第秋章 風月①
清風明月
快い風とさやかな月。心を慰める自然の風物。
風月を友とする
自然と交わり風流に暮らす。
自然の風物を題材に詩歌・文章を作ること。また、文才のあること。風月の才に富む。
一陣の風が吹いた。
朝のニュースで、台風が九州の方に上陸したと報道があった。
風間たちが住む地域は幸いなことに直下ではないものの、暴風地区内に入っていた。
生暖かく強力な風が地面に落ちていた空き缶を転がす。
「姉ちゃん…俺は未だにあの話が信じられないよ」
「信じられないのは申し訳ないけれど、それが事実なのよ」
空を見上げれば、雲の動きが早い。
陽気に晴れているというのに、どこか穏便には終わらなそうな雰囲気があった。
たまに吹く強風に足が取られそうになる。
「つまり、先輩は俺のことが好きだから、引き戻すのではなく…自分が寂しいから、俺を引き戻すってこと?」
「何度も説明したじゃない。秀ちゃんがいなくなって、その大切さに気づいたそうよ」
「もっと違う大切さに気づいて欲しかったー!」
「秀ちゃんが言いたいことは分かるわ。でも、未来ちゃんはそういう子なの。しっかりしているようで、どこか抜けている。人の感情を読むのも、自分の感情に疎いのも、しょうがないことなの」
「ってか、自己中心的じゃね?」
「ふふ…確かにそうね…。自分のために秀ちゃんを美術部へ…」
親友だけど否定はしないわ、と月島はため息をついた。
月島は花江の親友だ。心の友だ。
と、同時に風間の幼なじみでもある。
「まあ、珍しく先輩が自分の欲望を表に出してるんだから、俺は全然否定しないけどね。むしろ、カモンカモン。もっと暴露してほしいなー…」
「秀ちゃん…あなたは少し自粛した方が良いわよ」
「俺なんて、先輩のために…先輩が好きだから…もっと一緒にいたいから、美術部に戻ろうとしているのに」
「本気なのね…。あの女の子に興味のない秀ちゃんが」
「本気に決まってんじゃん!!大本命!自分でもキモいなって思うくらい!」
「自覚、あったのね」
「できれば姉ちゃんに先輩のシャーペンとか、色々流して欲しいわけだよ」
「通報して良いかしら?」
「俺の心からの初恋!うわー…こんな小っ恥ずかしい話、姉ちゃんにしか話せないよ。いや、鳥羽先輩にも話したけれど…俺って意外と誰にでも話しちゃう人間だったりするの?」
「全く…一つのものに執着すると、猪突猛進なんだから。ちゃんとお話しのキャッチボールができなくっちゃ嫌われちゃうわよ?」
「へあ!?」
「じゃあ、練習しましょうか?」
「お、お願いします…」
月島はコホンと一つ咳払いをする。
「鳥羽先輩…どんな方かしら?」
「え、いきなりはじめんの?えー、えっとー、鳥羽先輩ー…き、厳しいよ。花江先輩の何倍も厳しい。怒ると怖いし、めっちゃスパルタ。筋肉には自信があったのに、同じ格好取っているとプルプル震えちゃってさ。そしたら、横からバシーンってハリセンみたいので叩かれるんだよ。一昔前の教師かって感じ。完全に第二の鳥羽を作ろうとしてる。それにくっついて、完全な第二の鳥羽にならない限り、写真部からは抜けられないよ」
「愛ある教育ね」
「愛なんてないよ!時代にそぐわしくない。あの人は、ドSだよ。人を痛んで楽しんでる系!ある種のいじめ!」
「秀ちゃんがそう思うなら、訴えれば良いじゃない?」
「ごめ…いじめじゃない…。別に俺は嫌じゃないし、普通に受け入れてる。叩かれるのだって、本当に軽くだし、そんな痛くない…大袈裟に言っただけ…」
「鳥羽先輩は秀ちゃんのことを気に入っているのね。さすが後輩純度100%」
「この前から気になってたんだけど、『後輩純度』ってなに?」
「未来ちゃん曰く、後輩らしさが高ければ高いほど、上がっていく数値らしいわ。秀ちゃんのことを後輩として愛おしく思っている証拠かもしれないわ」
「愛おしく!!」
「ここで勘違いしちゃダメなのが、未来ちゃんが秀ちゃんのことを好き、と感情があるわけではないってことよ」
「なんで上げて落とすのー?」
「恋に障壁はつきもの、だからよ。秀ちゃんはドラマの演者さん。私はそれを見ている視聴者。出来るだけ面白いことをしてくれた方が、第三者が面白がるわ」
「なにそれ…」
「とある方の受け売り文句よ」
「なんそれ…ってか、姉ちゃん…これのどこがキャッチボールよ?なんの練習になってなくね?」
「練習に意味を成すのはあなたの心次第よ。さあ、まだ続けましょうか?」
「ウィース…」
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