第4話 決着②

 僕たちは順調に試合を消化していった。


 そして、ついに、決勝まで行かずに、準決勝でヤツと当たった。

 しかし、これは、願ったり叶ったりだ。

 ヤツの対策はすでにある。


 ヤツは、コテを狙ってくる。

 コテが得意技だからだ。

 僕は、オールマイティーだ。

 どこからでも勝負できる。


 とはいえ、僕は、背の高さを生かしての上段が得意だった。

 上段を意識しているだろうから、それを囮にし、今までのヤツとの経験とヤツの剣裁きの癖から、上段からのメンと見せかけてからのドウを払い、先制の一本を取る。


 まずは、一本。


 これで、ヤツはどうしても伝家の宝刀コテを狙いに来る。

 もう、勝ったも同然。


 まずは、そのコテを入れやすく誘うために、こちらから何度もコテを放ちつつ、徐々に竹刀を上にあげる動作のタイミングをヤツに掴ませようとしていた。


 そして、エサにかかったところをコテ抜きメンで仕留める予定だった。

 そして、食らいついてもらえるように、竹刀を上にあげる動作を一定のリズムで単調に行うように仕込んでいた時、

「ユー・・ト~~~、がんばれ~~」

 と、声がした。


 僕は、竹刀を上にあげたタイミングで硬直した。

 それは、一瞬の停止であったが、それを見逃すほどヤツは甘くなかった。

 コテをアッサリ取られた。


 声は、見なくてもわかる。早弥香だ。

 早弥香は、僕のことをユーちゃんと呼ぶ。

 対して、加山には、ユートと呼ぶ。


 アイツ(早弥香)は、加山を応援していたのか・・・・。

 チラッと早弥香を見た。

 その時、彼女は加山を見ていた。

 彼女は、コブシを握っていた。

 ガッツポーズ?

 彼女の顔は赤かった。


 そうか・・・・これ(恋の勝負)、オレの負けか・・・・いや、でも・・・でも、まだわからない・・・オレの聞き間違いってこともあるし・・・いや、そうだ、絶対そうだ!アイツは、オレのことが好きなんだ・・ずっと一緒だったんだ・・ずっと好きだったんだ!早弥香!!オレは、負けない!!見ていてくれ、早弥香!!


 僕は、もう一度コテが来ると思い、エサを撒くように、竹刀を持ち上げてコテを狙い易いように何度も誘いながら、こちらもコテを打って僕のコテを打つリズムを教えてやっていた、いつでもヤツが打ち込んできてもいいように心構えをしながら。


 その緊迫したやり取りの時、またしても彼女の声が、

「ユート~~~」

 試合中にもかかわらず、彼女を見た。

 ヤツの後方に見える、彼女を。

 自分の身体の動きが止まる。

 その隙を突かれ、あっさりとコテを取られ、決着した。


 確かに聞いた・・・早弥香・・お前はもう・・・・なんだよ・・・こんな試合、意味ねーじゃん・・・オレの高校生活、意味ねーじゃん・・・屈辱?憐れ?悲惨?絶望?これらのダメージを与えるためにヤツはワザとあんな勝負を持ち掛けてきやがったのか?

 勝っても負けてもオレが惨めになることを知ってて・・ヤツは・・・。


 バカだな、僕は、どうしようもないバカだ。

 ヤツにノセられて、急に熱心に部活に来てた僕。


 ヤツは、陰で笑っていたのか・・・。

 もしかしたら、アイツ(早弥香)も一緒になって・・・・えっ?。


 ああ・・・そうか・・・そうだよな・・・アイツとは、話をしてても、もう以前のような感じじゃなかったし・・・・そういえば、アイツの僕を見る目が憐れんでいるような、なんとも言えない感じだったか?時々、目を逸らすし・・・・アイツら、一緒になって、僕のことを笑ってたのか・・・どうでもいい勝負に必死になってる僕を見て・・・・アイツもヤツに染まって、ヤツのような嫌味な性格になっちまってるってことかもな。


 なんだよ・・・もうどうでもいいよ。消えてしまいたいよ。


 ああ、もう、彼女の心には、僕はいない。

 それがはっきりした。

 バカすぎて、バカすぎて、惨めすぎる・・・告白をしようと・・・プレゼントまで買って・・・気合入れて・・・・。


 バカな自分の・・・能天気な自分の考えが、独りよがりだったことに気づいて、自分を消し去りたい、過去の自分を消去したいと思った。

 


 僕は、3位決定戦にも出ずに、会場を後にした。

 ヤツの得意げな顔とユートと叫んだ彼女の顔が頭から離れず、家までの道をどう帰ったのかもわからずに、自分の部屋のベッドにダイブした。そして、そのまま目を瞑った。


 涙が溢れて止まらなかった。

 アイツ・・・一緒に同じ高校に入ったのに・・・アイツ・・・もう、オレを見てないんだよな・・・アイツの横には、ヤツが・・・いや、上か?・・・いや、下か?・・・・。

 妄想が、嫌な方へ、ダメな方へ行き、心が折れそうだった。


 ああ、そういえば、プレゼントがあったよな。

 これも、もう、用無しか・・・。

 僕と一緒で、用無しになったな、お前・・・。

 そのまま、プレゼントは、ベッドの上に放り投げた。


 そして、また目を瞑ると、僕は、なぜか、エストニアでの祈りを捧げた教会を思い出していた。

 あそこで、無心に祈ったよな~~。

 なぜか、心が癒され、温かくなったよな。


 僕は、起き上がり、神父さんからもらったクロスを掴むと、どこか、祈りを捧げる良さそうなところはないかと、家を出た。


 そして、この町で唯一の教会に来た。その教会の庭には、青とピンクのアジサイが咲いていた。

 ぼくは、そのアジサイの花々の傍で、クロスを握り、僕のこれからのことがさちあらんように、彼女のこれからが幸せでありますようにと、祈りを捧げた。


 この祈りは、母から教わった特殊なものだった・・・という程、そんなに特別でもないが。


 両腕を胸の前にクロスし、手にはもらったクロスを握り、こうべを垂れて願いを心の中で呟くといった簡単なものだが、首を垂れたせいか、目から溢れた涙が僕の手を濡らし、クロスを濡らした。


 そして、クロスを握りながら、家に向かって、街道沿いを歩いていると、再び涙が溢れてきた。

 それをクロスを持った手で涙を拭いながら歩いていたら、クロスが滑って道路へ転がった。

 僕は、反射的にそのクロスを取ろうと道路に出てしまった。


 そして、右から来た大型トレーラーに撥ねられた。




 青いアジサイの花言葉は辛抱強い愛情、ピンクのアジサイの花言葉は元気な女性、強い愛情、アジサイの花言葉は浮気、変節だった。

 それは、これからの物語を象徴する花言葉であったのであった。




 ~~~そしてプロローグに続くが、第5話にいっても良かよ

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