第3話 決着①

 ヤツとの勝負が決まり、それからは休まずに部活に参加した。

 その時から、早弥香と少し話すようになった。

 というのは、つい、昔の癖で、彼女との冷戦状態を忘れて、僕の方から話しかけたからだ。


 つい、お疲れとか言ってしまった。


 それからは、なし崩し的に少しづつ話すようになった訳だが、彼女との会話は弾まなかった。

 彼女も、なんだか僕から視線を逸らしたりするし・・・。

 まだ、奥にシコリを残しながらの会話だった。


 そうは言っても、総体の地区予選、お互いに一つの目標には違いないので、練習を頑張った。彼女は純粋に剣道の道のために、僕は彼女の懸かった勝負事のために。


 試合当日のこと。

「リリリ、リリリ、リリリ・・・・」

 携帯が鳴っていた。

 朝の目覚ましチャイムなのだが、早弥香が朝に誘いに来るという事がなくなってからは、とても味気ない朝の一幕であり、これが僕の一日の始まりであった。


 僕「時間がねぇーー、ちょっと退いてくれ」

 妹「ちょ、ちょっと、もうー、兄貴、いい加減仲直りして、サヤねえに起こしに来てもらえばいいじゃん」

 僕「イヤだ!仲直りしてもイヤだね」

 妹「何で?」

 僕「朝は色々と・・男の事情とかあるし・・おまえも見たい?」

 妹「朝から何の話?」

 僕「ほら、アレだ、朝からイチャイチャしてたら、彼氏のいないお前に悪いって思ってさぁー」

 妹「ふーんだ!っていうか、サヤ姐と早く仲直りしないと、サヤ姐は美人さんなんだから、他の人に取られちゃうよ!」

 僕「へー、アイツが美人さんってかー?お前の方が美人だろ?」

 妹「な、なにを言ってるのよ!」

 妹は、顔を赤らめた。

 僕は、妹の鋭い指摘に話をはぐらかしたが、今日、ヤツに勝って、ちゃんとサヤちゃんに告白する、そう誓うのだった。



試合前、剣道部の男女は、一列にならび、それぞれハイタッチしながら、順番に激励し合う。

 早弥香「ユーちゃん、がんばって」

 僕「ああ、サヤちゃんもがんばれよ」

 早弥香「うん」


 早弥香「ユート、がんばって!!」

 優斗「うん、サーヤも勝って、アベック優勝しような!」

 早弥香「うん、がんばろうね!」

 早弥香は顔を赤らめた。


 女子マネ「田中君、がんばれ」

 僕「ああ・・」


 女子マネ「ユート、がんばってね!優勝だよ!」」

 優斗「うん、君のためにも、アベック優勝しちゃうぞ!」

 女子マネは、耳が真っ赤になった。


 明らかに、対応が違う。

 さやちゃんとか女子マネ、アベックの意味を勘違いしてないか?

 しかも、いちいち、顔を赤らめるな、っていうか、アベックとか、アベックとか・・・こいつら、オレの知らないうちに、すでに付き合ってたのか?

 いや、それなら、ヤツも勝負なんかする必要はないはず・・でも・・・。


 またサーヤってか?・・キモイぞ、加山。いつ頃だったか、ヤツ(加山)はこんな風にアイツ(早弥香)を呼んで、アイツもそれを認めて・・・アイツ、こんなに軽いのかと思ったけど、敢えて何も言わなかったが・・いや、すでに、あの自己紹介の時から、アイツはヤツに一目惚れだったのかも・・・。


 しかし、オレのことを好きだと思っていた子たちは、みんな、オレのことは眼中にないってか?ヤツだけを見てるのか?そんなにヤツのことが良いのか?


 ぐるぐると、そんな疑問がここに来て頭の中を駆け巡る。

 いや、これからのオレの活躍で、目にもの見せてくれる!

 そして、誰がエースなのか、はっきりさせてやる!

 見てろよ、加山!お前の天下は、ここまでだ!


 だけど、サヤちゃんは、僕を見てくれるかな?

 ヤツより、僕のことを見てくれるかな?

 まだ、ちゃんと仲直りしてないけど・・また、やり直せるかな?

 ヤツを倒したら、僕を見直してくれるかな?

 僕にもう一度、笑顔を見せてくれるかな?

 

 僕の動機は不純だ。

 でも、譲れないものがある。

 とくにヤツには・・・ヤツにだけは、アイツのことを譲る気はない。

 ・・・でも、もし、アイツは、僕のもう手の届かない程にヤツのモノになっているのなら・・・・いや・・・そんなことは・・・・・・。

 

 ダメだ!

 邪念よ、消えろ!

 とにかく、勝ったら全てがうまくいく!!

 今は勝つことだけを考えろ、自分!!


 僕は、気合を入れ直し、試合前の集中モードに切り替えた。

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