第24話 親友

 ようやくレバンドの城壁に、幌馬車が到着した。到着した途端、門番のバグジーさんがすっ飛んできて、ハルトと再会を喜んでいた。重症のマッシュはすぐにギルドが手配した馬車で街の教会に連れて行かれた。どうやら、回復魔法があまり効かないのは厄介な呪いのせいだという事らしい。なにはともあれ、専門家に任せる他ないようだ。

 総合リーダーのジェイクと代理のハルトがギルドマスターに今回の件の報告に上がっている。ハルト達の救出とバーグが呪いのアイテムでマリエラ共々行方不明になってしまった事など、色々ありすぎて大変だろう。



 私といえば、商人ギルドでレオンさんにご報告に上がってる次第である。


「すみません、そのままの汚い格好で」

「いや、かまわないよ、君達の無事帰還が何よりだ」

相変わらずの紳士だ。


「それで、ジェイクさんから預かった例の品です」

赤く輝く首飾りをテーブルに置くと、レオンは白い手袋をはめて手に取って拡大鏡でじっくり観察する。

「ふむ、宝石はルビーのようだが封じられてる魔法がわからないな」

「PTの魔導士にも鑑定してもらったんですが、分からずじまいでした」

「父の知り合いに、古代王国の研究をしている変わり者の爺さんがいるからそっちに調べて貰ってくれ、場所は後で紹介状と合わせて送るよ」


「はい、それとこれですね」

持ってきた荷物を開けて一つずつテーブルに置く。

「ほう、これは」

興味深く置かれていくカップや水差しなどを眺める。

「一つずつ調べてる時間がなかったのでまとめて持ってきて、その中から私の見立てで価値がありそうなものを持って来ました」


「ふむ、これは美しい文様だ。特にこちらの水差しは良い代物だ」

「たぶんですが、ノイストール王国の前身、ストール王国の物ではないかと思います。下に金色のラインが三本入ってるのが特徴でしたし」

「うむ、たしかに君達が訪れた遺跡はストールのあった場所と一致してるから間違いないだろう」


「あと今回の大物はこの額縁ですね。いわゆるストール模様と言われた模様が施されてる額縁です。残念ながらはめられていた絵はすでに破れて風化してましたんで、外しましたが」

「これは素晴らしい、絵が失われてるのは残念だがこの額縁だけでも十分だ」

あの時、捨てなくてよかった逸品だ。


「ありがとうございます」


「さて、早速だが買取としてはすべて合わせて金貨200枚でどうだろうか?内訳は額縁が100、水差し50その他がまとめて50という所かな」

「はい、問題ないと思います。本当は食器がセットになってればよかったのですが」

実際、単品よりセット物の方が人気が高いが、ゴブリンが荒らして割れてしまってたのは惜かった。


「まあ、状況を聞く限り仕方ない部分もあるでしょう、次に期待かな」

レオンは座り直すと足を組んで、パンパンと手を叩くと隣の部屋に続くドアが開き、老紳士がトレーの上に金貨を載せて運んで来る。


「確認をお願いします」

老紳士に言われるまま、金貨の数を数えてると、レオンが一つの提案をして来た。


 要は専属冒険者にならないかという事だが、当然行動に制限がかかってしまうので、そこは丁重にお断りした。


「うん、残念だ、冒険者で鑑定眼を持っている人は多くいるが、君の様に審美眼がある人は貴重なんだがね」


「専属とまでは行きませんが、今後私は色々なところに行こうと思っていますので、そこで手に入れた古代の調度品はレオンさんに優先的に提供するというのはどうでしょう?」

「ふむ、それは願ったりだね。現状はその方がお互いの為という感じかな」

冒険の真の目的は言えないが、こうやって昔の自分の得意分野で名のある商人さんに目を掛けてもらえるのは、やはり縁の力なのだろうか?



