第21話 罠

 倒されたゴブリンや足跡を追って、地下河川をしばらく歩くと不気味な雰囲気をもった大きな扉が現れた。

「なんですかこれは・・・」

カノースが青い顔で見上げる。

同じ法術士のリンダも青い顔で見上げてる。


「どうした?そんなにやばいのか?」

ジェイクが二人の様子を見て、動揺をみせるとマリエラがなんとかスキャンを試みる。

「弱いですが、反応が二つあります」

「中にいるのか!」


「ここでグダグダやっていても仕方ない、取り合えず中を調べよう」

バーグが痺れを切らしたかのように強い口調で言うと、他の面々も同意する。たしかに、ここにずっと居ればゴブリンが集まってきてしまうかも知れない。


 ドクン!

「?!胸の紋章辺りが熱い・・・」

 私は周りに気づかれないように胸の下を押える。隣を見るとフェリアもお尻の辺りを気にしてソワソワしている。

「フェリア、この胸騒ぎはなんでしょうね」

「ああ、なんかヤバイもんがあるようだ」


 そうこうしているうちに二人の盗賊が扉を開け始めた。徐々に開くと薄暗い墳墓の様な場所に出た。上の方から光の筋が何本か室内を照らしている。


「なんだここは?俺たちは下に降りてたような気がしたが、地上に近いのか?」

「おい、あれを見ろ」

ジェイクが指を指した所に祭壇があり、奇妙な装飾をされた美しい短剣が台の上に掲げられていた」

「おいおい、ちゃんとお宝あるじゃねえか」

マッシュが祭壇に近づこうとした瞬間、真上の方からしゃがれた声が掛かる。


「ま、マッシュ!止まれ!近づくな!!」


 シャコンッ! びくっとしてマッシュが歩みを止めたと同時に床から細い槍が三本、運の悪い者を串刺しにする為に、競りあがって来た。


「・・・ふぃ~」

鼻先をかすめるほどギリギリの距離で、何とか命を取り留めた。

皆が上を見ると、金属製の鳥かごの様な吊り下げ牢屋にハルトとパルシェが捕まっており、下を見ていた。


「ハルト!無事だったのね」

私が声を掛けると、少し痩せた顔で驚いている。

「なんで、アンジェがここに?」

「ジェイクさん達の救出隊に入れてもらったのよ、多少強引に」

ウインクすると、弱々しく笑う。


「パルシェ!無事なの?」

アリサが下に来て声を掛けるが反応がない。

「・・大丈夫だ、ちょっと憔悴しきって声が出ない」

ハルトが代理で答える。その返答を聞いてパルシェの仲間が安堵する。


 ジェイクが腕組みしてどうやって下すか思案している。

「どこかに下す装置があるはずだ、それと罠がいろいろある様だからお二人さんには頑張ってもらうしかなさそうだ」

アリサとマッシュの顔を見る。


「さっきみたいに罠に自ら突っ込まないでよ?」

「へへ、すまねえ、ついお宝に目が眩んだ」

アリサが肩をすくめて注意すると、マッシュは自分の顔を叩いて気合を入れなおす。


 しかし、罠と装置を探そうと動き始めるそれより前に、片付けなければならない案件が出てきたようだ。


「みなさん、警戒してください。ゴブリンの群れです」

私の声に、全員が武器を構え戦闘態勢に入る。


 ギギギと耳障りな声が上げながら、祭壇部屋の壁に空いている四角い小窓からゾロゾロと湧いてくる。四方からやって来る数はざっと五十匹くらいだろうか。


 ジェイクが全員に指示をする。

「魔導士と法術士は内側、その他は円陣で外側をガードだ、罠が発動すると厄介だからなるべく移動せず、特に祭壇には近づくな」

「おう」

「了解です」

「わかった」

各々、配置に着き始める。


「ハルト、もうちょっと待ってて」

私はそう言いながら水の入った革袋をハルトに投げると、うまくキャッチして親指で合図する。


「バーグ準備しろ!」

ジェイクが声を掛けるが彼は祭壇の短剣を凝視したまま動かない。

「バーグ!」

さらに大きな声で呼ばれると、ビクッとしてこちらを見る。

「ああ、悪いちょっとぼーっとしてた」

「頼むぜ、前衛主力なんだから」

マッシュが肩を叩いて励ますと、コクリと頷くが心ここにあらずという感じが否めなかった。


「おいでなすった!」

 壁から降りてきたゴブリンが一斉に襲い掛かって来た。

「うらぁ!!」

 ジェイクの長剣が唸りを上げて二体同時に切り裂く。それを見たフェリアも負けじとポールアックスを豪快に一振りすると先行したゴブリンの体を真っ二つにし、さらに棒の部分に当たった別の個体は十メートルほど吹っ飛ばされ仲間に当たり数体倒れる。

「やるな!赤毛」

「へへーん、任せて!」

「?!」

 ドヤ顔してる所へさらに、ボロボロのショートソードでフェリアの背中を切りつけようと襲い掛かって来たが、私は素早くシュッと弓を素早く引き、頭を射抜く。

「そういうのは後でね」

「へいへい」

 そう言いながらも左手にはポール部分の仕込み刀を持っていた。彼女の戦士としての能力が自慢するだけの高さがあるのを改めて認識する。


 次から次へと襲い掛かって来るゴブリンを弓で射って行くが数がなかなか減らない。アリサやマッシュもナイフを使い果敢に戦ってはいるが、攻撃魔法がほとんど使えないのが致命的だ。


「きゃぁああ!」

その時、ライトニングアロウがリンダに直撃し、電撃の痺れと矢のダメージで悶絶して倒れる。


「何?!魔法?ゴブリンメイジがいるのか」

ジェイクが叫ぶ。

すぐに隣に居たカノースが回復魔法を掛け致命傷は避けられたが、戦闘続行は不可能だった。すぐさま、夜目を使ってメイジの位置を特定して矢を射かけるが護衛の盾持ちに防がれる。

「チッ!」

思わず悪態を付いている事に自嘲した。


「おかしいです、あのゴブリンメイジは魔法の威力が落ちていません」

マリエラがシールドで敵の矢と魔法をギリギリ防ぎながら疑問を口にするが、たしかにそうだ。威力がまったく落ちていない。


「では、本人メイジにその疑問の答えを伺いましょうか」

私がそう言って、フェリアの方を見るとニヤリとしている。


「まさか突貫するのか?」

ジェイクが敵を防ぎながら振り向くと、私はコクリと頷く

「どの道、このままでは被害が大きくなって瓦解してしまいます。ならばメイジの秘密に賭けましょう」

彼は少し迷ったようだがすぐに決断した。

「よし、突撃の際は赤毛とアンジェリカに支援魔法を!」


 こういう時の即断即決は非常に助かる。


「罠はどうするの?」

マリエラが当然の質問をしてくる。

「先ほどから見ているとゴブリン達はこちらに攻撃を仕掛ける時、特定のルートで仕掛けてきます」

「なるほど、奴らが通る道が安全なんですね」

「すまん、覚えてない!」


 フェリアの言葉に呆れつつ

「だと思いました。私が後ろから指示出すからそれに沿って移動して頂戴」

「よっしゃ!」


 メイジ突貫作戦が開始された。



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