第16話 陰謀

 ハルトは腰の水筒を取り出すと、一口飲みパルシェに飲むように促す。

「一口飲んでおけ」

少し迷うような素振りをしながら受け取り口に付ける。

「あんまり飲みすぎるな、水は貴重だ」

「ん、は、はい」

間接的とはいえ、男の人の口をつけたものを飲む行為にパルシェは頬を朱に染めながら、一口飲んで水筒を返す。


 そういえばフードの神様が縁の力は今回の特殊な事案にのみ、発動されると言っていた。・・・という事はこのハルト様との出会いは運命?!


 パルシェがお花畑な事を考えてる横で、ハルトは事態をかなり深刻に捉えていた。

「この遺跡の街は、ゴブリンが住処にしてる事を考えれば出口が一つって訳はないな」

「そ、そうですね、ただ、どれだけの敵がいるのか・・・」

突然、話を振られて慌てて答える。

「取り合えず、慎重に風上に向かって行ってみよう。何か手掛かりが在るかも知れない」

「たしかに、風穴があるかも知れませんし」




 休憩を挟んで二人で動き出した。その様子を崖の上の穴から冷たい視線で見ている男が一人。忌々しそうに眼で追ってると、後ろから声が掛かる。


「おい、バーグどうだ二人は見えるか?」

「静かに!・・・だめだ、この先はゴブリン共が大勢たむろしていて危険だ。やはり戻ろう」

口に指をあて、声を落として報告する。


「こっちもダメか、くそ!現状の装備じゃ捜索もままならない」

パルシェの所属するパーティーリーダーのジェイクが舌打ちをする。その様子を見て他の八人も肩を落とす。


「俺は、撤退を提案する」

バーグがジェイクに提案すると驚いて問いただす。

「おい、お前の仲間が行方不明だってのに、本気で言っているのか!」

バーグは手で制し口を開く。

「まあ、聞け、うちのハルトはアースグリズリーを倒せる実力者だ、あんたの所の魔法使いもそれなりなんだろ?」

「ぼーっとしてるがパルシェはうちの大事な火力だ」

「お互い主力を欠いて尚且つ、装備が心もとないとすれば全滅も覚悟しなければならない、なら力があるうちに一度戻って装備を整えて増援を得るのが得策だろう」


「それは・・そうかもしれんが」

ジェイクにも今の状況がよくない事をわかっていた。それを後押しするように魔導士のマリエラが擁護する。

「バーグの撤退時期判断は正しいと思います。時間が掛かれば生存率も下がるかと」


「みんなはどうだ?」

ジェイクが他のメンツに声を掛けると仲間の盗賊が答える。

「パルシェには悪いけどあたしも撤退すべきだと思う。ハルトってやつがD級の冒険者で実力が確かなら、一週間持たせてみせるんじゃないかしら?」

「アースグリズリーをD級で単独で倒したなら・・」

「撤退を・・」


話し合いの流れが撤退を占め始める。バーグは内心細く笑んでいた。


 ハルト・ランカスター、ヤツとの出会いは酒場で意気投合して二人でパーティーを組んで仕事をするようになった。しかし数をこなしていくうち、戦闘に関する部分で考え方の違いが見え隠れするようになり、仲間が増え現在の六人体制でもリーダーの自分の指示よりハルトの直感で流動的に動く方、奴の方がうまくいく事が多くなっていた。

 マリエラは俺を支持してくれるが、他のメンツはハルトの動きに合わせる事が多く、そんな時にあのアースグリズリーの件である。

あの件で俺は仲間を見捨てたと揶揄されるようになった。ハルトは気にすんなと言うが、それが返って俺をみじめにしているのがアイツにはわかってないんだ。


それで今回の事態だ。俺はアイツと永遠の別れをする為の最大のチャンスだ。



「・・・わかった、悔しいが撤退しよう、全滅してしまったら目も当てられない」

ジェイクは悔しそうに崩れた洞窟を見る。

「うん、そうと決まれば全員撤退準備だ」

二パーティーの十人は装備を整え、出口に向かって撤退を開始した。

誰もが無言で、そそくさと向かう。みんな内心、全滅を恐れていたのだった。


(パルシェ、すまん、俺はダメなリーダーだ)

ジェイクは何度も洞窟を振り返っていた。




                ◆ ◆ ◆




「ふぁ、あーもう一週間以上たったのか」

欠伸をしながら雨が降りしきる窓の外をアンジェは眺めている。

ハルトはどうしてるだろうかなんて考えてると、階下からマダムの呼ぶ声が聞こえた。

「アンジェちゃん、お友達が来たわよ」


 階段を下りて入り口の方を見ると暗い顔して、ずぶ濡れのフェリアが大荷物を持って立っていた。

「何?その恰好、早く入りなさいよ」


 お風呂用のタオルを持ってきたマダムから受け取ると、頭に被せてガシガシ拭いていく。

「アンジェ、鎧出来た」

「あら、意外と早く出来たのねえ」

「ついでに家がなくなった」

「は?」



 リビングでマダムに出されたお茶を飲みながら聞いた話がこうだった。

「なるほど、あの家賃貸だったのね」

「すぐに繁盛して払えると思っていたら、客が来なく気が付いたら半年分貯めてたと」

しょぼくれてコクコク頷く。

「私が払ったお金じゃ足らなかったの?」

「あそこ月々金貨10枚」

あまりのガバガバプランで頭が痛くなる。まあ、ハルトのおかげで安アパートに住んでる私も人の事は言えないが、それにしても金貨10枚・・ってことは借金の額は私の金貨20枚を差し引いても40枚、って思ったら・・・。


「使っちゃって丸々60枚なんだ」

ごん!

「阿保ですか、これからどうするのよ!やらなくちゃいけない事が多いのに」


「そんなわけで!」

マダムの方に向きなおすと、土下座して頭を下げる。

「お願いします!ここに置いてください!!」


「う~ん、此処は冒険者専用のアパートメントなのよねえ」

と渋ると、懐から紐に結ばれたプレートを引っ張り出す。


「フェリア、あなた・・・それ」

呆れて引きつった笑いが出る。


しっかりとF級冒険者の登録をしていたのだ。

そしてその後なんやかんやで、203号室にはフェリアの名前がついた。



カポーン!湯気が天井に上がり、水滴がポツポツ落ちてくる。


「冷た、・・で、結局向こうの大家さんには話ついてるの?」

湯船に浸かり、頭を洗ってるフェリアに問いかける。

「取り合えず、半年待ってくれるって、但し利息がついて70枚だけどね」

「おいい」

私が狩人生活で金貨35枚溜めるのにどれだけかかったか・・


「まあ、冒険で遺物を見つけて一攫千金をすれば楽勝でしょ」

相変わらず楽観的なプランで呆れる。

「そんなガバガバプランを言う悪い子はヘマチの刑にする」

ザバッ!と湯船から出て、頭を洗ってるフェリアの背中をゴシゴシと思いっきり擦り始める

「ぎゃああああ、やめろぉぉおお!!」

二人泡だらけでじゃれ合ってたら、フェリアのお尻が眼前に来た。


「あ、本当にお尻に紋章があるのね」

自分の紋章は鏡以外、よく見えないのでマジマジ見ていたら

「あのぉ、さすがのあたしも恥ずかしいので、ご勘弁を」

めずしく殊勝なフェリアであった。




ついでにヘマチは食べられない実を干して乾燥させてから種など要らない部分を取ると繊維のみ残りそれを利用して体や食器を洗う道具。初めてここに来た時にリルルに思いっきりやられた思い出の品。そういえば、アキラくんの世界にも似たような物があるとかないとか。




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