第25話 宴

 暖かい、人に抱かれて眠るのはいつ以来だろうか?


 そんな夢の中のまどろみの中でうつらうつらしていたら、突然、間近で言い争う声が聞こえてきた。

「ちょっと!あなた何してやがりますか」

バシン!

「いって、なんだお前は!」

「離れなさいよ」

バシ!バシ!バシ!

「痛て、痛って、うわ!」

ガタガタン!!


「え、何?」

寝ぼけ眼で回りを見渡すと、フェリアがベッドから落ちて足だけ見える。そしてその横には箒を持って仁王立ちしてる青い髪の小柄な女の子が立っている。


「パ、パルシェ?」

「アンジェさま、大丈夫ですか?抱きついていた変質者は排除しましたよ」

「誰が変質者だ!」

箒で散々叩かれた逆さまのフェリアが抗議の声を上げると、また箒を構える。


「まだ懲りてないようですね」

「ちょっとまてーい、だいたいなんでパルシェが此処にいるんだ、お前はジェイクの所の魔導士だろ!」

「ああ、にいさんにはPTを抜けてこっちに入ると言ってありますから問題ないです」

「問題あるだろ、メンバーがおいそれ抜け・・・にいさん?」

「ええ、ジェイク・バレンシアは私の実の兄で、妹のわたしはパルシェ・バレンシアです」

「まじか・・」

「でも、フェリアが言った通り簡単に抜けてしまって大丈夫なの?」

私が聞くと、ニッコリしてリビングで夕食を取りながら話します、と言って降りてゆく。その様子を見送ると私とフェリアが顔を見合わせていた。



 二人してリビングに降りていくと、とてもいい香りがして来た。マダムが腕によりをかけた料理が並ぶ予定のテーブルの先にハルトを見つけた。

「ハルト、帰ってきてたのね」


「おう、なんだ寝てたのか?目が腫れぼったいぞ」


「あ、うん、そうちょっと疲れちゃってね」

頭を掻きながら席に座る。少し情緒不安定だったのが恥ずかしく照れ臭い。


「まあ、初仕事が往復二週間の仕事だったしな」

「あんたのせいだっての」

フェリアが何気に突っ込みをいれるとニヤリと笑って腕を組む。

「まあ、初心者にはいい経験になったんじゃないか?」


「罠に掛かってたやつがよく言うよ」


「お手数おかけしました」

うやうやしく頭を下げながらお互い笑いあった。

「「ハハハハハ」」


和やかな雰囲気の中、先ほどの事が頭に浮かび聞いてみた。

「ハルトはパルシェの事知ってたの?」


「ああ、それも含めて言っておく事があるんだ」


「うちのPTはしばらく、というか、まあ解散することになった。五人をうち三人がいないとなると今までのように出来ない。それにジェイクの所はパルシェが抜けると言っていたから、うちのカノースを入れて貰ったんだ」


