女神の慈悲

「う、うーん。ここはどこだ?」

「目覚めましたか、あわれな村人よ」

 声の主は女神だった。見上げるくらい長身で、キラキラした服をまとい、髪も瞳も星のように輝いている。その隣には、見習いの女神もいた。


「オレは、死んだんだな……」

「そうです。あなたは死にました。ですが、死の瞬間、強い圧力を受けたので、トラックと同等の扱いになります」

「トラック……? なんのことだ?」

「つまり、あなたは転移することになります。別の世界で人生を継続できるのですよ」

「ひとりでか? 村人たちはどうなるんだ?」

 シューマは無意識のうちに、エリカの名を出すことを避けた。彼女の死を知るのが怖かったのだ。

「死んだ者は生き返りません。あなたひとりで、生をまっとうするのです」

「ひとりだなんて……そんなの、意味ないじゃないか!」

「意味、ですか? それはだれかから与えてもらうものではありません。生きることの意味はあなた自信が見出すしかないのです」

 シューマはうなだれた。


「――あなたはとても善良な村人ですので、特別な能力スキルを与えましょう。なにがいいでしょうね……。そうだ、書物に書かれた能力を自分のものにできるスキルにしましょう。ただし、その書物を手に持っていることと、あなたがその内容を理解していることが発動の条件です」

「女神様、そんな強力なスキルを……」

 見習い女神が声を上げたが、女神は応えなかった。

「さあ、行きなさい。新しい世界で幸せを見つけなさい」

 シューマは光に包まれ、消えていった。


 転移空間に再び静寂が訪れると、女神は言った。

「あなたの心配ももっともです。ですが、安心してください。あの者は字が読めないのです。書物の内容を理解して能力を用いるなど、不可能。努力して字が読めるようになったなら、それもまた一興です。いずれにせよ、問題になるようなことは起きませんよ」

「さすが女神様! 見事な取り計らいですね」

 女神はまんざらでもなさそうにうなずいた。

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