第20話 遺跡

 松明の火が洞窟の外壁をチラチラ揺らしながら浮かび上がらせる。前衛、中衛、後衛とひとりずつ持ち、慎重に進んで行くと、少し開けた場所に出た。


「一応ここが最初の場所で、前回はあの前にある扉から進んだんだが、途中でゴブリンに襲われて、戻る途中橋が崩落して二人と別れてしまったんだ」

ジェイクが私達に経緯を説明してくれた。

「なるほど、右の扉は?」

右には前方の扉より簡素な扉がある。


「内側からかんぬきが掛けられてて開かなかったんで、後回しにしていた」

「魔法で吹っ飛ばそうとも考えたが、何が起こるか想像つかなかったんで、やめたんだ」

「懸命だと思いますよ、未知の場所ですし、それと左の扉はどうです?」

私が言ったとたん、全員がこちらを向いた。


「左に扉?そんなものが・・・」

盗賊のマッシュが左側の壁に近づき、調べ始めるとすぐに気が付く。

「――あった、隙間がある」

すぐにアリサも近づき、一緒に調べ始めると鈍い音がして扉に隙間が出来た。


「迂闊だったな、もっと全体を調べていればわかるレベルだ」

マッシュが罠がないか調べながら悔しそうに呟く。

「探知魔法は使わなかったんですか?」

そう、私が言うとマリエラがすぐに否定した。

「だめなのよ、私もパルシェさんもここで探知の魔法をそれぞれ使ったんだけど、何かに邪魔されてるみたいにノイズが多くてわからないの」


「あーあれだろ?魔法の攻撃を防ぐためにミスリル片の混じった石を切り出して建物のあちこちに配置してるんだろ?」

フェリアが珍しく知的な事を言ったので、みんな唖然としている。

この四日間であなたの印象はみんな同じなんでしょうねえ。


「おいこら!こういうのは得意分野なんだよ!失礼しちゃうよなあ」

プリプリ頬を膨らませて、憤慨する様子を見て苦笑する。


(それにしても、貴重なミスリル鉱石を遺跡全体に張り巡らせるなんて、聞いたことがない)


「となると、魔法主体に傾向するのはよくないな」

「マリエラとロビンは攻撃より強化支援に回ってくれ」

「「わかりました」」

二人の魔導士が同時に答えた。


「よし、いくぞ」

ジェイクとバーグが半開きのドアをゆっくり開けると、細い回廊が暗闇に続いているようだった。



 通路の壁は今まで見たいな岩を掘った感じではなくレンガの道がずっと続いてる。何時間も歩いているような錯覚さえ覚えるような同じ風景に不安が積もる。


「一体どこまで続いてるんだ」

そんな中、バーグが自分の不安を隠すようにボソッと呟く。


 どのくらい歩いたか不意に、松明の火が右側の壁に鍵穴の付いたドアを照らした。


 ジェイクがアリサにアイコンタクトすると、ドアの横の壁に背中をつけると魔導士のロビンがライティングで鍵穴を照らす。多少弱くなっているが、彼女が仕事をするには十分だった。

手鏡を使い慎重に鍵穴に工具を通し、カチャカチャやること数分、カチッ!という音と共に鍵が開いた。


「ドアを開けた途端、弓が飛んでくるって事はないよな」

フェリアが要らない事を言ってるので思わず突っ込みをいれてしまった。

「弓は飛んで来ないと思うけど矢は飛んで来るかもしれないね」

「#$%&!」

ぎゅーっと、頬っぺたのつねり合いが始まってしまった。喧嘩している私達を横目に安全が確保出来たのか、他のメンツは中に入って行く。


「ハイハイお二人さん、喧嘩はそこまで、どちらも飛んできませんよ」

アリサがドアを開けどうぞ、と促される時、ふと喧嘩と言われて思い出す。

(前世でお父様と言い合い程度だったし、今生では孤立していたから人と喧嘩するなんて初めてかも知れない)


「「すみません」」

と言いつつ、二人で頬を赤くして入ると、そこは応接室のような部屋だった。倒れた椅子や埃だらけのテーブル、本棚には本はほとんどないが、残っている物も触ると崩れて読めた物ではなかった。


「なんだ、お宝の一つぐらいあると思ったが、ゴミばっかりだな」

マッシュがそう言うと、足元に転がっているカップを蹴とばす。


 それよりも、この部屋の奥の壁が崩れて空洞が出来ている。そして奥から水の流れる音が聞こえていたのだ。

水があるなら、二人がいる可能性がある。長時間の冒険において、水の確保は非常に大事な事だ。


「よし、この先に行ってみよう」

ジェイクが先頭に立ち、水源の方に向かい始めるとパーティーの面々もぞろぞろと移動を始める。


「フェリアちょっと」

「なんだよ~」

まだ不貞腐れてる。

「・・さっきはごめんなさい、私が全面的に悪かったです!」

頭を下げると急にご機嫌になってニヤニヤする。

「分かればよろしい」

(調子いいなあ)


「とりあえず、私の背中のバックにそのあたりに転がってるカップとかお皿を突っ込んで頂戴」

「ん?なんでこんなガラクタ・・・あ、そっか旦那の依頼ね、任せとけ」

ぽいぽいぽい

「後とこれとこれ」

「さらにこれと、これ」

ぽいぽいぽい

「ちょっとフェリアさん、今後に支障が出るくらい重いんですが」

「あ、悪い悪い、入れすぎた」

と言いつつ、額縁を取り出してたのを見て、つい言ってしまった。

「待って、それは要る」

結局、結構な量をバックパックに入れる羽目になってしまった。この中に希望に添えるものがあればいいのだけど。


「お~い、何してんだ、みんな行くぞ」

最後尾の法術士カノースが声をかけてくれる。


「はい、すみません~」

「おー今行く」

慌てて二人でパーティーの後ろを追いかけた。



「あったぞ!」

先行するジェイク達の声がした。

近づくにつれ、水流の音が大きくなる。少し行くと、開けた場所に地下河が流れてる場所に出た。


「ここは少し明るいな」

ジェイクは周りを見渡して、隣にいるマッシュに声を掛けると、彼も返事をしながら周りを見る。

「ああ、ってなんだお前それ」

マッシュが私に気が付くといつの間にか背負ってる荷物を指摘する。


「あ、お気になさらず」

「あそこのガラクタ拾って何に使うんだ?」

「ここの遺跡がどの古代王国の物か調べようと思いまして」

「そりゃいいけど、いざとなったら動けるのか?」


 私が口を開こうとした瞬間、向こうの方でバーグの声がした。

「おい、こっち来てみろゴブリンが何匹か死んでるぞ」

「なに?」

皆で現場に急ぐと、剣で切られたらしきゴブリンが死んでいた。傷跡を視ると、つい最近つけられたものとわかる。

 そしてそれが、一定方向に向かって点々と死体があるとなると、この先にいる可能性が高い。


「よし、向かおう!」


 ハルトとパルシェは無事なんだろうか。それにしてもこの遺跡、魔法封じをしたり一体何の為の遺跡なんだろう?久しぶりに心がざらつく。


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