第19話 遠征
レバンドの入り口に二台の幌馬車が用意され、ジェイクとバーグのパーティーが今回はフル装備で集まっていた。そこに見慣れない変な二人組が現れて、困惑していた。
「えっと、あんた達はギルドが言っていた応援の二人か?」
ジェイクは訝し気に聞いてくる、当然だろう。
「あたしはフェリア、そっちの白いのがアンジェリカだ、よろしくな!」
「あまり見た覚えがないんだが、実績はどんなもんなんだ?」
「F級!登録したばかりの新人だけど、剣の腕はそれなりだから期待していいぞ」
フェリアがドヤ顔で胸を張る。
「はぁああ?!」
2パーティーの面々は一斉に驚愕する。
「おいおい、こんな素人寄こすなんて、ギルドのヤツラふざけているのか!」
バーグが怒り出す。まあ、普通の反応だと思う。
「ふざけてるのはそっちでしょ?失敗に予算と人員を割いてくれてるんだから、有難く思わなきゃ」
「なんだと!!」
売り言葉に買い言葉、一触即発状態にアンジェリカが前に出る。
ガスッ!
「?!#$%&」
脛を蹴られ、また悶える。
「あ、あんじぇいたい~」
フェリアの事は無視して、二人のリーダーに頭を下げる。
「大変失礼しました。私たちは救出と合わせて別の依頼をマルセイユ様から受けていまして、それで今回応援という形で同行させてもらいました」
「そ、そうなのか」
バーグは急に魔族の女に頭を下げられ、拍子抜けしたようだった。
「しかし、大丈夫なのか?」
ジェイクが経験のなさを心配する。
「はい、基本的には経験の多い、みなさんの指示に従います。剣の腕はフェリアが言っていたように、遅れは取りませんので」
「わかった、ギルドが送り出すぐらいの人達だ、なによりマルセイユ殿の肝入りとなると、それなりなんだろうな」
「ああ、分かったよ、こちらも了解した」
どうやらジェイクさんは物分かりがいいようだ。バーグさんも一応了承したようだ。
「よし、みんなそれぞれ馬車に乗れ!出発だ!!」
ジェイクが全員に声を掛けるとぞろぞろ移動を始める。
私はフェリアの傍に寄って耳を引っ張る。
「いってて」
「あなたねえ、初日からトラブル起こさないでよ、ただでさえ新人のF級で肩身が狭いんだから」
「わかった、わかったよ~」
さらに声を落として注意する。
「・・・特にバーグの動向には気をつけて」
「ああ、ハルトを睨め着けてたってやつね・・・」
二人で馬車に乗り込むバーグを横目で見る。
そうして馬車に乗り込もうとした時、門番から声を掛けられた。
「おい、あんた確かハルトと一緒にいた毛玉の子だよな?」
私の見た目はずいぶん変わったが頭の角で気が付いたみたいだ。
「ああ、えっと、バグジーさん!その節はどうも」
「気にすんな、それよりハルト助けに行くんだろ?何とか頑張って連れてかえってくれよな」
「はい!任せてください」
心配して待っていてくれる友人がいるというのは大切な事だと改めて思う。
―――前日、アンジェリカの自室―――
ガチャッ
「なに?改まって?」
フェリアが部屋に入って来とアンジェリカは窓辺で外を見ていたのをやめて向き直る。
「ちょっと気になることがあってね」
そう言いながらフェリアにこれまで、ハルトに初めて会った時の見捨てた事、ギルドで睨めつけていた事や今回の行方不明の件など、話した。
「そんな奴は一発締め上げればいいでしょうに」
「あなたのそういう直球な所は好きだけど、今回は自重してちょうだい」
「おい、やめろ、そんな事いわれると夜中襲うぞ」
「窓から叩き落とすわよ」
珍しく照れてる。この間はお尻を見られた時だっけな、意外とシャイなのかもしれない。
「まあ、ただの私の思い込みや勘違いかもしれないし、取り合えず様子見って所ね」
「それで、あたしは何をすればいい?」
「特に何もしなくていいわ、行動に注意してくれればね」
現在―――馬車で移動中
「あんたら変な組み合わせのパーティーだな」
ガタガタ揺れる幌の中で不意にジェイクが声をかけてきた。
