誰彼も等しく生き死に語られる物語

本作を読む進めていくたびに思考する。

英雄とはなんであろうか、と。

世界の果てを目指した大王、戦乱の絶えない中国を初めて統一した皇帝、大陸に広大な帝国を築いた草原の雄……歴史を紐解けば世界を変革させてきた多くの者たちが、その強大な力や頭脳、カリスマ性、そして恐怖で名を連ねている。間違いなく、彼らは英雄と呼ばれるべき者だ。

そんな彼ら彼女らとは対極に位置するのが、本作に登場する主人公、ウォルムである。
前世が現代人の彼は異世界の農家の三男として転生すると、戦争真っただ中の帝国人の一兵卒として徴兵され、確固たる意志を持たず時勢に流されるまま戦場へと赴くことになる。

戦場で生き残るたびにその才が開花されていくが、おおよそその性質は英雄・英傑のそれとは異なる。強靭な心を作り生存をかけ進むべき道を決めるわけでもなく、前世の知識を使い軍功たて成り上がっていこうとするわけでもない。悪にもなれず、かといって善にもなれない、流されるままたどり着いた戦場で斧槍を振りかざしては血の花を咲かせ、敵の命を摘み、戦友と肩を並べ、任務を遂行し、結果的に己が命を拾っていくだけの、どんな過酷な戦場でも生き残るしぶとい兵士というだけだ。

彼は英雄足り得るだろうか?

苦境に立たされ奇跡を信じてしまう弱い彼は、ウォルムは英雄足り得るだろうか?

答えは本作の帰結した先にあるはずだ。
さあ、読もう。不完全な主人公、ウォルムの物語を。

濁る瞳で願った先の道に、願わくば英雄の道があらんことを。