第7話 波乱の入学式 その1

 テロリストによって中破した列車は途中で乗り換えることになった。

 

 車内でローブをまとった制服姿に着替え、ぼくたちは無事、魔術学園のある離島に到着。

 岸の上に入学予定の全員が集まり、そこから巨大な城のようなシルエットを望んだ。


「あれが……」


 マグナル魔術学園。世界有数の名門校。

 ぼくたちがこれから数年後を過ごすことになる生活の場であり、学び舎だ。


「あれ、でもどうやって学園まで行くの?」


 学園までは大きな湖が広がっている。

 それを見たふとルッカが首をかしげていた。ロイドも頷く。


「確かに……どこにも橋のようなものも見当たらないな」


 同じように生徒たちが困惑していると、引率の教師が厳かに告げた。


「……さて、受験生の皆さん。これが最後のテストです」


 その場に深い静寂が横たわった。

 

「テスト……だって?」


 ロイドが怪訝な顔で聞き返す。


「この湖を、水面に触れることなく渡りきってください。それが最後の入学試験です。どんな手段を使ってもらっても構いません。ただし、水面に触れたり沈んだりした時点で不合格となります」


「そ、そんな……」


 ルッカや、他の生徒たちに動揺が広がる。

 当然だ。彼らはこんな試験があると聞いていない。

 すでに入学が決まっているものだと思っていたのだ。


 ぼくも一応は驚くそぶりを見せた。


 この場面は知っている。生徒たちの多くは慣れない箒で空を飛び、かろうじて湖を渡りきって学園へと辿り着く。ただし、全員ではない。半数近くの生徒がここで脱落してしまうという展開だった。


 一方、主人公のロイドは最初は他の生徒たちに出遅れ、最後にスタートを切るが、飛びながらその才能を発揮し、逆に到達直前で落下しかけるルッカを助けて、二人一緒に学園へと辿り着くという、実にドラマチックな展開だった。


 オネスはどうしていたっけ……。


「ああ、そうか」


 思い出し、ショップから【生物】を選択。

 さらに【幻獣】の項目を選ぶと、そこに様々なウィザアカの架空生物の名前が並んでいた。


 【グリフォン】×1

  

  合計:300,000,000ゴルド


  ▼以上の商品を購入しました。またのご利用をお待ちしております。


 高価な幻獣である美しい白きグリフォンが出現。

 懸命に箒にまたがり、飛び立つ練習をしていた周囲の生徒たちが、驚くようにぼくの方に視線を注いだ。


「オネスさん、すごいわ」


「いいなぁ、オレも乗せてくれよ!」


「あっ、おれもおれも!」


 途端、ほかの生徒たちに取り囲まれる。


「悪いけど、このグリフォンは三人乗りなんだ。……はっ!?」


 なにを言っているんだ。これではまさにオネスそのものだ。

 まあ、物語の展開的には正しいのかもしれないけど……。


 ふと、ルッカのほうを見た。

 彼女のどこか寂しそうな視線に、胸がちくりと痛んだ。


 ぼくはグリフォンに付いていた手綱を外してあげ、その毛をそっと撫でた。


「こほん……やっぱり、このグリフォンは自然に返してあげよう」


 グリフォンはぼくに礼を言うように一鳴きすると、勢いよく飛び立っていった。


「ああっ、伝説のグリフォンが!? オネス、よかったの?」


 ロイドが驚いていた。

 オネスは、主人公にこんな顔をさせるキャラではなかったはずだが……まあ、この際仕方ない。


 それに、ぼくはこのシーンがあまり好きではなかった。


 才能がない者が脱落していくのは、主人公に感情移入していたときには気にならなかったが、こうしてその才能がない者の側に立ってみると残酷だ。


 世界有数の名門校らしい洗礼なのはわかる。

 けれど、ぼくはこの場にいる仲間たちを、つらい目に遭わせたくはなかった。


「他になにか……ちょうどいいものが……」


 ぼくはショップで他の生物を探した。

 この事態を解決してくれるような生き物といえば……。


「おっ、これだ」


 【ジャイアント・スカイマンタ】×1

  

  合計:5,000,000,000ゴルド


  ▼以上の商品を購入しました。またのご利用をお待ちしております。


 即決で【ジャイアント・スカイマンタ】を購入。

 すると上空から、巨大なカイトのような物体が舞い降りてきた。


 スカイ・マンタは、平べったい姿を持つ空飛ぶ凧のような生物だ。

 その中でも【ジャイアント・スカイマンタ】は、最大の大きさを誇る。

 横幅は数十メートルはあるだろうか。

 その巨体ゆえに、空が一瞬覆われるほどだった。


 崖の先端にゆっくりと降り立った【ジャイアント・スカイマンタ】を、教師や生徒、だれもが唖然と見つめていた。


 そんなみんなを、ぼくは手招きした。


「さ、みんな乗って。大丈夫、このスカイマンタは100人乗りだから」

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