「ん?あの時それぞれ六人いなかったっけ?」

「ああ、彼らはポーター(荷物管理)で長距離の時に入ってもらう臨時のメンバーさ」


「なるほど、そういえばマッシュ君の容体はどうです?教会の診療所に連れていたみたいだけど」

「ああ、ちょっと厄介な呪いだったがある程度時間を掛ければ元に戻るらしい。ただ、めっちゃ高い治療費を払わされたよ、お前のお陰できっちり前払い出来たけどね」


「それはなによりです。で、ハルトはどうするの?」

「俺はお前の所にパルシェと一緒に入れて貰おうと思ってる」

ハルト達はD級なのでてっきり同じクラスのパーティーに入るのかと思っていたので、その答えは少し意外だった。


「うちってフェリアと二人の新人チームなんだけど、いいの?」

「ああ、問題ない」


「剣士、戦士、剣士で脳筋チームだな」

「わたしもいるんですけど」

「ああ、忘れてた、箒で人の事殴る狂戦士バーバリアンがいたわ」

「なにおー」

封印の件を考えれば妥当だとは思う。なにぶんフェリアと相性が悪いように見えるけど大丈夫でしょう・・たぶん。


 二人が戦いの構えをしてる所に美味しそうな匂いを漂わせて、マダムが大皿に御馳走を載せてやってきた。

「ハイハイ、お話がまとまったなら夕食の時間よ~」

後ろからシチューの鍋を重そうに持ってきたリルルがハルトに向かって不平を漏らす。

「うらー、手が空いてるなら手伝えよ~」

「お、悪い、悪い」

リルルから鍋を受け取るとテーブルの鍋敷きの上に載せる。


「じゃあ、私達も食器を運びましょう」

「はい、お姉さま」

「同じ年じゃん」

「気持ちの問題ですぅ」

二人に声を掛けると早速始まるじゃれ合い、こういうのも悪くないなあと思いながらお皿やコップを運んで行く。


 全ての準備が揃うと、それぞれ席に着いて六人での食事だ、徐々に賑やかになって来たなと思う。

「えー、今回はハルトちゃんの無事帰還した事とパルシェちゃんが204号室の新しい住人になった事、それからアンジェちゃん達の初仕事成功を祝って乾杯!」


「「乾杯!!」」

各々がコップを上げて声を上げると、パーっと飲み干すと早速料理に手を伸ばす。やっぱりマダムの食事は最高だ。




 カポーン

天井から落ちる雫は相変わらず冷たい。散々飲み食いした分、湯船でまた眠くなってる気分に水を差す。

「あーいっぱい食べたから今日はぐっすり眠れそう・・きゃ!」

湯の中で伸びをすると隣のフェリアが脇をつついてきた。

「アッハハ、良かったよ元気が出てきたみたいで」

「もう・・・ありがとう、大丈夫よ」

「そりゃ結構、落ち込むたびに抱き枕にされちゃ困るぞ」

子供みたいにずっと抱きついて寝ていた事を思い出し赤面した。


「フェリアは転生してから落ち込む事ってあった?」

「そりゃあるさ、4歳ごろから記憶が戻ってるんだから、精神年齢的なバランスの悪さは不自由で仕方なかったな」

「・・・だよねえ」

大人の思考をしている子供ほど、気味が悪いと思われても仕方がない。


「昔さ、あたしにも親友って呼べる奴がいたんだ、ガキの頃から一緒でいい奴だった。」

「あなたは割とサバサバしてるから、友達多そうだけど」

「そうでもなかったな、割と自分勝手なやつだったし、そいつぐらいだったかな」

「あ、わかってるんだ」

「おい」


「料理が上手でいつもおやつに平たいパンを焼いて持ってきてくれて、よく二人で食べてた。大人しい奴だったけど、変に馬が合っていつも一緒にいたんだ」


 昔を懐かしむように目を瞑る。

「それから数年後に勇者がロベルタに攻めてきた。当然みんな迎え撃つ為、武器を取ったさ、あたしも含めてね。ただ、あいつはあまり乗る気じゃなかったな」


「勇者戦役の一番最初の戦いね」

私が言うと頷く。

「ああ、そしてあたし達は義勇軍として城門の裏手で配置されてたんだけど、轟音と共に城壁が一枚、一枚崩れて更地になっていく様を見て恐怖しか感じなかったよ」


(たしか、ノイストール王国が従属決定してしまうほどの逸話だったはず)


「これはマジでやばいと思って、彼女の手を引いて逃げようとした時、次の攻撃で爆発音と共にあたし達は他の仲間と共に吹き飛ばされ、気が付いたら彼女が城壁の瓦礫に挟まれてたんだ。助けようと手を伸ばした瞬間、光の玉が向かって来て、その後はお前さんに会った神様部屋にご招待されてたわけ」


「え、じゃあその友達は?」

「わからん、でもあの状況じゃあねえ」

そう、言いつつ天井を眺める。


「一時期はあのシーンが夢の中によく見る事が多かったけど、なんでかな?お前さんと会った時からあんまり見なくなったな」

「あら、それは光栄ですね」

顔を見合わせて笑い合う。すると、浴室のドアがバーンと開いて素っ裸のパルシェが叫んで入って来る。


「ズルいです!お姉さま~、わたしも誘ってください!」

それを見た私はフェリアに目くばせすると、意を察し二人で湯船からザバッと出ていく。

「ごめんなさい、パルシェここに入るには儀式があるの」

「え?ぎ、儀式ですか?」

パルシェが目をぱちくりする。

「そーだよ、このヘマチという儀式がね、そのツルペタがさらにツルツルになる」

二人でニヤニヤしながら羽交い絞めにして泡だらけのヘマチで一擦り、二擦り、三擦り。


「ぎにゃー!!!」

満点の星空に湯けむりと共に、パルシェの叫び声がこだまする。

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