第7話 怒ってる?
「話を聞いてて思ったんだけど、おじさんって不条理に怒ってるの?」
うん。私は不条理に怒ってるんだ。
世の中の理不尽。弱者が虐げられる現実に。
なにより馬鹿みたいに美しい物語を信じた自分自身に。
何の力もない自分に。
怒っているんだ。
だから、この感情を文章に吐き出したいって思ってるんだ。
「すっきりしたいの?」
そうそう。はやくこの怒りから抜け出したいんだ。
物語の主人公は、こんなことで怒らない、人を恨まない。
でも、私は違う。
些細なことに怒り、恨む。
情けないぐらいにちっぽけな存在だ。
「ふーん。おじさんは物語の主人公に憧れて、社会の不条理に負けて、ここで愚痴ってるってことでおっけい?」
うん。
誰かに聞いてほしくて、でも、誰もいないから。
ここで文章に綴ったら、誰か読んで共感してくれるかなって思ってね。
この不条理に対しての憤りを共感してもらいたい。
ふつーはさ、嫌なことされた相手に対して、仕返しすると思うけど、おじさんそーいうの嫌なんだ。というか、もう嫌いになった相手と会話もしたくない。視界にもいれたくない。
でも、ずっーと、怒りを抱えて、もやもやしたまま。時々思い出しては、火山のような怒りが湧き上がってきて、あんな奴、不幸になってしまえ!っと叫んでしまう。こんな気持ち抱えたままだったら、いつか誰かに対して爆発するんじゃないかって、思ったんだ。それは、嫌だったから…こういう場所を設けたんだ。
「ここで、グチグチ言えばいいんじゃない?私はテキトーに聞き流すから」
あ、聞き流すんだ…でも、ロリちゃん。ありがとう。成長しないで。子供のままでいて。
「そこは、良い大人になれじゃないの?」
君は、いまのままで、パぁーフェクトだ!
「きっも!…とりあえず、あたしはカウンセラー役ね。しょーがいないから、ちゃんと聞いてあげる。なんでそんなに不条理なことに怒ってるの?ちゃんと具体的に話してよ」
根が真面目…良い子だ。ありがとう。ロリちゃん。
お礼にレーズンバターサンドあげる。
「もっ…しっとりとした味わい…ぷまい…」
どうして、私が不条理なことに怒ってるのか…。
きっかけは、些細なことの積み重ねだよね。
私が物語の主人公になりたいから。
その他の周囲の人たちには、物語の役を演じてほしかったってこと。
でも、現実世界は、そんな都合の良い話はないわけで。
自分の考えていた筋書き通りにいかなかったら、私はすごく不条理に感じた。
そして、そのことにものすごい激しい怒りを感じたんだ。
…そう、あれは、私がまだ働いていた時。
職場に後輩ができた。私は、怒るのが嫌いだった。
理由は単純で、自分がそういう指導をされて嫌だったから。
だから、怒らずに優しく指導をしたんだ。
結果、後輩が失敗しても怒らなかった私は、その後輩になめられてしまう。
上司から後輩が業務で大変そうなので、先輩としてフォローするように指示された。何が困ってることはないかと聞いたら、手が回らない仕事をやってほしいと言われた。私は、その仕事を引き取った。しかし、自分の仕事もやらなきゃいけない。だから、休日出勤して、後輩の仕事をした。職場には誰もいなかった。気が付けば、涙が溢れていた。
「…」
その後輩は、よく私に対してマウントをとってきた。
可愛い恋人がいること。私の失敗に対して、自分はそんな失敗はしないと、わざわざ上司の前で言った。
そこで、ようやくわかるんだ。怒るってなめられないようにっていう意味もあるんだなっと。自分はもう先輩として慕われることはないと感じた。
物語だと、生意気な後輩が頼りない先輩に対して、尊敬したりなんてシーンがあるけど。後輩にとっては、助けられるのは当たり前で…尊敬することはなかった。
そして、私にはドラマや漫画に出てくる頼りない先輩みたいな強靭な精神力はなかった。私はもう疲れて、何もかも嫌になって、その会社を辞めたんだ。
「辞めなくてもよかったんじゃない?それに、後輩を助ける余裕なんてないって突き放せばよかったじゃん…」
いま、冷静になって考えるとそうなんだよね…。
当時は、仕事で疲労していて精神的にぼろぼろで。余裕がない、大変だと言わなくても、みんなわかってくれるって、甘すぎる期待をしてたんだ。
だって、ピンチの時は、仲間が何も言わずに助けてくれるっていうお約束を嫌というほど、物語で読んできたわけで。あと、助けてほしいっていうのも情けない気がした。
「うん」
結局、おじさんは、つぶれたんだけどね!
そーいうことあったから、怒鳴る人のこと少しだけ理解した出来事だった。
次に転職した先に、なめられたくないという考えの人がいた。
この人も事あるごとに、私に対してマウントをとってきた。少しの失敗や些細なことで怒るんだ。
「それで、どうしたの?」
ほっといたんだ。別になめてるつもりはないし。
そのときは、理不尽に怒る意味も理解したから。
「ふーん…」
そしたら、職場の上司に、私の態度が悪いと報告された。
「え゛?」
個別面談のときに、上司は決めつけて私に言ったんだ。
態度が悪いと報告があったと。あと喋り方がおかしい、ニヤニヤと笑ってるなど。
「それで…?」
接客業だったからね。お客様からそういうクレームがあったんですか?と聞き返したんだ。
「うん…」
クレームはないとのことだ。喋り方も、前の会社では注意されたこともなかったしね。
「そっか」
そんな風に言われたこと、評価されたこと悔しかったよ。ここらへんで感情が爆発した。気が付けば、怒鳴り返していた。そんな行動に出てしまった自分にショックだったよ。嫌だなって思っていた人間に自分がなっているんだから。
「うん…」
私は…なるべく仕事中、職場で困ってる人を助けたいと思っていたし、そういう行動をしていた。
せめて少しでも主人公らしくいたかったから。
前の職場はさ、助けた人たちが辞める直前に色々と、助けてくれた。
助けたことは、いつか恩返しで返ってくるんだと思った。とても嬉しかった。
でも、転職した先は、誰も助けてくれなかった。それが、悔しくて恨みがましくて。
恥ずかしい話だけど、私の人生ってあんまり大きな試練ってなかったんだな。こんなことで怒って絶望したんだから。ぬるま湯の人生だよ。
まぁ、結局、ここも辞めて、晴れて30代ニートの爆誕である。ニートな日々を過ごしている。一応、転職活動するけど、なかなか就職できないのさ。
「落ち込んでる?」
うーん。とりあえず、今は実家で寝るところと食べるところが保証されてるから。
親には申し訳ないけど、すねをかじらせてもらってる。実家が太いってめっちゃ救済。
「でも、おじさんなりに頑張ってたんでしょう?」
うん。まぁ…腐ってるけど、まだ死んではいないよ。
みっともなくても、人生一度キリだからね。
「世間体なんて、気にしてる場合じゃないよ」
その通り!やだ!この10代さとりすぎ!
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