「金貨200枚確かに頂戴しました、ありがとうございます」

「いや、お礼を言いたいのは僕の方さ、だが僕はまだ諦めないよ」

ハハハハと笑い、懐から小さな袋を出し、目の前に置く。


「十分満足のいく成果だったからね、これは約束の別報酬だ」

金貨といくつかの宝石が入っていた。ちょっと多いくらいだが、これからの事を考えるとありがたい。


「それでは、今後ともよろしくお願いします」

お互い立ち上がり契約成立の握手をしたとき、不意にレオンの口からこんな言葉が出てきた。


「そういえば、ふと思い出した事があるんだ」

「なにか?」

「僕は15歳の時、後学の為として父にエスペローゼ王国の王城に連れられて行った事があるんだ。」

「?」

「その時に父の交渉相手をしていたのが、君と同じ名前のアンジェリカ王女だったんだ、僕より2つ年上だったけど、骨董品に精通していて父も舌を巻いてたよ」


「でも、その方は勇者戦役でお亡くなりになってましたよね」

(過去の自分を知っている人に会う。なんだろ?心の中がモヤモヤして私が私でないような気分になる)



「そうだね、僕は彼女の訃報を聞いたときはショックだったよ、とても優しくしてくれた方だったからね」


「なぜ、私にその話を?」


「なぜだろうか、君に初めて会って骨董の話をした時から、同じ名前のアンジェリカ王女を思い出してしまってね。――ああ、すまない、君は君だ、つまらない話をした」

(いけない、顔に出ていたのだろうか?不快そうな表情が)


「いえ、大丈夫です、こちらこそ失礼しました」


 そうしてレオンに別れの挨拶をして家路についた。その道筋は先ほどの態度とモヤモヤで足取りが重い。



 久々にアパートメントのドアを開けるとマダムが食事にの下ごしらえをしていて、私に気が付くといつもと変わらない笑顔で迎えてくれる。


「ただいま帰りました」

「あらぁ、アンジェちゃんおかえりなさい。今日はハルトちゃん達も帰って来るから夕飯はお祝よ」

マダムは私の顔を見るとニッコリして部屋に行くよう促す。


「疲れたでしょう、夕飯までは時間がまだあるから少し寝てらっしゃい」

「はい」

こういう時のマダムのさりげない優しさは心に染みる。


 しばらくベッドでうつ伏せになって、ウトウトしていると階段をドカドカ上がって来る音がした。案の定フェリアがノックもせず、開口一番言ってくる。


「ちょっと、アンジェさんよ今回の骨董やらクエスト報酬やら全部ジェイク達に渡したって本当かよ~、あたしの借金、もとい、あたしらの報酬どうなるの?」

文句を言いつつ周りを見渡す。


 真っ暗な部屋の中、脱ぎ散らかった鎧やら荷物やらが散乱して本人は下着姿でベッドに突っ伏してる様子を見ると、頭をガシガシ掻くとベッドと縁に座り、頭撫でてくれる。

「どうした?」

声を掛けられたのと同時に、フェリアの胸に抱き着くと二人でベッドに倒れ込む。


「おいおい、本当にどうした?」


「私は・・・ずるいやつなんです」


「はあ?」


「本当にずるいんです」


「何があった?」

涙目の顔を覗いて聞いてくる。


「・・普段はハルトなんかに昔を重ね合わせてるくせに、自分の王女時代を知っている人に会って、その事を言われるとすごく嫌な気分になるんです・・・」


「本当の事が言えないから?」


「それもあるけど、なにより今の自分が偽物のような気がして、これからえにしで会う人達にどんな顔をして会えばいいか分からなくなってる」


「んー、別に顔を作る必要なんてないんじゃね?」


「え?」


「ずるくて結構!こっちは世界の為に半ば強制的に生まれ変わってるだから、多少の我が儘を通させてもらわないと、やってられねーつうの!」


「うん」


「だから、お前は今のままでいいんだよ、今、ここにいるのが本物のアンジェリカなんだから」

フェリアはそう言いながら優しく頭を撫でてくれる。


 損得なしてこう言ってくれる人が近くにいる事は本当にありがたい事だ。これが封印の巫女の繋がりであろうが、なかろうが。





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