第11話 決意、慰めのキス

そして、その日の夜 ―――



♪~


『なるみ、今日の事は本当に誤解なんだ』

『会って話がしたい。明日、今日の所で待ってる』


『来る、来ないは成美次第だけど、来てくれると思ってるけど……』

『俺は、その行動で判断するから』




「……恵祐……」




次の日、待ち合わせ場所に行った。


だけど私は遠くから見つめるだけにした。




♪~~


『けいすけ、昨日の事は誤解だとしても、けいすけと、このまま付き合っていく自信はない』


『今後、不安でいっぱいになりそうだから』





「成美……」




♪~


『なるみ、今、どこにいるの?』

『会って話せない?』




♪~~


『ごめん……会えない』




♪~



『なるみ、俺は君の事は本気なんだよ』

『俺と別れるつもりなの?』




♪~~


『ごめん……私も、けいすけの事マジだよ』

『だけど、あんな所見て……一気に自信なくした』




♪~


『……そうか……分かった……』

『それが、なるみの気持ちなんだね』


『無理に引き止めようと思わないから、もう、これ以上は、何も言わない……』


『傷付けてごめん……付き合ってくれてありがとう……』



恵祐がその場から去って行くのを見届けながら



「……ごめん……恵祐……。お礼言うのは……こっちだよ……本気で……好きだった…のに……。私こそ…ごめんね……恵祐…」



私は崩れ落ちた。





私達は別れた。


私は、しばらくそこから離れずにいた。




好きだけど


別れる決意



人は


何故


決断をしなければ


いけない瞬間(とき)が


あるのだろう?



幸福か


不幸か


決断をした時


未来が変わる



別れを選んだ時


別々の道を歩む事になった時



それをどう取り


どういう結果に


結びつくのだろう……?





「成美?」



ビクッ

慌てて涙を拭き振り返る。



「勇史……昨日に続いて、また……会ったね?」



「そうだな」


「勇史……私の後でもつけてる?」


「いや、そんなストーカー的な行為しねーし」


「じゃあ、GPS?」


「おいっ!」


「なんて…そんな訳ないか……」



私は帰り始める。



「成美」

「何?」

「帰んの?」

「帰るよ」

「じゃあ、俺も」


「やだ!一人で帰りなよ」


「良いだろう?同じ帰り道なんだし。あっ!それとも今から彼氏と待ち合わせ場所に行く感じ?」


「違うし!」


「だろうな」


「だろうなって酷くない?」


「だって、別れたんだろう?」


「えっ?」


「泣いた後が何よりも証拠だろう?」


「ち、違っ…!これは目にゴミ入って涙が」


「目にゴミ……へぇー…目にゴミね~」

「本当にゴミだから!」

「はいはい、ゴミな。でっけーゴミ入ったんだろうな」


「そう!こーんなでっかいゴミが入って、もう痛くて痛くて」


「涙が止まらなかったんだよなぁ~」


「そう!止まらな…かった…んだ…」



抱きしめられた。



「意地張って、変な嘘つかなくても良いから…泣けば良いじゃん…」



抱きしめた体を離す勇史。



「涙が枯れるまで泣けば?」

「涙が枯れたら…干からびちゃいそうだよ」

「クスクス…」



再び抱きしめる。



「干からびたら俺が水分補給してやるよ」


「水分補給って……どうやって水分補給するわけ……?水、沢山買ってきてくれる訳?」


「いや……お前を海に投げ入れる」


「な、何それ……酷くない?」


「嘘だよ。干からびる前に水分補給してやるよ」



「えっ?」



かなりの密着状態で、隠すように勇史はキスをした。



「今日だけ特別。慰めのキスして、お前が元気になるおまじないしてやる」




ドキン


「バカ……」


私は勇史の胸に顔を埋めた。





本当はこれ以上


あなたに弱い所を


見せたくなくて


心配かけたくなくて





――― でも ―――



あなたに慰めて欲しい


そんな思いが


あったかもしれない……




付き合ってもいない私達だけど


お互い


どこか


心の奥で


見えない糸が


引っ張り合って


惹かれあっていたのかもしれない……



何かあった時の為の


切る事の出来ない見えない糸が


引き寄せられるように……








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