第6話 早弥香、逝きます!①

 そんな中、総体予選が始まった。


 私は、ユーちゃんを一生懸命応援した。

 あまり試合中は、大きな声を出したらダメなんだけど、叫ばずにはいられなかった。

 恥ずかしくて、顔を真っ赤にしてたと思う。


 最初、ユーちゃんって言おうとしたけど、恥ずかしくって、ユートって言ってしまった。後でユートと被ってたと思って、またまた恥ずかしくなったけど。


 一本目、ユーちゃんが取る。

 二本目、ユートが取る。

 思わず、手に汗を握りしめる。


 そして、三本目・・・・・。


 彼は、負けた時、私を見ていた。

 彼は、面をとって、一礼した時、また、私を見た。

 その顔は、蒼白で、生気がなかった。

 その目は、私を捉えているようで、何も映っていないような悲しいものだった。


 私は、どう言ってあげたらいいのか、わからなかった。

 でも、すぐに、行かなくちゃ!

 私の本能が警鐘を鳴らしていた。


 でも、すぐに彼のところに行こうと駆け出したんだけど、途中、ユート(加山)が駆け寄ってきて、付き合ってとか言って来たので、めんどくさい事になった。

 周りの女子たちは睨んでくるし、男子達も見てるし、迂闊に答えられない雰囲気だった。


 でも、なんとか振り切って控え室の方に行こうとしたら、私の試合の出番になっていたみたいで、私を呼ぶ声が聞こえて来た。


 私は、後ろ髪を引かれる想いで試合に向かった。

 でも、それ以後、彼とは、二度と、もう話すことは出来なかった。




 その日の夜、私は病院へ駆け付けた。

 すでに、彼はあの世とやらに旅立っていた。

 ベッドの傍らで、妹ちゃんが突っ伏して泣いていた。


 なんでよ~~~!

 何でこんなことになっちゃうのよ~~~!!


 こんな事なら、試合なんか出なかったら良かった。

 こんな事なら、ケンカなんかするんじゃなかった。

 こんな事なら、無理矢理、 話せば良かった。

 こんな事 なら・・・・・・・。

 こんな・・・・・・・・・・・。


 私は、意識を失った。


 気がつくと病院のベッドで寝ていた。


 気がつくと、再び涙が出て止まらなかった。


 ユーちゃん・・ユーちゃん・・返事してよ・・・・・。


 ユーちゃん・・・愛してる・・・大好き!


 ユーちゃん・・・なんとか言ってよ・・・。


 私の頭の中では、ユーちゃんが笑ってた・・私に笑いかけてくれてた・・・私も釣られて笑った・・・でも、涙が止まらない・・。


 ユーちゃん・・・ユーちゃん・・・私は、何度も何度も、名前を呼んだ・・・・・・。 






 私は、ユーちゃんのお葬式に来ていた。

 ユート(加山)が、ずっとエスコートしてくれた。

 妹ちゃんは、ずっと泣いていた。

 私が声を掛けたら、彼女は私を睨んだ。


 私、妹ちゃんに嫌われている?


 妹ちゃんは、ユートも睨むように見ていた。


 妹の心の声:(サヤ姐、何よ、その人?ずっと、サヤ姐とくっついてる?ひょっとして、兄貴がケンカした原因?だとしたら許さないんだから!私、サヤ姐だから身を引いたんだよ・・グスン)



 もう、この世に居ないんだと思ったら、また泣けてきた。


「サーヤ、悲しかったら、いっぱい泣いていいんだよ。堪える必要はないから。いっぱい泣いて、また笑顔を見せてよ」

「優しいね、ユートは」

 私は、ユートの優しさに甘えている。

 私って、こんなに弱かったの?


 飾ってある写真のユーちゃんは、笑っている。

 ねぇ、ユーちゃん、なんで?

 何で死んじゃったの?

 負けたから?

 ううん、ただそれだけで死ぬ訳無い。

 ユーちゃんは、何度も何度も立ち上がって、チャレンジする人なんだから。


 ねぇ、ユーちゃん、辛かったの?

 3位決定戦に出なかったんだもん、何か辛かったんでしょ?

 何で辛かったの?

 負けた事と関係があるの?

 ううん、絶対関係があるはず。

 でも、負けたら、また頑張ればいいじゃん。

 それなのに、なぜ?

 負けたら、何か辛いことがあったの?いや、辛いことが起こるの?

 私は、そこまで考えたけど、それ以上は、おバカの私ではわからなかった。


 私、試合が終わった後、あなたとお話ししたかった。

 あなたとちゃんとお話ししたかった。

 そうすれば、違ってた?

 そうよ、違ってたはずだわ。

 じゃあ、私のせいかも?

 いや、絶対私のせいだわ!

 そうに違いない・・・・。

 私、なんてバカなの!

 私のバカ、バカ、バカ!

 ユーちゃん、ごめんね。


 ねぇ、ユーちゃん、私、これからどうしたらいいの?

 ねぇ、応えてよ・・・・。


 私は、お葬式の間、写真に向かってずっと話しかけていた。









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