちゃんからの贈り物?」
私「えっ?・・いえ、違います。だけど・・・多分、これはユーちゃんが買ってきたものだと思うわ、おばさん。」
それは、ユーちゃんからもらったペンダントと同じ、ラピスラズリの指輪だった。
勇人の母「だったら、誰にあげるつもりだったのかしら?やっぱり、サヤちゃんに?」
私「えっ?・・う~~ん、だったら嬉しいけど・・わからないわ、おばさん」
言いながら、目が潤んできた。
私は、バカだけど、ここまで状況を知ってしまったら、もうわかったわ。
たぶん、私のために買ってきてくれたんだ。
そして、彼は試合に勝ったら渡すとか思っていたんじゃなかったのかな?
だから、彼は私のために試合をしたんだ・・・だって、勝負が決まった時、彼は私を悲しそうな顔で見てたんだもん。
私、彼のことを、やっぱり、まだ忘れることなんてできない!
私、彼のこと、大好きだ!
私、浮気なんて、できない!
私・・わたし・・・・わたしは・・・・・・・・。
そう思うと、涙が・・もう出てこないと思っていた、もう枯れるまで流したと思っていた、その涙が、止めど無く溢れてきた。
勇人の母「これ、勇人の大切にしてたクロスなの。勇人が車に撥ねられたときに手に握っていたのよ。どうぞ、手に取って、そして、手をクロスさせて、祈ってみて。おばさんの国のおまじないだから。」
私は涙を拭くと、クロスを右手に握りしめ、胸の前で腕をクロスさせ、彼の冥福を祈った・・・いえ、そうじゃない・・・彼のことを思い浮かべて、彼と一緒になりたいと願った・・・なぜそう願ったのか・・・なぜか、その時はそうしなくちゃって思った・・・・。
彼の笑顔が自然と思い浮かんできて、また、涙を流した。
握っているクロスを涙が濡らした・・・。
そのあと、私は、ユーちゃんのお家を出て、その足で、事故のあった道路の傍の歩道に立っていた。
さっき仏前にお供えをしたお花ではなく、自分の家の花壇の青とピンクのアジサイを花束にしたものを取り出した。
それは、昔、彼が私の家のことをアジサイの家と呼んでいたことを思い出し、丁度咲いていたので花束にしたのだった。
そして、それを道沿いの歩道の端に置いた。
その時だった。
一陣の強風が吹き、花束を道路上に転がした。
私は反射的にそれを追って道路に出てしまった。
それと同時に、車に引かれ、身体が吹っ飛ばされた。
身体が宙に放り出された時、青とピンクのアジサイの花びらが宙に舞っているのを見た。
そして、その向こうに、花びらの舞う向こうに・・・・。
そして、頭を強く打ち、意識を手放した。
私は、奇しくも、彼と同じところで、同じように車に引かれて死んだのだった。
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