第18話 交渉

 商人ギルトの職員に案内され、応接室に通された。マリアの後に続いて部屋に入ると、そこそこの広さの中に高級な家具が置かれ、その中には古代の調度品が収められてる。

 見渡していると、ある物に目が止まる。古代王国の壺らしいが記憶の奥で見たことがある。たしかお父様の私室に置いてあった壺に似ている。


「おや、その壺に興味があるとはお目が高い」

じっと見ていたら突然声を掛けられ、振り向くと若い紳士が立っていた。


「これは失礼、驚かせてしまったみたいだね」

「あ、いえ、こちらこそ勝手にウロウロしてしまい、申し訳ありません」

うやうやしく頭を下げる。


「そんな事はないですよ、自由に鑑賞していってかまいませんよ」

「この壺は私の父が、前代のエスペローゼ王国から直接買い取った品でして、非常によい品です。今ではこのクラスの物がなかなか手には入らないのが残念ですが」

 壺を眺めながら難しい顔をする。

「古代オルトエ王国の調度品は遺跡が少なく貴重ですからね」

そう言うと紳士は目を丸くして私を見ていたが、ニッコリするとマリアの方に向かった。


「さて、何かあったみたいだね」

そう言いながら紳士はソファーに座り、足を組んで、目の前の面々を見渡す。


「レオン・マルセイユ様、私は冒険者ギルド代理で参りましたマリア・オーランドと申します。この二人は当ギルドの冒険者アンジェリカ・フェルベールとフェリア・アーチです」

マリアの後ろに立ち、後ろ手に組んで頭を下げる。


「実は・・・」


 マリアが大方の状況をレオンに話すと、しばらく考えてから口を開いた。

「いいでしょう、追加予算は出します。このままだと投資は無駄になるし、二人を見捨てると私の依頼は以降、受けて貰えなくなりそうだしね」


「いえ、そんな事は・・」

マリアは否定したかったが、冒険者の気持ちからすると使い捨てにする依頼者に見えてしまうのも否めない。本来、冒険中のトラブルはギルドが持つのだが、今回は、ギルドと依頼者レオンの共同ミッションな為であった。


 そして、レオンが私と目が合うとニヤリとして、言葉を続ける。

「但し、予算を出す条件が一つあるんだ」

「はい、当ギルドで出来ます事ならば・・・」

「難しい事じゃないよ、君の後ろにいる二人にも参加してもらう」


「「え?」」

三人同時に声をあげる。

マリアがあわててレオンに説明する。

「あの、この二人は冒険者に登録したばかりの新人でして、経験不足が否めないと思いますが」

「そうなのかい?でも、僕はね割と人を見る目があるんだ。二人はどうだい?」


「旦那から期待されちゃ引けに引けませんな」

「行方不明の一人は私の友人です。是非に」

私とフェリアが即答すると、マリアは渋々了承する。

「わかりました、そこまでおっしゃるならこの二人には捜索隊に参加させます」


「旨く成果が挙げられたら、二人には別で報酬を用意しよう、僕の言った意味わかるよね?」

「マジですか!がんばります!!」

借金大王のフェリアのやる気が振り切ってるのを見てクスリと笑う。


(要は私達で捜索以外に、調度品集めをして来いという事らしい)


