第22話 欠片

『おいおい、お前はいつまでそんな惨めな地位で満足しているんだ?』

―――頭の奥で人を小ばかにしたような声が響く。

「何?俺が惨めだと?!」


『だってそうじゃないか?名目上はPTリーダーだが、実質別の男が仕切っているし、今回のPTだって他のPTリーダーがリーダーをやっているじゃないか?』

―――ギルドの決定にマリエラ以外、誰もが賛成していた。

「そ、それは・・・」


『まあ、仲間を二回も見捨てて逃げればそう、判断されるよな』

―――ハルトが気に入らなかった、上手くいけば勝手に死ぬと思っていた。

「ち、違う!見捨ててなんかいない」


『結果的にはそうなっているから、そう見られてるんだろ?』

―――俺は間違ってなんかいない、俺の判断はいつも正しかった。

「・・・」


『誰からも畏怖されるような力がないから、周りから舐められるんだよ』

―――力が欲しい、誰も文句が言えないほどの。

「そんな力が簡単に手にはいるなら、俺はとっくに勇者にでもなっている」


『あるさ』

―――どこに?

「そんなものが・・・あるわけ・・」


『ここだよ』

―――ああ、あった。


『なら、いつまでそんな惨めな地位に甘んじてる?』



                ◇ ◇ ◇



「じゃあ、行くぜアンジェ!」

「いつでもどうぞ」

ポールアックスを構え、一気に壁際のゴブリンメイジ目指して突撃を始める。

続いて、ショートソードに持ち替え、私もダッシュして続く。


 ギギ?!まさか突撃してくると思わなかったのか、進路上のゴブリン達は狼狽えて足が止まる。そこへフェリアの一撃が入り、同時に三体がなぎ倒され、さらに進撃が続くと、メイジは自分が標的なのを察し、魔法をぶつけようと詠唱を始めた。


「左に飛んで!」

「お、おう」

「一マスジャンプ!」

「ひ、ひとます?」

戸惑いながらジャンプして、着地地点にいるゴブリンの顔にニーキックを食らわす。


「はい、右に行って」

「おぉ!」

「そのまま、真っ直ぐ!」


 罠を回避しながら、前に立ちふさがるゴブリン共を切り伏せると大振りのポールアックスの隙を付いて、横から突き刺そうと槍を繰り出すが、私の剣が槍先を切り落とし返す刀で敵をなで斬り倒して、フェリアの後に続く。


「ギャイギギ!」

ニヤリと笑い、詠唱の終わったメイジがフェリアに魔法をぶつけようと構えた直後、マリエラとロビンのファイヤーボールが二つメイジに向けて飛来した。

咄嗟にメイジを守る盾持ちが防御するが、前方を塞ぐ形になり魔法を放てなくなってしまう。


「今!」

「よっし、いっけぇ!」

その間隙をついてフェリアの背中を踏み台にして盾持ちを乗り越え一気にメイジの頭に必殺の一撃を加えるとメイジは何が起こったのか分からず絶命した。


「?!」

 盾持ちが慌てて振り返るが、フェリアがそれに合わせて一撃を加えて二体とも倒す。


「敵に後ろみせちゃ、盾も意味ないな」

 へへっと笑って倒れてるメイジと盾持ち二体を見ながら、背中の足跡を払う。


「・・これだね」

メイジの死体から首に掛けてある、赤い宝石を収めたネックレスを取る。そしてマリエラ達の方に投げるとすぐに理解してもらえた。


 残ったゴブリン達が狼狽し始めたのも束の間、ミスリルの干渉を受けず、魔法使えるようになった二人は次々なぎ倒して行く。

その勢いのまま、前衛達も十分な支援を受けられるようになり、最初の苦労はどこへやらアッサリと勝敗は決した。



 ジェイク達の場所に戻ると、みんな座り込んで休憩している。メイジの攻撃をもろに受けたリンダはカノースが本来の回復魔法で十分に立てる位回復していた。


「みんな、ご苦労だった。傷を受けてしまった者もいたが全員無事だったのは、なによりだ」

「特にフェリアとアンジェリカの新人とは思えない活躍は称賛に値する」

ジェイクが変に褒めるから案の定、調子に乗る

「よせよ~、ま、あの程度朝飯前だけどな!ハハハハ」


「それにしてもあのタイミングでの、マリエラとロビンの火球は本当に助かったわ、流石の判断力ね」

私の評価に二人とも照れていた。


 吊り下げ牢で活躍を見ていたハルトは皆の無事にホッと胸を撫で下ろしていた。横で眠っているパルシェも大丈夫そうだったが、ふと目を祭壇の方に向けると、バーグが祭壇上の短剣に手を伸ばしてる。


「おい、バーグ!何してるんだ」

上から声を掛けると、皆が一斉に祭壇の方に目を向けるとバーグの手にはすでに短剣が握られており、その目は漆黒に変わり体中から異様なオーラが漂っている。



 胸の下の紋章がジクジクと痛み、思わず抑える。フェリアを見ると彼女もお尻の部分を押えて無言になっている。

相手が魔神に関わる何かという事はたしかだ。


「おいおい、バーグ、お宝独り占めはないんじゃない?」

マッシュが不用意に近づくと、バーグの左腕が伸びて顔を掴む。

「な?!」


「ああ、独り占めはよくないな、お前も一緒にこの力を共有しようではないか」

「は、はなせえ!!」

手を振りほどこうと藻掻くが爪が食い込み外れない。それどころか、腕から出たオーラがマッシュの体を包み込み徐々に何かを吸い取られるように痩せてきた。


「あ、あああああ」


 ザシュ!!一閃、アンジェリカはマッシュの顔を掴んでいた腕を切り落とすと、痩せこけたマッシュが床に崩れ落ちる。


「そこまでにしておいて下さいませんか?」

胸の痛みを噛み殺しながら、剣を構えると隣にフェリアも来て獲物を構える。


 腕はシュルルと元にもどり、手の平を見てからこちらに目を移す。

「おやおや、ひどいなあ魔族のお姉さん、折角一つになろうとしていたのに」


「あなたは何者です?」

「やだなあ、バーグですよ~但し、大いなる力を手に入れた新生のね」

右手に持っている短剣を弄ぶようにしながら答える。


「さて、目的の物が手に入ったから君たちと遊んでる暇はないんだ。これからやらなくちゃいけないことが多いからねえ」

そう言うと徐々に浮き上がっていく。そしてそれを見たマリエラがバーグに駆け寄ると

「待って!バーグどこへ行くの?」

「マリエラ、君はいつも俺を信じてくれた。君だけは俺について来てくれた。」

相手を小馬鹿にした口調が、元のバーグの声に戻る。

「まだ俺を信じて、ついて来てくれるかい?」

そう言いながら手を差し伸べると少し戸惑いながらマリエラは頷き、手を取る。


「マリエラさん!だめです」

「おい、行くな!」

何とか彼女を掴もうとしたが、天井に現れた光の入り口に勝ち誇ったような顔のバーグに抱かれたマリエラ共々消えてしまった。


皆、目の前で起きたことが夢の出来事の様に動くことが出来ないでいた。



「もしかして、あれが神様が言っていた魔神の欠片か?」

「・・・多分、というかほぼ間違いないと思う」


恐らく、本体である欠片はあの短剣でバーグは依り代に過ぎないのかもしれない。




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