村人が街にやってきた ~ただの村人がこちらの世界に転移したら40万人死にましたけど、止められるヤツはいませんか?

荒野荒野

殺戮の悪魔、その名はテンイシャ

「今日はこの村にするか」

「どこ行ってもおんなじね」

「しょぼウイッス~」


 集落の外に降り立つと、瑛太は大剣を抜き、横に振り払った。

家破斬ハウス・スレイブ!」

 強烈な衝撃波が放たれた。

 30軒ほど並ぶ藁ぶきの家は横一文字に切断されて崩壊し、運悪く立っていた人たちは上体をズシャリと地面に落とした。

「技の名前、また変わってウィッスよ?」と、B策がつっこむ。

「いいんだよ、雰囲気さえ出てりゃ」


 勇者のレベルは99が上限だが、女神の祝福バグによってキャップが外された瑛太だけは、どこまでもレベルが上がり続けた。レベルアップのたびにステータスも成長し、2万3537となった今では、大剣のひと振りで800メートル圏内の物すべてを断ち切ることができるのだ。もはやこの世界に、彼に勝てる者はいなかった。


 ようやく、悲鳴が起こった。瑛太は、それが自身への賛辞であるかのように、両手を広げて受け止めた。

「心地よい響きだ!」


「それじゃあ、パーティを始めルィッス!」

 B策は炎を生み出し、村を包囲した。火焔のスキルを持つ彼は、100兆度までの炎を操ることができるのだ。

 あえて一ヶ所だけ開けておいた火のない隙間から、村人たちが走り出てくる。

摩擦を否定フリクション・ディナイ!」

 椎菜シーナが摩擦の存在を否定した。因果無窮否インガムキュウノイナミによって、あらゆる公理や法則をなかったことにできる。

 足裏の摩擦が消えた。村人たちは、古いアニメのネコとネズミみたいに足をクルクルさせながら、前方に滑っていく。そして、瑛太が手にする大剣で正面から串刺しになった。7人が重なり合うと、瑛太は大剣を横に振る。あまりに簡単に生命が奪われていく。


 若い女がよろけながら出てきた。B策は炎の鎖で彼女を中空に縛りつける。

「あ、熱いっ!」

「こいつはオレがもらウィッスよ。苦しみが一番長引く温度を調べルィッス!!」

「相変わらず、研究熱心ね」


 そこに、森から男が現れ、手にしていた斧を落とした。木をっていて、午餐の時間に遅れたのだろう。

「なにをやってるんだ!? エリカ! すぐ助けるからな!!」

「シューマ、逃げて!」

 駆け寄るシューマを、瑛太の大剣が阻んだ。おもしろい見世物だと思ったのだろう、殺しはしなかった。

「おまえたち、なんでこんなことするんだ!?」

「なんでかって? 考えたことないなあ」

「決まってんじゃん? おもしろいからよ」

「そうだな。おもしろいからだ! 弱いヤツらをぶっ殺すのはおもしろいからだ!!」

 3人は声をそろえて笑った。

「なんて、ひどい……」

「なあ、村人さん。オレたちの気持ちだってわかってくれよ。魔王はいない、悪役令嬢はいない、ギルドもない。ないない尽くしのクソみたいな世界に転移させられて、退屈しきってるんだよ! こうでもしなきゃ、退屈で死んじまいそうなんだよ!!」

「おまえらが、あのテンイシャなのか……」

「そうさ。オレたちはテンイシャさ」

 吟遊詩人が歌い広めていた――テンイシャという名の3人の悪魔がいる、と。


「ねえ、これ、ちょっとよくない?」

 椎菜がエリカに近づき、ネックレスに手をやった。円盤状にした青い貴石を革ひもで下げている。シューマも同じ物を身に着けていた。

「おまえら、夫婦か?」

「……婚約してるんだ」

「そりゃいいな! さて、悲鳴が大きいのはどっちかな?」

「オレを殺せ! その代わり、エリカは助けてくれ」

「あはははは。なんでだよ?」

 瑛太は両手の平を打ち合わせた。風圧によって空気の壁がつくられ、シューマを左右から挟み潰した。

「いやーーー! シューマーーーッ!!」

 エリカが叫んだ。

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