第2話 疑惑、困惑、思惑からの勝負

 そんな感じで、みんなだけでなく早弥香も加山のことを憎からずと思うようになって来たのでは?と思うようになった、そんな時のことだった。


 僕は、見たのだ。


 その日は、部活がなく、大手を振って休むことができたので、速攻、家へ帰った。

 家に籠るためのオヤツや飲み物を買おうと家の近くのコンビニへ向かったら、そのコンビニの前で早弥香と加山が居た。二人きりで。

 なにやら、仲良さげに話をしていた。


 僕は、思わず身を隠し、遠くから彼らを伺った。

 だって、近づきにくいし、面倒なので話したくないから。

 じゃあ、見るなよって?

 いや、気になるじゃん。

 こうして見ると、美男美女って感じで、お似合いのカップルだと思った。


 しかし、いい加減、僕の良心がこんなストーカーみたいなことをしたらダメだと告げていたので、他のコンビニに行こうと思ったときだった。


 僕が誕生日に早弥香にあげたラピスラズリの石のペンダントを、早弥香は外して、加山に渡し、加山は別のペンダントを早弥香に掛けてやっていた。


 早弥香は、学校の行き帰りにペンダントをしていたのを僕は知っていた。

 僕があげたとき、大事にするねって、言ってくれた。

 それなのに・・・・。


 今、早弥香は、顔を赤らめて、掛けてもらったペンダントを弄っている。


 これって、現実のこと?

 夢じゃないの?しかも、悪い夢では?

 僕は、この目で見た今の出来事が信じられなかった。


 僕は、そっとその場を離れた。


 早弥香の顔が・・さっきペンダントを掛けてもらっていた早弥香の顔が、僕の脳内に何度もフラッシュバックされ、僕は、絶望感を感じた。


 早弥香・・好きだった・・でも・・もう、早弥香の心にはヤツがいるのか?

 早弥香・・僕にあんな顔をしてくれたのはいつだったか・・覚えてないや・・。

 ペンダントをあげたときかな?あのペンダントを・・・。

 もう、早弥香には不要な、というか邪魔なモノになってしまったようだけど・・。


 あのペンダントは、無理を言って母の知り合いの人に頼んでペンダントにしてもらった、思い出の品だったんだ。


 あのラピスラズリには、真実の恋人って意味が込められてるんだけど・・それを外したってことは・・・もう、恋人じゃない・・っていうか、そもそも恋人じゃなかったのか僕たちは・・・・あれっ?別に改めて好きとか、言ってなかった気がする?・・・あれっ、そんなこと(好きだってこと)当たり前だと思っていたけど・・・・当たり前って思ってたのは自分だけ?・・・・・えっ?


 ハハ・・よく、バッカじゃないって言われてたけど、ホントにバカだったよ、僕は・・・・。


 もう、アイツ(早弥香)とは関わらないことにしよう。

 アイツもオレに話しかけられたら迷惑だろうし、僕も彼女から離れないと、彼女から距離をとらないと・・・彼女のことを忘れないと・・・心が苦しくなる、切なくなる、惨めになる・・・。


 それから僕は部活とかを、さらにサボるようになった。


 早弥香は、時々サボる僕を見ると怒り、それが鬱陶しく、いつしか、彼女とは道場へすらも行かなくなった。

 そして、高2の終業式の日に、喧嘩をし、それっきり、〇インも止めて、春休み中、話さなかった。


 とはいえ、休み中も部活があるのだが、僕は、母の故郷へ海外旅行に行くと言って、ずっと休んだ。

 まあ、実際、エストニアへは行った。


 エストニアでは、観光をして気分転換をした。

 僕には妹がいて、彼女はとても綺麗でモテた。

 まあ、自慢の妹だ。


 母に連れられ、ある教会に行ったのだが、そこでお祈りを母と妹と共にしていると、神父さんがやってきて、僕と妹に変わったクロスをくださった。

 この教会は、地元の人しか知られていない。

 古くからある修道院が始まりで、普通のキリスト教会ではなく、ギリシャ正教会系の流れを汲むらしい。


 僕は、そこで、神秘的な体験をした。

 妹に似ている女性が、教会の裏の方へ行くのでついて行くと、そこに涙を流したかのような聖母像があった。

 その女性は、その前に膝まづいて、お祈りをし、さっきもらったのと同じようなクロスに口づけをした。すると、彼女は光り輝き、一瞬、僕が目を瞑っている間にいなくなっていた。


 妹にその話をすると、「それは女神様かもよ。だって、私に似てたんでしょ!」ってことだった。

 話した自分が愚かだったわ。


 帰国して高3になっても、なんか、やる気が出ない状態が続いた。

 クラスは、早弥香とあの女子マネと加山が同じクラスに。

 僕は、彼らとはかなり離れた教室になった。


 早弥香は、もう怒らないからとか言って、和解しようとしてきたが、僕が拒否したため、もう知らないって、何も言ってこなくなった。

 彼女も、僕も頑固だった。


 彼女と一緒にいることがなくなると、いろいろな女子に話しかけられるようになった。告白もされた。

 しかし、それは、早弥香の方も同じで、よく告白されているようだった。

 そういう要らない情報を持ってくるヤツがどこにでもいるものである。


 僕は、モテるので、早弥香のことを忘れられると思った。

 別に調子に乗ってたわけではないけど、調子に乗ってた。

 だが、付き合ったりすることはなかった。

 そして、未だに剣道の練習も、身が入らなかった。


 そんな時、総体の地区予選があったが、加山が僕に、早弥香とどちらが付き合うか、勝負して決めようと言ってきた。


 勝ったら優先的に付き合う権利を得るというものだが、早弥香の気持ちがどうなのかは、この際考慮せず、男同士の割り切った勝負ということだった。

 勝っても早弥香がダメって言ったら終わりなんだけど、という弱気な事も言えず、僕は自分の気持ちを整理するためにも、勝負を受けて立った。

 

 もし、勝ったら・・・ちゃんと告白しよう。

 そして、ダメなら、潔く、アイツのことは忘れよう。

 念のために、アレを用意しとくか・・・あくまでも念のためだ・・・。



 地区予選の個人戦はエントリーした全員でトーナメントが行われる。

 最後まで残るのは大変だが、弱い者も多数出るので、結局、決まったメンツが上位を占める。


 ヤツとの勝負の方は、どちらが上位になるかを競うのだが、互いに当たることは少ないと思っていた。

 まあ、例えヤツと直接当たっても僕には十分な勝算があったのだが。



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