「どこか変ですか?」
手を広げ、自分をの姿を左右に見てると、彼が違うと頭を振る。
「そうじゃない、魔族とドワーフのPTなんて見たことない、仲が悪い種族の筆頭だというのに」
「まあ、種族がどうとかじゃなくて、育った環境によるんじゃないかと思いますよ。だからこそ、そんな事に固執はしてないんです私達は」
ジェイクは感心したように頷く。
「たしかに、俺達の勝手な思い込みなのかもな」
「もっとも、こいつがドワーフでない別の生き物なのかも!」
人の膝を枕にして気持ちよさそうに寝ているフェリアの鼻を摘まむ。
「ふぁふががが・・」
「「はははっはっはっ」」
周りのパーティーメンバーもつられて笑っている。和やかに居られるのはいいことだ。
そんな遺跡洞窟への途中、ちょうど三日目のキャンプ中の事だった。
私は夕食を終えて、本日の見張りの同じく担当になっていたジェイクのパーティーメンバーの盗賊アリサと、準備をしていた。
「この辺りは夜中ちょっと寒いからマントを用意した方がいいわ」
流石に手際がいい。アドバイスに従い、皮リュックの中のマントを羽織った。
「ここまでの道程はずっと晴れていてよかったですね」
他愛もない会話の中で思いがけない情報が舞い込んだ。
「まあねえ、大雨の時なんて最悪だからね。とにかく視界が悪くて一番気が抜けないわ」
「私も夜目が効く時はいいですが、雨の中はだめですね」
「うちではパルシェにお願いしてサーチの魔法を定期的に掛けてもらうんだけど、さすがに負担が多いから、結局交代交代になるのよ」
何気に彼女から出た名前にびっくりする。
「え、パルシェさんですか?」
「ああ、ここにはいないわ、行方不明の魔導士の子なんだけど。で、どうしたの?」
「あ、いえ私の知り合いに同じ名前の子がいたんで、ちょっとびっくりしまして」
「ふ~ん」
まだ分からないけど、あの彼女なのだろうか?紋章が確認出来ないとなんとも言えない。どちらにしてもハルトと共にいるなら、とにかく捜索をして見つけないと。そう思いながら、見張りについた。
そんな感じに四日の道程は特に問題なく進み、いよいよ遺跡洞窟の入口へとたどり着く。初めて見る遺跡は山間に岩をくり抜かれた場所に神殿があり、その奥にぽっかりと真っ暗な不気味な入り口が口を開けて、侵入者を待ち構えているようだった。
各自それぞれ荷下ろしをし、ベースキャンプを設置、探索準備に取り掛かる。
「今回は救出が最大の目的だ!ここのベースに各PTから一人ずつポーター二名が荷物や馬車の管理と警護。残りはまとまって進行する」
「二対に分けないんですか?」
私は隣にいたバーグに何気に質問してみる。
「君たちは初めてだから分からないかも知れないが、ここはほぼ一本道で分ける必要がないんだよ」
「問題は何処からともなく襲ってくるゴブリンが厄介なんだ、下手に分けると戦力分散の愚を犯すことになる」
「ゴブリンの巣は想定外でしたしね」
私がそう言うと、バーグはそうなんだ、仕方なかったんだみたいな感じで言い訳をしていた。状況を考えれば撤退は妥当な行動だ。しかしこの人はやたらと評価を気にしすぎている。たしかに冒険者は実績の積み重ねでランクが上がるが・・・慎重なのは別に悪い点ではないと思うのだが、彼はそれを短所だと思ってる節がある。
そんな事を考えていると、ジェイクが編成を発表していた。
「新人の二人は最後尾に付いてくれ、俺とバーグ、アリサが前衛をやる、魔法、回復の面々は中衛、後衛で」
十人という異例の編成はこうだ、前衛に重戦士のジェイクと剣士のバーグ、盗賊のアリサ。中衛は魔導士のマリエラ、ロビン、盗賊のマッシュ、後衛が法術士リンダ、カノース。で、
各員が必要最小限の荷物をまとめ、背負いこむとジェイクの声がかかる。
「出発!!」
松明を掲げ、ぞろぞろと十人は待機の二人を残して暗闇に消えていった。
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