 そしてレオンは私の方に目を向けると

「あの壺を説明なしでオルトエの調度品と見抜いた君の慧眼に期待してるよ」

「あ、はい、マルセイユ様の期待に応えられるよう精進します」

「ふふ、そんなに堅苦しくなくていいよ、レオンと呼んでくれ」

「はい、レオンさん」

 堅苦しさが抜けないアンジェリカをハハハと笑いながら、肩をポンポンと叩いて応接室から出ていく。



「はあ~」

一息つくとマリアが近づいて来て興奮している。

「アンジェ!あなたすごいわよ、あのマルセイユ様に気に入られるなんて!」

 いつの間にか愛称になってる。


「ちょっと、骨とう品に興味あったからよ」

「それでも古代の調度品を見抜くなんてすごいわよ」


「まあ、一国のひめ・・・痛!!」

ガスッっとフェリアの脛を蹴とばす。

「――$%&#」

「?」

痛がってるフェリアをみて不思議そうな顔をする。


「まあ、何にしても追加予算は確保できたわ!早速準備してもらわないと」

「あなた達も早速準備に取り掛かってね!」

マリアは成果を上げることが出来て、俄然やる気が上がってるようだ。


「さあ、遊んでないで家に戻って出立の準備よ」

「よっしゃ!初仕事はハルトの救出作戦ってわけか」


 (ハルト、どうか無事で・・・)



               ◆ ◆ ◆



 パチパチパチ、小枝を燃やし何とか火を保っている。どのくらい時間がたっただろうか?

 運よくデットスポット的な地下河川を見つけ、水の確保は何とか出来ているが、問題は食料だ。後何日持つか分からない。こんな状況だが彼女は何故か元気だ。希望を失っていない。一度、彼女に聞いてみたが、よくわからない返事が返って来る。


「わたしは神の導きによって、生まれ変わったのですからこんな所で、死ぬわけがありません」

パルシェは魔導士だと思っていたが、僧侶並みに信心深いようだ。


 その彼女を見ると、さっきから手帳に何やら書き込んでいる。

「何をそんなに一生懸命やってるんだ?」

 ハルトが聞いてみると、顔を上げ笑顔でこれですと、見せてくれた。

「これは、俺達が出口を探し歩いた道筋がすべて書いてあるのか」

「はい、そもそもマッピングがわたし達のお仕事でしたから」


「おぉ気が利くな、俺は出口の事ばかり考えてたから助かる」

感心して、小柄な彼女の頭をなでようとしたら、スルリと抜けてそそくさと離れる。

 ハルトが何か気に障ったかと問うと

「わたし、ここの所お風呂に入れてないんで、その、あの、臭うと思うので」

顔を赤くして照れている。年相応の女の子らしい反応だ。


「悪い、気が利かなくて」

「いえ、わたしが勝手に気にしてるだけなので、ハルトさんは悪くないです」

「そうか、そんなに気にしなくていいぞ、俺も臭いからな」

二人の笑い声は洞窟に響く。


 アンジェリカに初めて会った時の獣臭さに比べれば何ともないだろうなと苦笑する。


 しばらく試案を練っていると、岩陰に蠢く影を見つけた。ゴブリンだ、こんな所にも。

「パルシェ、ゴブリンだ」

剣を抜き、警戒する。

「探知(サーチ)に引っかからなかったみたいです」


「思ったんだが、この遺跡の洞窟は魔法の力を著しく低下させてる気がする」

「やっぱり、ファイヤーボールが一撃でゴブリン一匹すら倒せなかったんで、自分の魔力不足を疑っちゃいました」

てへへと笑っているが、予想以上に深刻な状況だと焦りが顔に出ている。


「数は五匹くらいだ、応援を呼ばれる前に突破しよう」

「はい」

 杖を背中にしまい、腰のナイフに持ち替える姿を見て、ハルトはこういう切り替えをすぐに出来る魔導士はいいなと思う。自分のパーティーところじゃ、近接戦でも杖を振り回してるだけだしな。


 地下河川の岸に向かって走り始めると、何匹かすぐに追いすがって来た。

「チッ!」

 飛び掛かる敵を切り伏せるが、尚も次から次へと追いかけてくる。

横を走ってるパルシェを見ると腰のポーチから袋を取り出しゴブリンに投げつけていた。とたん、バフッっと煙が立ち込めたと思ったら、数匹のゴブリンが転がって苦しんでいる。


「何を投げたんだ?」

「料理に入れる香辛料を少々、激辛ですが」


感心しながら、転がってるゴブリンに止めを刺して行き、さらに進むと奇妙な扉を見つけ、パルシェの手を引きその扉へと向かった。


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