第3話 新しい家族

 それから、二週間、毎日クロの傷の手当てと、ご飯の担当を続けていた。

 人間よりずっと早いスピードで、クロは回復して、一番心配していた、後ろ足の引きずりも少なくなっていた。


 そして僕はお父さんから、新しい首輪とリード線をもらった。


「もう、大丈夫だろう。首輪を付け替えてやりな。あと散歩も裕太の新しい仕事だ」

「うん、分かった。でも、大丈夫って?」

「う~ん、ほんとうはな、ダメかと思っていたんだ」

「何が? 僕が動物の世話をする事?」

「いや、クロが元気にならないと思っていた。おまえに見せる三日前、体中血だらけで、知り合いの獣医も、ダメかな、そう言っていた」


「え!? そんな状態だったの? それに医者に見せたんだ」

「そうだ。昨日、裕太が学校に行って、いない時に、獣医が心配して家に寄ってくれた。クロの回復ぶりに驚いていたよ」

「死にそうだったんだ……知らなかった」

「いいんだ、裕太が必ず治すと思って面倒を見たから、クロは元気になった」

「そんな……クロがそんなに重病なら、もっとやさしく出来たし、やっぱり教えて欲しかった」


「そうかもしれない。でも、前に言ったが、動物は人の心が態度で分かる。裕太は本当に、クロが重病だと思っても、哀れみとか、心配を表に出さなかったか?」


 言われてみれば、僕には自信が無かった。

 たぶん、お父さんの言うとおりだろう。

 でも……


「でも、やっぱり、大事な事は知りたかった」

「そうだな、わかった、今度は教える」

「……もう、遅いよ!」


 子供扱いされて僕は少し不機嫌になった。

 それとは逆にお父さんは上機嫌。


「何がそんなに嬉しいの? 僕の、ふくれっつら、見て楽しい?」

「いや、ま、それもあるが、お父さんが嬉しいのは、少しおまえが大人になったからだ」

「大人になった?」

「面倒な事が嫌いな裕太が、クロの面倒を見て、そしてちゃんと元気にした。だから、クロをうちの家族にしようと思う」


 元気になったら、もしかして、クロはいなくなる? 心配していた僕は聞き直す。


「ほんと!? クロをうちで飼っていいの?」

「ああ、一度、死にかけたクロ、もし飼い主が現れても、お父さんは返す気はない。裕太が飼い主だ、そうだろう?」

「うん」

 お父さんは、僕の頭を撫でながら言った。

「これからもちゃんと、クロの面倒を見るんだぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る