第17話 行方
お風呂から上がると、鎧を抱えてフェリアが私の部屋に来た。
「一応サイズの調整をするから着てみて頂戴」
袋から出すと、白い鎧が出てきた。
「私、白って言ったかしら?」
「ああ、色の注文は聞いてなかったんで取り合えず似合いそうな色をね」
白いガントレットを手に取ってジッとみる。アキラ君と対峙した最後の戦いが脳裏に浮かぶ。これも何かの因縁の様な気がした。
その様子をみてフェリアが指を差して説明を始めた。
「一応注文通り、ガントレットの裏に仕込みナイフが二本入るようになってる」
「流石、有難う!」
取り合えず下着の上から腕、足、胸、腰と付けていく。
「うん、軽いし悪くない・・けど、何故か胸の部分が左右に分割された挙句、面が少ないんですが」
「この分割はなに?」
フェリアは不思議そうな顔して私の胸を指さす。
「アンジェは剣士だけど、大きい胸に一枚板つけると返って、腕の移動範囲が窮屈になると思って、そうなったんだよね」
「な、なるほど」
若干疑問が残るが、腕が自由に動かせないのはたしかに問題がある。しかし、彼女が悪ふざけなしで真剣に考えてくれた事にちょっと感動すら覚える。
「でも、そうなると内側に何か着ないと変だよねえ・・」
私が言うより早く、ドアが勢いよく開いてリルルが入って来た。
「そこで、ぼくの出番なのです!」
(あ、すごく嫌な予感がする)
「下に着るのはまず、これ!」
と言いつつ出してきたのは太もも辺りまである
「あの・・」
「どっち?」
目をキラキラさせて聞いてくる。
「・・・じゃあ、黒で」
「そうなると、腕もこっちだねぇ」
そう言うと腕も黒の手袋出してきた。まさかこの調子で全部コーディネートされるわけ?それと君達いつの間にそんな仲良くなったの?
その後小一時間、着せ替え人形のようになって二人に弄ばれた。フェリア、あなたが真剣にと言った部分は撤回しようと思います。
翌日、マダムから朝食の用意が出来たと起された。昨日の喧騒で若干、寝不足気味ですが、この香りには抗えません。
髪を梳かし、あんまり着たくはないけど折角、用意してくれた装備に身を包む。
そろそろ仕事しないと、懐が寒くなってきたのとフェリアの借金やパルシェの情報収集など、やることが山のようにある。フェリアが愚痴をこぼしていたけど、秘密裏に封印をするなら、神様に行動資金の提供をお願いするべきだったのかも知れない。まあ、フェリアの場合は・・・自業自得だと思う。
「おはようごさいます」
リビングに降りて、マダムに挨拶しながら席に着くと目の前にいい香りの朝食が用意されてる。
「おはよう!」
「あらぁ、とても似合ってるわよ~」
「アハハ・・どうも」
苦笑いしながら食事に取り掛かる。そうしているとフェリアが真新しい鎧に身を包んで降りてきた。
「あなた、その恰好・・」
「ふふふ、新生フェリアちゃん参上、またせたな相棒!」
オレンジ色の鎧と黒のインナー姿でへんなポーズを決める。
「待ってないわよ」
そう言いつつ卵焼きを口に放り込む。
「あ~ん、アンジェちゃんたらつめたーい、マダムも思うよね」
席に着くとマダムが食事を置きながら、ニッコリと辛辣な一言
「うちで滞納したら、もっとつめたい目にあうわよ~」
「へ~い」
大方予想していたけど、一緒にチームを組む事になりそうだ。
朝食後、準備を整えて二人で冒険者ギルドに歩いて行く。
「マダムも言っていたけど、ハルトの帰りが遅いのは気になるわね」
「往復八日かかる距離なら、別に変じゃなくね?」
「一週間滞在だとしても、半月超えてるし・・」
そんな会話をしている内に、冒険者ギルドの前に着く。
「まあ、ギルドで情報あるかも知れないし」
そう言いながら、フェリアがドアを開けようとした時、急にドアが開きフェリアの顔面に角が当たった。
ガゴッ!
「いったぁああ!!」
「あ!」
受付のマリアが顔を出してた。
「あ、ご、ごめんなさいね」
「ドアを開ける時は確認してから開けてくれ」
赤くなったおでこを摩りながらフェリアが抗議する。
「あら、こんにちはマリアさん、お急ぎでお出かけ?」
彼女は私を見ると、容姿ですぐに気が付いた。
「あ、たしかアンジェリカさん!ハルト君の・・・彼女!」
「違います」
食い気味に即答する。
「あれ、違った?あ、そうそう、そのハルト君なんだけど・・・」
言いにくそうなマリアの話を要約すると、ハルトたちが向かった遺跡でトラブルがあって、ハルトを含む二名が行方不明。討伐と捜索を含めて、依頼人の商人と交渉に向かう途中だったらしい。
「なるほどな、パーティーの連中は二人を置いてすごすご帰ってるわけだ」
フェリアが呆れたように言う。
「話だけ聞けば、撤退判断は間違ってはいないと思う」
「アンジェ、お前ハルトが心配じゃなかったのか?」
「心配よ、でも心配する事と彼らの取った行動を天秤に掛けるのは違うんじゃない?」
「んまあ、そうだけどな」
複雑な気持ちなのは私も同じだ。ただ、まとめる人間が感情で動いたら被害が大きくなるのも、自身の体験で嫌というほど味わった。だからこそ、冷静に情報を集めて慎重に動くべきなのかもしれない。
「じゃあ、私ちょっと急いで交渉に行ってくるんで」
二人で会話してるとマリアは自分の役目を思い出したのか、慌てて商人ギルドの方に行こうとした時、フェリアが変なことを言いだした。
「あたしらも付いて行っていいか?」
「「え?」」
私とマリアの声が被った。
マリアは少し試案して答える
「取り合えず、交渉している時は大人しくしてて下さい。それと依頼人には無礼を働かないようしてください、フェリアさん」
「なんで、あたし限定なんだよ」
「ギルド登録料を値切ろうとした前科がありますし」
ジト目でフェリアをみると、口笛吹いてよそ見してる。
「じゃあ、付いて来て下さい」
そう促されると、二人でマリアの後に付いて行った。
商人ギルドに入るのは初めてだった。小奇麗でお洒落な入り口を抜けると、書類を運んで右往左往している人の多さに圧倒される。冒険者がたむろって与太話をあちこちでしてるのとは偉い違いだ。
場違いな二人が入って来ると、周りの人々は好奇の目で見てくるのはわかる。魔族の娘とドワーフと娘が仲良く手を繋いで・・・つないで?
「何で、手を繋いでるんです!」
ペッと手を払うと、フェリアが緊張した面持ちでこっちを見て
「あ、あたしさ、こういう真面目な空間苦手なんだよね」
「もう、だったらなんで付いて行くって言ったんですか?」
「いやあ、金儲けの匂いがしたんで・・」
久々に閉口する。
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