第13話 背中

「ええーーっ!嘘っ!?チャリがなーいっ!」

「えっ!?成、マジで言ってる?」

「う、うん…。マジ…ない…。最悪…」

「良く探してみなよ」

「ちょっと借りられて他の所に置かれたとか?」




それは私が数人の女友達とカラオケに行った帰りの事だった自転車事件。



「送ろうか?」

「ううん、平気。だって逆方向だし」

「でも、成、遠いじゃん」

「大丈夫。何とかなるから」



その時だ。



「じゃあな!勇史!」

「おう!またな!」



ドキッ

聞き慣れた名前に胸が高鳴り、辺りを見渡す。



≪今、勇史って…≫

≪まさか…ここまで来て会うのってどれだけの確率なの?私達って…≫



「成、どうかした?」

「えっ!?いや…。…あっ!」

「成?」

「ごめん…ちょっと…」




私は友達の背後に隠れようとした、その時 ―――



「ちょっと、成、どうしたの?」

「あれ?成美じゃん」




バレた!



「いえ、人違いです!」

「いやいや、お前どう見たって成美だろう?」


「成、知り合い?」

「いや…別に。多分、人違いしてるんだよ。その人」



グイッとヘッドロックされる。



ドキッ



「わあっ!?」

「人違いだぁ?俺が?」



私の頭を片手でグリグリする。



「痛い痛い!禿げる!」

「禿げろっ!」

「酷っ!」

「お前がふざけた事、言うからだろ!?バカ成美っ!」



「あの、本当に知り合いですか?」


「勿論!同じ学校、同じクラス、同じ帰り道だからさぁ~、なあ?赤河 成美ちゃ~ん」


「し、知りませんっ!」

「まだ言うかっ!」



一先ずヘッドロックを外し私の肩に手を置いている勇史。



肩に伝わってくる勇史の体温が私の胸がドキドキ加速している。



「成、良かったじゃん。実は今、カラオケ屋から出て来たんですけど、この子の自転車盗まれちゃったみたいで」


「送ろうかって話してたんです」

「成、逆方向だからって歩いて帰るとか言って」




頭をポンとする勇史。



ドキッ

胸が大きく跳ねる。



「あー、コイツ意地張りだからさぁ~、素直じゃねぇもんな。大丈夫。俺、送るから心配しなくても良いよ」


「彼女いるじゃん」



「えっ!?いらっしゃるんですか?」

「じゃあ、やっぱり私達が」


「大丈夫!逆方向なんでしょう?女の子だから早く帰りな。彼女は俺が必ず送るから。コイツ乗せて帰るの慣れっこだし俺」


「じゃあ、お願いします」

「了解!」




私達は別れる。



「可哀相に。チャリパクられちゃったんだ!」

「うるさいなっ!あー、そうですよ!」


「成ーー、帰ったらメール頂ーー戴!」


「うん、OK、OK!分かった!連絡する」


勇史が返事をする。



「ちょっと!」

「何だよ。帰って連絡すんだろう?」

「そうだけど……」

「だったら良いじゃん」


「……………」


「ほらっ!帰るぞ!」




ドキッ

私の肩を抱き帰り始める中、私の胸はドキドキ加速する。



≪ヤバイ…勇史、彼女にするような事してるし≫



「ほらっ!乗れよ!」


「彼女に誤解されるよ」

「別れた!」

「えっ?」

「だから、安心して良いから!分かったら乗れよ!」




私は後ろに乗った。




「いや…何か違うんだよなぁ~」

「えっ?」


「俺の後ろに乗せる相手。バカしあって、笑って…。チャリ漕いでて、そうやって帰る方が俺的には良いみたいで」


「そうなんだ」

「ああ。別に特別な意味ねーけど」

「分かってます!」





ねぇ勇史


私も勇史の背中じゃなきゃ駄目だよ


好きな人の背中を


抱きしめて帰りたくて


仕方がなかった……




あなたの背中を


遠くで見つめる事しか出来なくて


凄く寂しくて辛かった……





勇史…


私は……


あなたが好き………











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