第8話 大好きな背中

ある日の事。



「ったぁ~」

「大丈夫?」と、駆け寄る亜衣。

「うん、平気、大丈夫」



その日の放課後。




「軽い捻挫ですね。しばらくは無理な運動は控えてね」



保健の先生から言われた。




「……どうしよう……自転車……」



私は教室に戻る。


既に教室には誰もいない。


迎え呼ぶにも、母親は車の免許は持たない為、迎えは無理だ。


彼氏に連絡も考えたけど、彼氏は学校終わりバイトをしているから無理な話。




「…………」



取り合えず、自転車置き場に向かう。


途中からは掴まるものがなく、ケンケンで行く。



「……ついてない……」


「成美?」



ビクッ


名前を呼ばれ振り返る。




「勇史…いたんだ」

「いたけど」

「そっか」

「つーか、お前、まさか、その足でチャリで帰んの?」

「えっ!?あ……うん…」


「無理だろ?」

「大丈夫だよ。こんなのどうって事ない」



「……ふーん。そっ!じゃあ、そこ退いてもらえる?」


「えっ?」


「俺のチャリそこにあんだけど」

「あっ、ごめん……」



私は捻挫している事を忘れ普通に退き始める。



ズキッ


「痛っ!」



ガクッ


バランスを崩し転びそうになる。



「きゃあっ!」


「うわっ!馬鹿…」



ドサッ



グイッと腕を掴まれ、ぐるりと半回転し、勇史が私を背後から抱きしめるようになった。



「何してんだよ!」



ドキッ

耳元で聞こえる勇史の声に胸が大きく跳ねた。



「…ご、ごめん……」

「お前、本当に大丈夫なの?」



私達は離れ勇史は自分の自転車を取る。



「うん平気だよ」

「じゃあ、帰るからな」

「うん」



私達は別れ、自分の自転車を取るが足に力が入らずバランスを崩してしまい自転車が何台か倒れかけた。



「………………」


「意地っ張り!」



ビクッ


「勇……」


「お前の悪い所!」


「だって、お互い付き合ってる人いるのに頼める訳ないじゃん!」


「そんなの本当の事言えば良いだろう?説明して納得しない方がおかしい」



「………………」



「帰り道なんだから。なっ!一緒に帰ろうぜ。成美」


「…………」



私は足が痛いのもあってか勇史の優しさに泣きそうになった。


私は勇史の後ろに久しぶりに乗った。






迷惑かけたくなくて


彼女に誤解させたくなくて


つい意地を張った




だけど ――――




勇史は気付いていた





でも


あなたの背中は


もう


私のものじゃないから




ねえ勇史


彼女は


あなたの背中を


どう想い


どうやって抱きしめてくれてるの?




あなたの背中は


広くて


温かくて




そして



どこか優しくて



私は


そんな


あなたの背中が


大好きなんだ……



























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